テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.11.08

ネットの人権侵害の被害者・加害者にならないために

 今やインターネットは日常生活に欠かせないツールと言えます。しかし、便利で生活に浸透しているからこそ、ネットに関わるトラブルも多種多様です。皆さんは、ネットの利用に際してきちんとした知識を持っていると自信を持って言えるでしょうか。

 ここでは、近年増えているネットによる人権侵害について考えてみたいと思います。

ネット人権侵害の正しい知識を身につけよう

 株式会社情報文化総合研究所代表取締役所長で武蔵野大学名誉教授の佐藤佳弘氏は、ネットの人権侵害の被害にあわないようにするために、ネット社会の現状やトラブルの種類、具体的な対処法などについて正しい知識をもつことが必要だと言います。どこに地雷が埋まっているかを知っていれば、それを避けながら安全にネットを使うことができるし、万一危険な目にあっても被害を最小限に抑えることができるからです。

 しかし、ネットの便利さに甘えて、あまりにも不用意に利用していると、ふとしたことがきっかけで誹謗中傷にさらされたり、それがどんどん拡散していったりというネットならではの人権侵害の被害にあうリスクも高まってしまいます。

 このような被害にあわないためにも、佐藤氏の著書『インターネットと人権侵害 匿名の誹謗中傷~その現状と対策』を参考に、ネットでの悪質書き込みなどの被害にあった時の対処法などを知識として備えておきましょう。

被害にあったらどのように対処すればよいか?

 ネット上の誹謗中傷といったトラブルには、書き込みを容易に削除できなかったり、発信者を特定しにくかったりといった、ネットならではの特徴があります。だからといって、「騒ぎ立てるとかえってよくない」と放置していると、拡散というさらに厄介な事態になりかねません。

 もし、悪質な書き込みなどをされたら、今後の対処を踏まえて被害にあった証拠を保存しておくことを佐藤氏は強く勧めます。書き込みされたページを印刷しておくのがベストで、サイト名や日付も一緒に印字されるように設定することが大事とのこと。スマホや携帯電話などの場合は、表示画面をそのまま画像として保存したり、それをパソコンに転送して印刷したりといくつかの方法があります。

 証拠保存の次は、悪質書き込みの早期削除です。実は、ネットの書き込みの削除は簡単にはできません。発信者のみならず、サイトの管理人やサービス運営会社、ネット接続業者など関係者が多岐にわたるため、手続きや交渉が非常に面倒で複雑なのです。しかし、放置は危険ですから、「自分一人で解決しよう」などと思わずに、早急に相談窓口に連絡をしてアドバイスを受けることを勧めています。その場合、ネット人権侵害の専門家を配置している相談機関を利用することが重要です。サービス運営会社や接続業者の窓口で心もとなければ、違法・有害情報相談センター、あるいは法務局の人権相談窓口に被害の申告をするとよい、と佐藤氏は言います。とにかく、専門家のアドバイスによって迅速な対処をすることが肝要です。

 最終的には、訴訟を起こして法的手段をとるという方法もあるにはあるのですが、これはかなりハードルが高いと覚悟しなければなりません。時間も手間も、そして費用もかかりますし、何よりも被害者はかなりの精神的苦痛を強いられることになるからです。仮に加害者を特定できて、損害賠償請求の民事裁判で勝ったとしても、必ずしも慰謝料が支払われるとは限りません。相手に支払い能力がなかったり、支払いを拒否されたりすれば、裁判所もそれ以上の支払い強制はできないのです。こうしたことを考慮すると、早めに「謝罪・示談」に持ちこんで解決するのが賢明だと、佐藤氏は助言しています。

被害者、加害者両方になり得る危険性

 とにかく、ネットの人権侵害に関しては、早期発見、早期削除、専門家への相談が大事ということですが、最後にもう一つ気をつけるべきことがあります。

 それは、私たちがネットの人権侵害被害の危険にさらされているということは、裏をかえせば、気づかないうちに加害者になる可能性も多分に持っているということです。うっかりSNSに掲載した友人の個人情報が転用・悪用されたり、セキュリティ設定があまかったためにアカウントを乗っ取られて不信なメールが友人、知人に配信されたりすれば、気づかないうちに他者の人権を侵してしまうことになります。

 ネットは誰でも使える民主的なネットワークです。しかし、誰もが被害者にもなり加害者にもなり得る諸刃の剣のような側面も持っています。便利さだけに目をむけて、使い方を誤らないようくれぐれも注意したいものです。

<参考文献>
『インターネットと人権侵害 匿名の誹謗中傷~その現状と対策』(佐藤佳弘著、武蔵野大学出版会)
http://mubs.jp/武蔵野大学出版会/インターネットと人権侵害~匿名の誹謗中傷-その/

<関連サイト>
(株)情報文化総合研究所
http://www.icit.jp/

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

「見せかけの相関」か否か…コロナ禍の補助金と病院の関係

「見せかけの相関」か否か…コロナ禍の補助金と病院の関係

会計検査から見えてくる日本政治の実態(2)病床確保と補助金の現実

コロナ禍において一つの大きな課題となっていたのが、感染者のための病床確保だ。そのための補助金がコロナ患者の受け入れ病院に支給されていたが、はたしてその額や運用は適正だったのか。事後的な分析で明らかになるその実態...
収録日:2025/04/14
追加日:2025/07/18
田中弥生
東京大学客員教授
2

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

民主主義の本質(1)近代民主主義とキリスト教

ロシアや中華人民共和国など、自由と民主主義を否定する権威主義国の脅威の増大。一方、日本、アメリカ、西欧など自由主義諸国における政治の劣化とポピュリズム……。いま、自由と民主主義は大きな試練の時を迎えている。このよ...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/03/26
橋爪大三郎
社会学者
3

胆のう結石、胆のうポリープ…胆のうの仕組みと治療の実際

胆のう結石、胆のうポリープ…胆のうの仕組みと治療の実際

胆のうの病気~続・がんと治療の基礎知識(1)胆のうの役割と胆石治療

消化にとって重要な臓器「胆のう」。この胆のうにはどのような仕組みがあり、どのような病気になる可能性があるのだろうか。その機能、役割についてあまり知る機会のない胆のう。「サイレントストーン」とも呼ばれる、見つけづ...
収録日:2024/07/19
追加日:2025/07/14
糸井隆夫
東京医科大学病院 消化器内科 主任教授
4

3300万票も獲得した民主党政権がなぜ失敗?…その理由

3300万票も獲得した民主党政権がなぜ失敗?…その理由

政治学講座~選挙をどう見るべきか(5)政権交代と民主党

民主党は、2009年の衆議院選挙で過半数の議席を獲得し、政権交代に成功した。しかし、その後の政権運営に失敗してしまった。その理由についてはいまだ十分な反省が行われていないという。ではなぜ民主党は失敗してしまったのか...
収録日:2019/08/23
追加日:2020/02/12
曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授
5

印象派を世に広めたモネ《印象、日の出》、当時の評価額は

印象派を世に広めたモネ《印象、日の出》、当時の評価額は

作風と評論からみた印象派の画期性と発展(2)モネ《印象、日の出》の価値

第1回印象派展で話題となっていたセザンヌ。そのセザンヌと双璧をなすインパクトを与えた作品があった。それがモネの《印象、日の出》である。印象派の発展において重要な役割を果たした本作品をめぐる歴史的議論や当時の市況を...
収録日:2023/12/28
追加日:2025/07/17
安井裕雄
三菱一号館美術館 上席学芸員