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DATE/ 2018.03.01

病気に指定?「ネットゲーム依存」の恐ろしさ

 パチンコや競馬などのギャンブル中毒については社会的な問題としてよく知られています。昨今、深刻な問題となっているのがスマホなどネットゲームをやり続けてしまうという中毒症状です。過度なネットゲームへの熱中は、依存傾向を醸成し、麻薬や違法ドラッグと同様の症例を示すことから、デジタル・ヘロインとまで囁かれるようになりました。

脳が壊されていた!

 2012年に発表された中国の研究報告によると、ゲームを含むインターネットへの依存傾向を示す若者とそうではない若者を対象にした脳の画像解析から、依存傾向のある若者グループは、麻薬中毒者に近しい神経ネットワーク機能の低下と変質傾向が認められたとのことでした。

 脳の特定領域の機能低下傾向は、これまでの研究でも報告されていたのですが、この報告に世界が驚いたのは、神経ネットワークの器質的な変化を示すものであったからです。器質的な変化とは、麻薬中毒者と同様に脳が壊れてしまうという可能性であり、それが、重度のゲーム依存によっても起きてしまうということです。

無気力、無関心、人格荒廃へ

 麻薬の依存が進むと、衝動的でキレやすく情緒不安定な状態から、無気力で無関心、すべてが投げやりとなる傾向が認められます。ゲームにハマっている人をよく観察してみてください。同様の傾向が少なからず見出されるのではないでしょうか。

 中国の研究報告で、機能低下が認められた脳の領域に「眼窩前頭葉」があります。この領域では、行動の判断に重要な役割を果たしています。善悪の価値判断をし、やってはいけない行動を抑制したり、報酬が得られる行動に意欲を出すための司令塔です。同様に機能低下が認められた「前帯状回」では、痛みや危険の認識、選択的注意、感情の調整に重要な働きを担っている領域です。

 脳の特定領域の変質や機能低下と関連する、情緒不安定、他者の気持ちへの無関心、注意力の低下、危険に鈍感となる傾向は、ゲーム依存を示す人見出される特徴といってよいでしょう。

対策に動く世界保健機関(WHO)

 スマホの普及に伴い、ネットゲームへの依存傾向を示す人の問題は世界規模で拡大しています。依存の問題は、個人的な人格や経済の破綻から、多発する「ポケモンGO」の「ながら運転」による死亡事故といった社会問題に発展します。また、ソーシャルゲームの過度な課金に誘う射幸性の演出は、ユーザー心理を巧妙についたものであることから、正常な判断ができなくなる脳の機能不全に関連づけることもできそうです。

 2018年1月のニュースで、世界保健機関(WHO)は、ゲーム依存から日常生活に支障をきたす問題について、世界的な統一基準である国際疾病分類(ICD)に初めて盛り込む方針であることが報じられました。5月の総会を経て、6月に公表を予定し、「Gaming disorder」(ゲーム症・障害)として定義されるとのこと。

 最終草案では、ゲーム症・障害を「持続または反復するゲーム行動」と説明し、具体的な症状としては以下の内容になります。

・ゲームをする衝動が止められない
・ゲームを最優先する
・問題が起きてもゲームを続ける
・個人や家族、社会、学習、仕事などに重大な問題が生じる

 ネットゲーム依存の問題は、これまで明確に統一され定義されていなかったために、国際的な統計調査として信頼できるデータはありませんでした。今後は、国際的に認められた定義のもとに、問題の規模が実測統計され、治療とともに問題解決が進むことが期待されます。

<参考文献・参考サイト>
・『インターネット・ゲーム依存症 ネトゲからスマホまで』(岡田尊司著、文春新書)
・朝日新聞DEGITAL:ネットゲーム依存、疾病指定へ WHO定義、各国で対策
https://www.asahi.com/articles/ASKDV3VXHKDVUHBI00D.html
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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授