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宇宙の謎ブラックホール!ついに謎があきらかに?
ブラックホール研究は、劇的な変革の時期にある
ブラックホール。それは光すら飲みこむ巨大な時空の特異点。謎に満ちた宇宙のモンスターとして、研究者のみならず、多くの人々を魅了してきました。ブラックホールについては、21世紀の科学技術をもってしてもなお、わからないことだらけ。ですが、この数年、衝撃的な発見が相次ぎ、ブラックホール研究は劇的な変革の時期を迎えています。
その発見の一翼を担っているのが、物理学者でブラックホール研究の第一人者である慶應義塾大学理工学部物理学科教授の岡朋治氏。2018年1月に出版した著書『銀河の中心に潜むもの ブラックホールと重力波の謎にいどむ』では、現場の熱いドラマも含めて、文系人間にもわかりやすく最前線の知が解説されています。
謎に満ちた驚異の天体「ブラックホール」
ブラックホールとは、とんでもなく高密度かつ大質量で強い重力をもつ驚異の天体のこと。星(恒星)が一生を終え、重力崩壊したあとに、強重力領域が残ることで生まれると考えられています。周囲の物質を吸い込む大いなる穴(hole)であり、光さえ抜け出せない暗黒(black)の世界、それがブラックホールなのです。じつは、ブラックホールの「発見」は、アインシュタインの一般相対性理論(1915~1916)のひとつの帰結であり、その検証の場でもあります。そのため、当然ながら、研究が進んだのはそれ以降のことでした。なかでも最大の謎とされる銀河の中心に潜む巨大ブラックホールについては1990年代に入って状況が大きく進展しました。銀河には、大・中・小のブラックホールがあること。小さいブラックホールが合体をくりかえして次第に大きく成長していくこと。銀河系の中心には超巨大ブラックホールがあるらしいこと。観測や解析の技術の急速な進化を受けて、ブラックホール研究も新たなフェーズに突入したのです。
最前線の現場で、いま何が起きているのか?
とくにこの数年は、衝撃的な発見が相次ぎました。2016年1月。岡氏ら研究者グループは、国立天文台と共同で、ある論文のプレスリリースをしました。それは、銀河系の中心部に中質量ブラックホールと見られる天体の発見を報告するものでした。これはきわめてセンセーショナルな発表でした。というのも、先述のとおりブラックホールは合体して大きくなると考えられていますが、この岡氏らの発見まで、「小と大はあるが、中がない」という状況が続いていました。彼らが発見した中質量ブラックホールは、そのミッシングリンクに当たるものだったのです。
この続報となる岡氏らの論文は英国の科学雑誌『ネイチャー アストロノミー』から出版され、また『ネイチャー』ウェブサイトでは「リサーチ ハイライト」にも取り上げられました。
そして、2016年に2月には、アメリカを中心とした研究グループが重力波の観測に成功するという大発見が続きました。これにはいくつかの重要な科学的意義があり、そのひとつに「ブラックホールどうしの合体が実際におこると確認されたこと」があります。まだ証明されていなかった「ブラックホールどうしが合体する」という現象が本当にあるとわかったのです。
これが先述した「重力波の検出に成功」によるもので、青天の霹靂ともいえるこの発表は世界をどよめかせ、翌2017年、3名の科学者がこの功績によってノーベル物理学賞を受賞しました。
まったく新しい未知の物理が見えてくるかも?!
2017年10月のノーベル物理学賞発表のわずか3か月後に出版されたのが、前掲の『銀河の中心に潜むもの』です。岡氏は、その最終章を「想像すらしていなかった、まったく新しい物理が見えてくるかもしれない」としめくくっています。物理学は、ニュートン力学からアインシュタインの一般相対性理論へと進化を遂げてきました。岡氏の言葉は「ありえない」と思われていた「その先」がもしかしたら「ありえる」可能性をも示唆する、じつに興味深いものです。文字通り日進月歩の銀河研究。その最前線でおこっているドラマの数々は、常識や前例にとらわれずフロンティアに向かおうとする冒険心を奮い立たせてやみません。
<参考文献>
『銀河の中心に潜むもの ブラックホールと重力波の謎にいどむ』(岡朋治著、慶應義塾大学出版会)
https://www.keio-up.co.jp/np/detail_contents.do?goods_id=3801
『銀河の中心に潜むもの ブラックホールと重力波の謎にいどむ』(岡朋治著、慶應義塾大学出版会)
https://www.keio-up.co.jp/np/detail_contents.do?goods_id=3801
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