吉田松陰の思想
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孟子の易姓革命論をいったん批判したうえで継承する
吉田松陰の思想(下)松陰の思想の中核(3)革命観と性善説 
中島隆博(東京大学東洋文化研究所教授)
吉田松陰は、たとえ聖人の書いた著作でもそれにおもねるなと言う。それは、孔子や孟子の生き方が、松陰なりの「忠」の考え方と衝突するからだ。東京大学東洋文化研究所教授・中島隆博氏が、中国と日本の違いを意識しつつ、独自の『孟子』読解に取り組み、新たな可能性を切り開こうとした松陰の思想を『講孟余話』を手引きに語る。シリーズ「吉田松陰の思想」第8回。
時間:13分36秒
収録日:2015年2月26日
追加日:2015年8月6日
≪全文≫

●我こそが孟子を読むことができる


 せっかくの機会ですので、『講孟余話』を少しだけ読みたいと思います。その序文にはこんなことが書かれています。

 “孟子は聖人の亞(※)なり、その道を説くこと著明にして人をして親しむべからしむ。世、蓋(けだ)し讀(よ)まざるなし。”
 ※次、二番目、準じているということ。

 孟子は聖人に匹敵するものである。だから、その説く道に対しては、皆、親しんでいくものであり、読まないわけにいかないのだ、ということです。これは、孟子のある種の普遍性に関わる問題を提起しています。ところが、こう言います。

 “讀みて而(しか)も道に得る者、或は鮮(すくな)し。何ぞや。”

 読んでも道を得ることができる者は少ない。どうしてなのか。ここで松陰は次のように言います。

 “富貴貧賤、安樂艱難の累(わずら)はす所となりて然るなり。”

 人間には、自分が置かれている条件がある。そのため、なかなか『孟子』をきちんとつかまえることができない。特に「富貴」「安樂」といった「順境」にある人はそれができない。自分のように、「艱難」「貧賤」といった「逆境」にある者こそが、『孟子』を読むことができる。松陰は、こういう言い方をしています。非常に松陰らしい口吻だと思いますが、これは通常の状況にいる人が『孟子』を読むことなどできるのだろうかという問いを出しているわけです。

 松陰は、こんなことも言います。

 “孟子の説は固(もと)より瓣(べん)を待たず。然れども之を喜びて足らざれば乃ち之を口に誦(よ)み、これを誦みて足らざれば乃ち之を紙に筆す。亦情の已(や)む能(あた)はざる所なり。”

 松陰は、われこそが『孟子』を読むことができると言います。そのとき、『孟子』を読んで喜びが湧いてきます。そして口に出して読む。それでも十分ではないと思えば紙に書く。「情の已む能はざる所なり」、つまり、非常に実存的に『孟子』を読み、『孟子』に迫るということです。普通の注釈家が『孟子』を読む態度とは全く違う態度を、松陰は「序」で述べているのです。


●ただ孟子を継承しているわけではない


 恐ろしいのは、その冒頭です。原文もあるのですが、松本三之介先生・田中彰先生・松永昌三先生が行った非常にいい翻訳があるので、それを基にしてお話をしたいと思います。

 『講孟余話』の最初で、松陰はこ...

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