社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2019.03.18

賞金総額26億円以上も!盛り上がる eスポーツ

 近年耳にするようになった「eスポーツ」。コンピュータゲームやテレビゲームを使った「スポーツ競技」のことを言い、「エレクトロニック・スポーツ」の略称です。「テレビゲームなのにスポーツ?」「スポーツのように体を動かす特殊なゲームなの?」と思われる方も、もしかするといらっしゃるかもしれません。

 もちろん、ここで言う「ゲーム」は、誰でも気軽に購入したり、行うことができる普通のコンピュータゲーム、テレビゲームのこと。実は世界的にeスポーツは注目を集めており、「ゲームなんて子どものするもの」という価値観が、世界的に大きく変わっているのです。

世界的に急成長しているeスポーツ

 アメリカの調査会社Newzooによる2017年の世界eスポーツ市場の規模は、なんと700.9億円。世界では賞金総額が26億円にもなる大会が開かれるなど、競技人口、賞金総額、観戦者数の急増など、現在、もっとも成長しているスポーツジャンルと言って過言ではないのです。ゲームのジャンルはさまざまで、シューティングゲームや格闘ゲーム、レーシングゲームなど多岐にわたります。

 アメリカでは優秀なeスポーツの選手に奨学金を出す高校が増えています。この3年で5倍の約120校になり、「スポーツ奨学金」と変わらない扱いを受けるように。お隣の韓国でもeスポーツ選手への注目は高まっており、ゲームジャンルによってはリアルスポーツの賞金額よりも高額の賞金が用意されていることもめずらしくありません。また、韓国ではプロ引退後の選手のケアも手厚く、所謂プロゲーマーという職業が公に認知され、認められているのです。

 競技に採用されているゲームは、どんなタイトルでもよいのかというとそうではなく、競技性や興業性の確保など、eスポーツとして開かれる大会にはルールがあります。アジアオリンピック評議会は、eスポーツを22年の競技会におけるメダル種目として採用したことも話題になりました。

日本はなぜeスポーツ後進国に?

 一方、日本はというとeスポーツの分野では出遅れてしまっているというのが現状です。日本がeスポーツ後進国となってしまった理由はさまざまに語られていますが、ここでは大きく2つあげてみます。まずは、「ゲームはスポーツではないという先入観」、続いて「法律の制限によってゲーム大会での巨額の賞金を出すことができないこと」です。

 前者は、eスポーツを好きな方、そうでない方、いずれの人々にも理解できる理由だと思います。実際にeスポーツプレイヤーはアスリートです。相手との駆け引きや、メンタルのコントロール、日頃のトレーニングや情報収集など、日々の血の滲むような努力と、それで得られた高度な技術力は「たかがゲーム」で片付けられるものでは決してありません。

 2つめの法律の壁は、ゲーム大会で巨額の賞金を出すことは「景品表示法」という法律に触れると考えられています。プロのプレイヤーに関してはその範ちゅう外ですが、そうではないアマチュアの場合、法律に則ると高額の賞金を国内大会で得ることが難しく、プロ誕生の壁となってしまっています。

国内でも広まりつつあるeスポーツの魅力

 こうした点で、日本ではeスポーツの認知度がなかなか上がらずにいました。しかし、2018年2月には「日本eスポーツ連合(JeSU)」が発足し、プロライセンスの発行を開始。少しずつ認知度は高まりつつあります。また、日々のニュースやラジオ番組、雑誌の特集など、eスポーツの魅力を伝えるメディアも増え、大会の存在やスポーツとしてのゲームのあり方が広まっています。eスポーツ選手を養成するための学習プログラムを用意した専門学校もあり、すでに次世代の選手を育成するという視点を多くの人々が持ちはじめているのです。

 世界的大会で使用されているゲームには、「ストリートファイター」シリーズや「スプラトゥーン」、「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズなどメイドイン日本のゲームも数多くあります。国際オリンピック委員会(IOC)は2018年12月に、スポーツ界関係者を集めた五輪サミットで、eスポーツの五輪実施競技入りについて会議を行いました。結果は「時期尚早」ということでしたが、五輪競技の候補にあがるほどの競技がeスポーツなのです。

 IT化やAIの登場など、さまざまなデジタル技術が世界を変えていくなか、eスポーツの登場も、スポーツというカテゴリの変革の一つと考えられるのかもしれません。

<参考サイト>
・「e スポーツ産業に関する調査研究」総務省情報流通行政局情報流通振興課
http://www.soumu.go.jp/main_content/000551535.pdf
・日本eスポーツ連合HP
https://jesu.or.jp
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
2

『孟子』に学ぶ、リーダーが過酷な境遇に追い込まれる意味

『孟子』に学ぶ、リーダーが過酷な境遇に追い込まれる意味

徳と仏教の人生論(5)陰陽と東洋思想を知ることの意味

宇宙や人生の本質について考察を深めていく今回の講義。前回に続く、宇宙がもう1つの宇宙のような存在をつくりたくて人間を創造したという話は非常に興味深い。陰陽(陰と陽)の両面を理解し、自然の摂理に根差した東洋思想を深...
収録日:2025/05/21
追加日:2025/11/07
3

「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方

「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方

戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題

保守的な軍国化によって、内戦への機運が高まっているアメリカだが、MAGAと極左という対立図式は表面的なものにすぎない。その根本に横たわっているのは白人とユダヤ人という人種の対立であり、それはカーク暗殺事件によって露...
収録日:2025/09/24
追加日:2025/11/06
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー
4

なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る

なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る

学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち

たかが「1」、されど「1」――今、数の意味が理解できない子どもがたくさんいるという。そもそも私たちは、「1」という概念を、いつ、どのように理解していったのか。あらためて考え出すと不思議な、言葉という抽象概念の習得プロ...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/06
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ

成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ

経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本

組織のまとめ役として、どのように接すれば部下やメンバーの成長をサポートできるか。多くの人が直面するその課題に対して、「経験学習」に着目したアプローチが有効だと松尾氏はいう。では経験学習とは何か。個人、そして集団...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/10
松尾睦
青山学院大学 経営学部経営学科 教授