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DATE/ 2018.05.14

離婚率の低い「お見合い」が減った理由

 おひとりさま、少子化、若者の恋愛離れなど、こうした言葉を頻繁に耳にするようになって久しい今日この頃、いまだにその流れが変わってきそうな気配はありません。ひと昔、いや、ふた昔前ならば、独り者ってそうそう放っておかれなかったものなのに、と思う方もいるのではないでしょうか?

 「この男性/女性、いかが?素敵な方なのよ」なんて、お見合い話の持ち込みも日常風景でした。中には縁組みの達人なんて人もいて、100組の夫婦を誕生させたなんてツワモノ仲人さんもいたといいます。実は近年の未婚時代は、こうしたお見合いの廃れと関係があるのではと言われていますが、その実態はどうなのでしょうか?

減りゆくお見合い婚、増えゆく恋愛婚

 最新版『社会保障・人口問題基本調査』によれば、2015年度に結婚したカップルの87.9%が恋愛結婚でした。それと比較するとお見合い結婚はわずか5.3%と低い割合です。60年代末、現代のように恋愛結婚が主流になり、お見合い結婚はどんどん減っていきました。

 しかし恋の嵐はいつか過ぎ去るもの、離婚率も恋愛結婚の増加とともに上昇してゆきます。今や3組に1組は離婚すると言われている時代ですが、全国仲人連合会の発表によれば恋愛結婚の離婚率はお見合い婚の約4倍にもなるとか。

お見合いは何故減った? 

 現在も結婚相手を求めている男女は決して少なくありません。同調査によると、「18歳から34歳まで」の未婚者の「いずれ結婚したい」という意志は、ほぼ9割に近い数値を出しています。確かにスタッフの周りにも、婚活パーティーや良い人探しに意欲的な知人友人がちらほらいます。誰もが「良い人がいれば」と思っているのは変わりないようです。

 それでもお見合いを選ぶ人が少ないのは、やはり自分の人生のパートナーは自分で決めたいという「自由意志」に育まれた時代からなのでしょうか? 確かに、お見合いと結婚というと「家」と「家」でかわすもので、当事者「個人」には重いというイメージがあるかもしれません。

 また、長所と短所は表裏一体ということなのか、「あらかじめ身元がはっきりしている」というお見合いのメリットが、個人情報を開示したくないという現代の考え方からするとデメリットになっているようです。くわえて、親や親戚の紹介というような「しがらみ」を敬遠する向きもあります。

「職場」という場所の変容

 また、未婚率の高さの一因は、お見合い婚と同時に結婚のきっかけのウェイトを多く占めていた「職場結婚」の変容ではないかとも指摘されています。前データでは職場結婚は恋愛婚に含まれていますが、かつて職場結婚といえば自由恋愛というよりも、上司や同僚からの紹介というような、半ばお見合い的なマッチングシステムとして機能していました。

 一説によれば、このようなマッチングは、ある社会的通念のクローズアップと共に減少していったそうです。昨今メディアでも取り上げられている、「セクハラ」です。

 そう、今では職場で「君は良い人いないの?」などと異性同性問わずプライバシーに関わることを訊くことははばかられます。無論、セクハラがまかり通る世の中は是正されてしかるべきです。しかし、社会のモラル意識の向上が、回り回って未婚率の高さに繋がっているのだとしたら、これは皮肉と言わざるを得ません。

草食男子は増えても減ってもいない

 さらに興味深いのは、いわゆる恋愛をしない、パートナーのいない男女の割合は、実はそんなに増えても減ってもいないという指摘です。やれ草食男子だ、やれ干物女だなんて流行語もありましたが、統計を見てみると「恋人として交際している異性がいる」という項目は2015年で19.7%、これは1987年の調査結果の19.4%をわずかながら上回っているくらいなのです。

 データから鑑みるに、日本の男女は元々が恋愛には奥手だった、ということかもしれません。そう考えると、現在の未婚率の高さや少子化問題は、かつてはそういう奥手な男女にも巡ってきた縁談、お見合い話がなくなったゆえだと、いわば社会システムの変化によるものだと結論付けることもできそうです。

 お見合いが現代風にアレンジされ、選択肢の一つとして再び広まれば、少子化時代の歯止めとなりうるかもしれません。

<参考サイト>
・国立社会保障・人口問題研究所:『第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)』
http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou15/NFS15_reportALL.pdf
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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授