吉田松陰の思想
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
戦後、奈良本辰也は吉田松陰を「敗者」と捉えた
吉田松陰の思想(上)松陰像の変遷(2)国士・敗者・ヒューマニズム
中島隆博(東京大学東洋文化研究所長・教授)
多様な吉田松陰像は、その時代の空気を鮮やかに映し出す。明治から戦前にかけて流布したナショナリスト・松陰というイメージは、戦後になると孟子の性善説に基づいたヒューマニスト・松陰へと変化した。東京大学東洋文化研究所教授・中島隆博氏が、時代によって松陰像が異なっていく理由を、田中彰氏の『吉田松陰 変転する人物像』を手引きに明らかにしていく。シリーズ「吉田松陰の思想」第2回。
時間:11分45秒
収録日:2015年2月26日
追加日:2015年7月16日
≪全文≫

●戦前―ナショナリスティックな松陰像


 もう一度、田中彰先生の話に戻ります。明治41(1908)年に、帝国教育会が松陰没後50年という記念大会を行っています。この記念大会の演説者には徳富蘇峰も含まれていますが、東京帝国大学の哲学の先生だった井上哲次郎、それから嘉納治五郎といった人々が、松陰没後50年の記念大会に参加しています。ここで、明治における松陰の位置が大体定まっていったのだろうと思います。

 その後に、松陰という思想家は、ある意味でナショナリスティックな価値を体現する人物として利用されていく側面が出てきたのだろうと思います。田中先生が指摘しているように、松陰の国士的側面がこの時代から強調されていきます。例えば、田中先生は、安岡正篤の『吉田松陰と国士的陶冶(とうや)』という論文から、こういう引用をしています。

 “凡(およ)そ我等日本の民なるかぎり、内なる神――あきつかみ(現神)――あらひとがみ(現人神)に奉仕するを光栄とする。内外合一――主客一致――物心一如の理法はわが国家に於て明きらかに証されて居る。松陰は徹頭徹尾この光栄に生きた醇乎(じゅんこ)たる日本国士である。”

 (総じて私たちが日本人である以上、天皇に奉仕することは光栄である。わが国では、内と外、主体と客体、物質と精神が一致する(=天皇と日本国民が一つになる)ことは、明らかに証明されている。松陰は徹底して、この光栄に生きた純粋な日本国士である。)

 これは、安岡の松陰像そのものを非常に的確に表したものだと思います。日本は近代陽明学を発明し、それを軸にして近代思想を組み立てていきますが、安岡正篤はその陽明学の研究者としても有名ですし、それを社会的な実践に生かしていった人です。後に新官僚といわれる人たちの精神的な支柱になっていくのが、この安岡という人物です。その安岡が、大正13(1924)年時点で松陰のことをこういう形で定義しているのは重要なことだと思います。

 その後、尋常小学校の教科書の中でも、松陰は取り上げられるようになります。松陰は日本の国体を明らかにし、皇室を尊んだ立派な人物である、お国のために尽した人物であるといった言い方がされます。また、「松陰主義」という言葉までつくられ、個人主義を捨てて、天皇のためお国のために、力の限り働くという考え方として「松陰主義」が賞揚されるようになっ...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
「50歳からの勉強法」を学ぶ(1)大人の学びの心得三箇条
大人の学び・3つの心得=自由、世間が教科書、孤独を覚悟
童門冬二
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
ヒトはなぜ罪を犯すのか(1)「善と悪の生物学」として
ヒトが罪を犯す理由…脳の働きから考える「善と悪」
長谷川眞理子
もののあはれと日本の道徳・倫理(1)もののあはれへの共感と倫理
本居宣長が考えた「もののあはれ」と倫理の基礎
板東洋介
世界神話の中の古事記・日本書紀(1)人間の位置づけ
世界神話と日本神話の違いの特徴は「人間の格づけ」にある
鎌田東二
禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅
自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く
藤田一照

人気の講義ランキングTOP10
平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想
平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?
川出良枝
プロジェクトマネジメントの基本(3)プロジェクトのすすめ方
PDCAサイクルを回すための5つのプロセスとそのすすめ方
大塚有希子
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(2)『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏への道
『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏のすごさ…波へのこだわり
堀口茉純
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
熟睡できる環境・習慣とは(3)睡眠にいい環境とお風呂の入り方
布団に入る何分前がいい?入眠しやすいお風呂の入り方
西野精治
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
定年後の人生を設計する(1)定年後の不安と「黄金の15年」
不安な定年後を人生の「黄金の15年」に変えるポイント
楠木新
内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害
ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害
島田晴雄
経験学習を促すリーダーシップ(3)成功の再現性と教え上手の指導法
教え上手の指導法に学ぶ!成功の再現性を高める4ステップ
松尾睦