吉田松陰の思想
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
忠義が宗教的なまでに超越化され、制度を突き抜ける
吉田松陰の思想(上)松陰像の変遷(5)思想の強度
中島隆博(東京大学東洋文化研究所長・教授)
吉田松陰の短い人生そのものが、彼の唯一の主著なのだ。戦後の思想家・藤田省三氏の指摘を端緒に、東京大学東洋文化研究所教授・中島隆博氏が「可能性としての松陰」に触れる。松陰の思想は、制度にかかわらず個人の内面を問題にする「誠」の観念に貫かれている。これこそ、時代を超えた批判精神を体現する、松陰の思想の魅力なのだ。シリーズ「吉田松陰の思想」第5回。
時間:9分11秒
収録日:2015年2月26日
追加日:2015年7月27日
≪全文≫

●松陰の短い生涯そのものが唯一の主著


 藤田省三さんは丸山眞男との間には非常に親しい関係があったので、二人の松陰像が似ているのは、当然といえば当然かもしれません。藤田さんは『松陰の精神史的意味に関する一考察』(1978年)という論文を書いています。そこで述べられていることを紹介したいと思います。これは、これまで縷々(るる)述べてきた思想家・松陰に対する考えを、藤田さんなりに非常にうまくまとめたものだと思います。こう言っています。

 “或る人の作品が独立してどんな時代に対しても一定の普遍的意味を持っている事を「思想家」の要件であるとするならば、松陰は思想家とは言い難い。彼にはそういう作品がないだけでなく、そういう作品を生み出すための精神的基盤が―「世界に対する徹底的な考察的態度」―がおそらく欠けていたのである。”

 これは、井上哲次郎の松陰評をある仕方で受け継いでいますが、藤田さんはそんな単純な人ではないので、この松陰のあり方から、可能性としての松陰をあぶりだそうとしていると思います。次に紹介するのは非常に印象的な部分で、こんなことを言っています。

 “松陰には主著はなく、彼の短い生涯そのものが彼の唯一の主著なのであった。”

 ですから、実は松陰について論じる場合は、ほとんどが松陰伝になるのですね。今でも松陰伝という形のものがほとんどだと思います。そのことの意味を、藤田さんは明確にしています。彼の短い生涯そのものが、唯一の主著なのだということなのです。


●制度化に収まらない宗教的絶対性の可能性


 そして、前回取り上げた宗教性に関して、こんなことを言っています。

 “しかし他面では、一度、忠義の廻転が絶望的に見えるようになると、「もはや天朝もいらぬ、幕府もいらぬ、君侯もいらぬ、忠義をつくすにはこの六尺の微躯一つだけあれば沢山だ」という忠義の個人的内面への収斂が現われるのであった。忠義という君臣社会の現世的倫理がここでは現世性を投げ棄てて、殆ど宗教的なまでに超越化しようとしている。それは超越的価値に対するものではないから客観的形態における宗教とはなり得ないけれども、彼吉田松陰の内面においては宗教的な機能形式をとっていたのである。本来、宗教に似て非なるものであった忠義が、周囲の世界の全てから裏切られ、その孤独の中でいよいよ深く確信されていった時、一個の宗...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
西洋哲学史の10人~哲学入門(1)ソクラテス 最初の哲学者
ソクラテス:「フィロソフィア」の意味を問う最初の哲学者
貫成人
人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(1)随伴性
「なぜ人は部屋を片付けられないか」を行動分析学で考える
島宗理
禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅
自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く
藤田一照
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
楽観は強い意志であり、悲観は人間の本性である
これからの時代をつくるのは、間違いなく「楽観主義」な人
小宮山宏
死と宗教~教養としての「死の講義」(1)「自分が死ぬ」ということ
世界の宗教は死をどう考えるか…科学では死はわからない
橋爪大三郎

人気の講義ランキングTOP10
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想
平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?
川出良枝
編集部ラジオ2025(30)西野精治先生に学ぶ「熟睡の習慣」
熟睡できる習慣や環境は?西野精治先生に学ぶ眠りの本質
テンミニッツ・アカデミー編集部
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――自分にあった「理想的睡眠」の見つけ方
西野精治
プロジェクトマネジメントの基本(4)スケジュール・マネジメント
スケジュール管理で重要な「クリティカル・パス法」とは
大塚有希子
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質
脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは
鎌田東二
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
島田晴雄
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦