テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2019.06.13

どう死を迎える?クオリティ・オブ・デスの考え方

 「クオリティ・オブ・ライフ(QOL)」はよく聞く言葉ですが、それと対照的な言葉「クオリティ・オブ・デス(QOD)」をご存知でしょうか?直訳すれば「死の質」、言い換えればどのように死を迎えるか、という見方、考え方のことです。充実した人生であったなら、最期も満足した形で終わりたい、そう考える人が増えているのも当然のことでしょう。

QODのランキング 日本は世界で何位?

 日本では近年少しずつ注目を浴びている概念ですが、欧米では1980年代から使われている言葉だといわれています。イギリスの経済誌「エコノミスト」は「緩和治療などの理解」「医療従事者の豊富さ」「患者の費用負担」「ケアの質」「地域コミュニティへの参加」の5つの観点からQODの国別ランキングを過去2度にわたり発表しています。日本は1回目の2010年は40か国中23位、2回目の2015年は80か国中14位でした。ちなみに2回目の調査で上位に入った国は1位からイギリス、オーストラリア、ニュージーランド、アイルランド、ベルギーでした。アジアトップは台湾の6位です。

 イギリスが1位に選ばれたのは緩和治療が広く理解されていることや、終末医療が国の方針もあり進められていることが理由に挙げられています。日本は上述した通り1回目に比べれば2回目で大きく順位を上げていますが、これはがん対策推進基本計画により緩和治療への注目が集まりそうだ、という点が評価のポイントになったようです。

死に場所はどこ? QODの重要な要素に

 高齢者の比率は今後伸びていく一方で、厚生労働白書によると、今後2040年までは年間死亡者数が右肩上がりに増えていくと推計されています。となると、終末期医療が重要になるのは当然のこと。むしろQODが注目されるのは遅すぎたとも言えるかもしれません。ここで考えなければいけないのは、エコノミストが挙げた5つの観点以外にもQODを構成する重要な要素があるのではないか、ということです。

 例えば、緩和治療や医療的なレベルで見たときのケアの質は相対的に病院より低かったとしても、自宅で死を迎えたいという人は一定の割合でいるはずです。人口動態統計によると、調査を始めた1951年には自宅で死を迎える人は80%超でしたが、2017年は約13%。一方病院で亡くなる人は9.1%→73%と伸びています。ただし、病院での死は2005年の79.8%をピークに漸減傾向にはあるので、死に場所の多様化の兆しは少しずつ見えているとも言えるでしょう。

 超高齢化社会という点では世界の最先端をいっている日本。幸か不幸か世界が今後迎えるであろう課題を先取りするわけです。その分介護やシニアを対象とした分野で日本が先行するという予想もされていますが、QODの分野でも状況は同じです。誰しもいつかは迎える死というステージ。ここでも日本流のおもてなしに注目が集まる日がやってくるかもしれません。 
 
<参考サイト>
・The 2015 Quality of Death Index Ranking palliative care across the world
https://eiuperspectives.economist.com/sites/default/files/2015%20EIU%20Quality%20of%20Death%20Index%20Oct%2029%20FINAL.pdf#search='The+Quality+of+Death+Index+2015'
・厚生労働白書
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/07/dl/0102-b.pdf
・1 高齢化の現状と将来像|平成30年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2018/html/zenbun/s1_1_1.html
・人口動態調査 人口動態統計 確定数 死亡上巻 5-5 死亡の場所別にみた年次別死亡数・百分率 | 統計表・グラフ表示 | 政府統計の総合窓口
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003214716
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,200本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

映画『君たちはどう生きるか』とつながる山上憶良の答え

映画『君たちはどう生きるか』とつながる山上憶良の答え

山上憶良「沈痾自哀文」と東洋的死生観(3)「沈痾自哀文」現代語訳を読む

宮崎駿監督の映画『君たちはどう生きるか』の一つの大きなテーマは、自分が恵まれていることにどう気づくかではないかと上野氏はいう。これは戦後日本のあり方、目指すべきものへの痛烈な問いかけではないだろうか。このことに...
収録日:2024/04/02
追加日:2024/07/26
上野誠
國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)
2

集中のスイッチを入れる方法は意識からと身体からの2通り

集中のスイッチを入れる方法は意識からと身体からの2通り

本番に向けた「心と身体の整え方」(1)ディテールにこだわる

アスリートたちは本番で力を発揮するために、「準備」と「本番」の2つのフェーズに分けて物事を考えている。「準備」段階ですべきは、本番の状況を細部にわたってシミュレーションしておくこと。そして、本番で「意識が散漫にな...
収録日:2020/09/16
追加日:2021/01/19
為末大
Deportare Partners代表
3

こりごり?アイ・ラブ・トランプ?…トランプ陣営の実状は

こりごり?アイ・ラブ・トランプ?…トランプ陣営の実状は

「同盟の真髄」と日米関係の行方(7)トランプ氏の評価とその実像

「こりごりだ」「アイ・ラブ・トランプ」…いったいどちらが本当のトランプ評なのか。前大統領のトランプ氏は、過激な発言で物議を醸すことも多かったが、その人柄はどのようなものだったのだろうか。2024年11月アメリカ大統領選...
収録日:2024/04/23
追加日:2024/07/24
杉山晋輔
元日本国駐アメリカ合衆国特命全権大使
4

ポツダム宣言受諾が遅れた理由と昭和天皇の「御聖断」

ポツダム宣言受諾が遅れた理由と昭和天皇の「御聖断」

敗戦から日本再生へ~大戦と復興の現代史(10)ポツダム宣言受諾への道のり

公立大学法人首都大学東京理事長・島田晴雄氏による島田塾特別講演シリーズ。紆余曲折の末、ついに発表されたポツダム宣言とその正式受諾に至るまでの道のりを知る。陸海軍の猛反発にあいながら本土決戦前の降伏を実現したポツ...
収録日:2016/07/08
追加日:2017/08/02
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
5

地政学を理解する上で大事な「3つの柱」とは

地政学を理解する上で大事な「3つの柱」とは

地政学入門 歴史と理論編(1)地政学とは何か

国際政治を地理の観点からひも解く「地政学」という学問。近年、耳にすることも多くなった分野だが、どのような手法や意義を持った学問であるかを学ぶ機会は少ない。その基礎から学ぶことのできる今回のシリーズ。まず第1話では...
収録日:2024/03/27
追加日:2024/04/30
小原雅博
東京大学名誉教授