社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.02.15

日本は「劣化国家」の道をひた走るのか?

 『劣化国家』という手厳しいタイトルの書籍を、ハーバード大学の気鋭研究者であるニアール・ファーガソン氏が書いています。内容は日本のことではなく西洋の衰退についてですが、日本にも当てはまる部分が多い、と明治大学大学院で公共政策プログラムを教える田中秀明氏。何が国家を劣化に向かわせ、しかも国民には「痛み」を感じさせないのか。日本の経済状況に、希望はあるのでしょうか。

将来世代に負担を押し付ける国は「徐々に沈んでいく」

 『劣化国家』において問題にされるのは、経済や産業のみならず法や教育などあらゆる制度の衰退です。マイナス成長や不安定な政治が続いて将来に望みが持てないと、若い人たちの学習意欲が減退し、国を支える重要な産業につける割合が減っていくからです。

 なかでも日本にとって耳が痛いのは、雪だるま式に増える借金の問題。日本とアメリカでは金融緩和が続き、負担を将来世代に押し付けながら、ゼロ成長が続いています。こうした対策について、ファーガソン氏は「危機はすぐに起きないが、徐々に沈んでいく」と指摘しているのです。

 世代間の不公平さを測る指標は「基礎的財政収支(プライマリーバランス)」です。赤字が出ると現役世代が受けているサービスが将来的には保証できないことを表し、財政の持続可能性にも陰りが見えてきます。

 日本では1993年以来、24年連続の赤字をマークしています。安倍政権は基礎的財政収支の黒字化を2020年と区切り、国際公約にしていますが、今や達成できるかどうかは風前の灯火と言っていいでしょう。

ギリシャ危機で連鎖破綻が起こった経済のグローバル化

 国債により財政破綻に陥ったギリシャの経済規模は、日本の約20分の1ほどでした。ギリシャが危機的な状況に陥っても、世界的には大した影響はないだろうと考える専門家もいたほどです。

 ところが実際には、ドイツやフランスの金融機関が連鎖的に破綻し、大きな騒動となりました。経済がグローバル化した現在、小さい国の国債の問題とはいえ、その国の財政だけでなく、世界的な金融危機に発展する恐れがあるのです。

 国際的な信用を表す「債務残高GDP比」も、年々伸びている今の日本。個人にたとえれば、大した稼ぎもないのに大きな借金を抱えている状況といえるでしょう。それなのにわたしたち国民が「痛み」を感じていないのは、先に言ったように、負担を将来世代に先送りにしているからであることを認識しておきましょう。

家計金融資産が国の借金を下回るXデーはいつ?

 日本財政は赤字でありながら、経常収支では今のところ黒字を保っています。それは、各家庭の預貯金(金融資産)額が国の借金を上回り、外国に頼る必要がないと計算されるからです。ただ、この状況もいつまでも続くわけではありません。大和総研の試算では2020~30年には家計金融資産が政府の借金より小さくなるXデーがやってくると予測されています。

 少子高齢化で人口が減りつつある日本に、海外の投資家が低金利でお金を貸してくれるかどうかは疑問だと田中氏。若者たちの間で「〇〇離れ」が進む風潮も、こうなるとただの無欲ではすまされません。日本が「劣化国家」となる明日は案外近くまで迫っているのかもしれません。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造

宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13
岡朋治
慶應義塾大学理工学部物理学科教授
2

図書館の便利な活用法…全国の図書館からの「お取り寄せ」

図書館の便利な活用法…全国の図書館からの「お取り寄せ」

歴史の探り方、活かし方(2)図書館「レファレンス」の活用

公共図書館では質の高い「レファレンス」サービスを提供しているが、活用する人は限られている。だが、実は全国の図書館ネットワークを縦横無尽に活用できる、驚くほどに便利な仕組みなのだ。今回は図書館のレファレンスで何が...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/15
3

知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」

知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方

人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
4

脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは

脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質

「ワット・ビット連携」の概念がある。これは神経と血管の関係にも似ており、両者が密接に関係するところから、それをもとに人間の本質について考察していくことになる。また、中村天風の思想から着想を得て、人間の心には霊性...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/13
5

なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ

なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ

編集部ラジオ2025(27)なぜ何回説明しても伝わらない?

「何回説明しても伝わらない」「こちらの意図とまったく違うように理解されてしまった」……。そんなことは、日常茶飯事です。しかしだからといって、相手を責めるのは大間違いでは? いやむしろ、わが身を振り返って考えないと...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/13