吉田松陰の思想
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
吉田松陰が導入した孟子の民本思想
吉田松陰の思想(下)松陰の思想の中核(1)『講孟余話』の挑戦
中島隆博(東京大学東洋文化研究所長・教授)
吉田松陰にとって、武家支配の正統性を危うくする危険思想だとされてきた『孟子』を読むことは、大きな思想的挑戦だった。『孟子』に通底する民本思想が、松陰の平等主義的な思想と響き合い、武家支配体制の批判すら視野に入れた『孟子』読解を支えていた。東京大学東洋文化研究所教授・中島隆博氏が、吉田松陰の『講孟余話』を徹底解説する。シリーズ「吉田松陰の思想」第6回。
時間:6分23秒
収録日:2015年2月26日
追加日:2015年7月30日
≪全文≫

●『孟子』を読むことが重要な思想的挑戦


 それでは、吉田松陰の思想の続きです。ここから本格的に、松陰の思想の中心に迫ってみたいと思います。「彼の人生自身が主著だ」と藤田省三さんは言っていましたが、その中であえて取り上げるべきものを選ぶとすれば、『講孟余話』、以前は『講孟箚記(さっき)』と呼ばれた著作です。つまり、『孟子』を読むということですね。これが松陰にとっては、非常に重要な、思想的挑戦だったのだろうと思います。

 どうやら『孟子』は、奈良時代に日本に入ってきたようです。後に『孟子』は危険思想と見なされていくようになるのですが、少なくとも中世くらいまでは『孟子』がそこまで危険な本だとは思われていなかったようです。

 それでも、『孟子』はだんだんと危険思想扱いされていきます。なぜなら、『孟子』の中に「易姓革命」を支持する文面があるからです。日本の場合は、天皇と武家という二つの極が統治に関わっていたので、もし孟子の思想を本格的に適用してしまうと、武家支配の正統性が揺らいでしまう危険が出てきます。そのため、『孟子』を読むことが敬遠されていくようになります。17世紀の中国にも採録されている話ですが、『孟子』を積んで日本に向かう船は転覆するということがまことしやかにいわれていたのは、日本の支配体制の複雑さを示しているという気がします。

 『孟子』を本格的に読むということが、中国で新たな脚光を浴びるようになったのは、宋学の出現以降です。朱熹が『孟子』を経書に引き上げていったことに、とても大きな意味があったのだろうと思います。『論語』『大学』『中庸』と並んで、『孟子』が四書の一つになっていったわけです。これが、新儒学ともいわれる中国の宋学の画期的な方向性だったのだろうと思います。

 松陰は、その朱熹が注を付けた『孟子集註(しっちゅう)』を読み、それを使って議論をしています。


●松陰が導入した孟子の民本思想


 ここで問題になるのは、松陰の読む『孟子』が、武家支配の正統性の問題にどこまで関わっているかということです。すでに説明したように、松陰のスコープ(視野)の中には、非常に広い範囲の「人々」が入ってきています。それはおそらく、孟子の民本思想の「民本」という部分とつながる面があると思います。松陰はその点で、孟子の思想を大変よく導入したのだろうと思います。
...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
「50歳からの勉強法」を学ぶ(1)大人の学びの心得三箇条
大人の学び・3つの心得=自由、世間が教科書、孤独を覚悟
童門冬二
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾
津崎良典
世界神話の中の古事記・日本書紀(1)人間の位置づけ
世界神話と日本神話の違いの特徴は「人間の格づけ」にある
鎌田東二
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
今こそ問うべき「人間にとっての教養」(1)なぜ本を読むことが教養なのか
『人間にとって教養とはなにか』に学ぶ教養と本の関係
橋爪大三郎
西洋哲学史の10人~哲学入門(1)ソクラテス 最初の哲学者
ソクラテス:「フィロソフィア」の意味を問う最初の哲学者
貫成人

人気の講義ランキングTOP10
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾
津崎良典
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割
豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割
黒田基樹
渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(1)古き良きキリスト教社会
古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著
渡部玄一
インテリジェンス・ヒストリー入門(1)情報収集と行動
日本の外交には「インテリジェンス」が足りない
中西輝政
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
平和の追求~哲学者たちの構想(4)ルソーが考える平和と自由
ルソーの「コスモポリタニズム批判」…分権的連邦国家構想
川出良枝
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制
『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割
今井むつみ
編集部ラジオ2025(31)絵で語る葛飾北斎と応為
葛飾北斎と応為の見事な「画狂人生」を絵と解説で辿る
テンミニッツ・アカデミー編集部
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(2)『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏への道
『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏のすごさ…波へのこだわり
堀口茉純
生成AI「Round 2」への向き合い方(5)生成AIの活用イメージ
Copilotの提供方法を紹介~一般向けから業務特化型まで
渡辺宣彦