吉田松陰の思想
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
天下は一人の天下―普遍に到達する「道」の模索
吉田松陰の思想(下)松陰の思想の中核(5)現在進行形の思想
中島隆博(東京大学東洋文化研究所長・教授)
吉田松陰と長州藩老中・山縣太華との「原理」をめぐる応酬、これこそが「現在進行形の思想家」松陰をつくり上げた。今日の私たちも、再び彼らの営為を継承しなくてはならない。東京大学東洋文化研究所教授・中島隆博氏が、現代の国際社会でも通用する「問い」を生み出した存在として、松陰の思想を鮮やかによみがえらせる。シリーズ「吉田松陰の思想」第10回(最終回)。
時間:14分21秒
収録日:2015年2月26日
追加日:2015年8月13日
≪全文≫

●「天下は一人の天下なり」


 吉田松陰の思想で大変面白いものがあります。松陰は『講孟余話』の他にもいろいろな文書に書いているのですが、例えば非常に有名なところで、「天下は一人(いちにん)の天下あらず」というものがあります。これは中国で主張された考えです。天下は私(私物化)するものではない。天下は天下のための天下である、ということです。これは一見すると非常にもっともな意見だと思いますが、それに対して松陰は違うとして、「天下は一人の天下である」と言っていくわけです。もちろん、日本のことを念頭に置いて、です。

 ですが、この「一人の天下」という場合、この「一人」にはものすごい負荷がかかりますね。以前に決断の話をしましたが、「一人の天下」として天下を背負える人は、そう簡単にいるわけではないのです。「天下は一人の天下である」と述べることで、松陰はものすごく大きな負荷をそこにかけ、単純に大きな原理としての天下ではなく、小さな原理を突破して普遍性に達する道を模索しているということが考えられるかと思います。


●朝廷への要求(1)外夷討伐の正論確立へ


 もう一つ、紹介しようと思うのは、上記のように、非常に強い負荷がかけられる天皇に対して何を言っているかということです。こんなことを言っています。

 “私の見解では、天皇みずからが、天下に勅をお下しになり、あらゆる忠臣義士を御召集になり、また、尾張・水戸・越前の諸藩をはじめ、正義の士で処罰されたり、あるいは有志の士でも下賤の身分ゆえにうずもれている者をことごとく天皇の御前にお集めになり、外夷討伐の正論を堂々と確立されたいのである。”

 単なる尊皇攘夷の思想だと読まれかねないところなのですが、よく考えてみれば、天皇にこういうことを要求しているわけです。ここで松陰は、ある種ものすごく政治的な介入をしているわけです。それが日本の場合は可能なのだと、松陰は考えているということです。

 松陰が非常に原理的な考え方をしたことは、彼の魅力でもあると同時に、簡単に悪用される危険性をはらんでいます。ただ日本という原理を考え抜いておかないことには、普遍的な原理に対しても関係はつくれません。彼はやはりヨーロッパのことを見ていて、ヨーロッパの兵学の方が優れていると分かっているわけです。その上で、日本は原理を確立しなければ太刀打ちできないの...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
今こそ問うべき「人間にとっての教養」(1)なぜ本を読むことが教養なのか
『人間にとって教養とはなにか』に学ぶ教養と本の関係
橋爪大三郎
西洋哲学史の10人~哲学入門(1)ソクラテス 最初の哲学者
ソクラテス:「フィロソフィア」の意味を問う最初の哲学者
貫成人
北欧神話の基本を知る(1)世界でもっとも悲観的な神話
世界滅亡を予言!?人類史上もっとも悲観的な北欧神話とは
鎌田東二
「心から幸せになるためのメカニズム」を学ぶ(1)心理学研究と日本の幸福度
実は今、「幸せにも気をつける」べき時代になっている
前野隆司
「アカデメイア」から考える学びの意義(1)学びを巡る3つの危機
「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機
納富信留

人気の講義ランキングTOP10
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(6)評価制度設計と「夢」の重要性
なぜ二本立ての評価制度が必要か…多種多様な人材の評価法
水野道訓
いま夏目漱石の前期三部作を読む(1)夏目漱石を読み直す意味
メンタルが苦しくなったら?…今、夏目漱石を読み直す意味
與那覇潤
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
ケルト神話の基本を知る(1)ケルト地域と3つの神話群
ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話
鎌田東二
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(2)言葉を理解するプロセスとスキーマ
なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ
今井むつみ
東大ハチ公物語―人と犬の関係(1)上野英三郎博士とハチ
忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論
一ノ瀬正樹
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫