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DATE/ 2019.08.09

大人になって発覚も…油断できない食物アレルギー

食物アレルギーは子どもだけではない

 2012年12月20日、東京都調布市の小学校で食物アレルギーを持つ児童が給食後に亡くなりました。児童は乳製品にアレルギーがありましたが、担任が充分な確認をしないまま給食に出されたチーズを食べさせてしまったため、アナフィラキシーショック(複数の臓器に同時多発的に急激なアレルギー反応が起きる症状)を起こしたことが原因と考えられています。TVやネットのニュースで大きく報じられたので、覚えている方も多いのではないでしょうか。

 最悪のケースに至らなくても、近年は小中学校で児童生徒がアレルギー反応を起こして救急搬送される例が多く見られます。しかし、「アレルギー疾患は子どもが発症するもの」という考え方は大きな間違いです。たとえばアレルギー疾患の代表格といえる花粉症の発症ピークは20・30代で、大人になってから発症する人がほとんど。これは、アレルギーを引き起こす原因となるアレルゲンに対抗する抗体が、体内に蓄積されることで発症するためです。アレルゲンに触れる量や抗体の生成量が少なければ発症までに時間がかかり、大人になって急に症状が出るというわけですね。

 もちろん食物アレルギーも、大人になってから突然症状が起きるケースは珍しくありません。それではどんな食品がアレルゲンになりやすく、どんな人がアレルギー反応を起こしやすいのでしょうか。

アレルギー症状が出やすい食品・体質

 食物アレルギーは、免疫を司る細胞が食品に含まれるたんぱく質を異物と認識して、過剰な防衛反応をするため起こります。ということは、ほとんどがたんぱく質の肉類はまっさきにアレルゲンになりそうですよね。しかし現実的には、肉類のアレルギーを持つ人は比較的少数です。これは、牛・豚・鶏などの筋肉構造が人間と似ていることから、異物と認識する可能性が低いためと考えられています。

 よく見られる食物アレルギーのアレルゲンは卵・牛乳・小麦で、この3つだけで食物アレルギー全体の約3分の2を占めます。「子どもの3大アレルゲン」ともいわれますが、実際には全年齢で発症率が高く、大人も例外ではありません。このほか大人になると増えるのがエビ・カニなどの甲殻類、キウイ・桃などの果実のアレルギーです。果実のアレルギーは花粉症と併発することが多く、一説では果実と花粉に似た構造を持つ物質が含まれるからともいわれます。ジャムや缶詰のような加工品だと症状が出ない人もおり、同じ果実でも発症条件は千差万別です。

 とはいえ、同じものを食べてもアレルギー反応が起きる人と起きない人がいるのは不思議ですよね。その謎を解く鍵を握るのが、IgE抗体という免疫物質。実は、免疫細胞が「過剰な防衛反応」をするときにつくられる物質なのです。本来、IgE抗体は体内に侵入した細菌やウィルスなどを排除する重要な役割を持ちますが、あまり多くは存在しません。ところが、IgE抗体を過剰に生成してしまう体質の人もいて、このようなアレルギー反応を起こしやすい人が「アレルギー体質」と呼ばれます。

 アレルギー体質になる原因には、2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)という免疫細胞の一種が深く関わっています。このTh2細胞がIgE抗体をつくるよう指示するためです。しかもTh2細胞はアレルゲンの情報をしっかり覚えるため、次に同じアレルゲンがやってくるとさらにIgE抗体がつくりやすいシステムを組み上げてしまいます。こうしてアレルギー反応は何度も繰り返すのです。

 Th2細胞は清潔すぎる環境で乳児期を過ごすと増えやすいという研究結果があります。近年の日本ではなんでも除菌消毒が当たり前になっていますが、少し非衛生的な生活をすることもアレルギー体質にならないためには必要なようです。

「食物アレルギーかな?」と思ったら

 アレルギー反応の具体的な症状には、皮膚ならかゆみ・じんましん・湿疹など、呼吸器なら喘息・ヒューヒューというような喉の雑音・声がれなど、粘膜なら目のかゆみ・くしゃみ鼻水・口や喉のイガイガ感など、消化器なら吐き気・腹痛・下痢などがあります。なにかを食べたあとにこのような症状が出たら、食物アレルギーかもしれません。

 ただし、食物アレルギーには食後すぐに症状が出る「即時型」と、数時間から数週間後に出る「遅延型」があるため、自己判断でアレルゲンを決めつけて避けるのは賢明ではありません。たとえば本当は小麦の遅延型アレルギーで、その症状が出る直前に卵を食べたために卵の即時型アレルギーと誤解して、卵を避ける生活を送ったら……。無意味なうえに、本当は避けなくてもいい卵が食べられないストレスにも耐えなくてはなりませんよね。

 食物アレルギーかもしれないときは医療機関でアレルギー検査を受けましょう。アレルゲンがよくわからないときは、複数の種類を検査してもらうことも可能です。採血だけで30項目以上がわかる検査もあるので、医療機関に問い合わせてみてください。内科、皮膚科、アレルギー科や子どもなら小児科などで受けられます。

 アレルゲンが判明すれば、それを避けることでアレルギー反応を抑えられます。気になる症状があるときはしっかり対処して、快適な毎日を送ってくださいね。

<参考サイト>
・サワイ健康推進課 油断できない 大人のフードアレルギー
https://www.sawai.co.jp/kenko-suishinka/theme/201508.html
・佐々総合病院 食物アレルギー
http://www.sassa-hospital.com/specialty/allergy.html
・東京顕微鏡院 実際に起こった食物アレルギー事例
https://www.kenko-kenbi.or.jp/science-center/foods/topics-foods/10055.html
・HelC+ なぜ大人になってから発症するの?
https://www.health.ne.jp/library/detail?slug=hcl_3000_w3000861&doorSlug=pollen
・国立生育医療研究センター 私たちの生活とアレルギー
http://nrichd.ncchd.go.jp/imal/Publication/0702Saito_SeibutsuZuroku.pdf
・味の素株式会社 食物アレルギーの仕組みって?発症したらどうする?
https://www.ajinomoto.co.jp/products/anzen/know/f_allergy_01.html
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テンミニッツTV編集部
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