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DATE/ 2020.03.23

都内の「電車遅延が一番多い路線」ランキング

電車遅延が多い路線はどこ?

 都内で通勤している方なら、「痛勤」とも呼ばれるラッシュ時の混雑の過酷さはよくご存知ですよね。この点に関しては国も問題意識を持っており、国土交通省では「遅延証明書の発行状況」、「遅延の発生原因」、「鉄道事業者の遅延対策の取組」を数値化・地図化・グラフ化などで「見える化」する取り組みを行っています。そして2月10日に、最新版となる平成30年度のデータが公表されました。

 この結果によると、1か月(平日20日間)当たりの遅延証明書発行日数が最も多かった路線は、19.2日の東京メトロ千代田線でした。次いで19.0日のJR中央快速線・中央本線と中央・総武線各駅停車が続きます。この3路線はほぼ毎日遅延が発生しているということになりますね。さらに、18.8日の小田急線、18.3日のJR埼京線・川越線も高い数値を示しました。

 反対に1.1日の東武野田線、1.7日の東急多摩川線、2.0日の京王井の頭線と東急大井町線など少ない路線もありますが、対象路線の平均は11.7日。2日に1回は遅延している計算になります。一体どのようなことが原因で、ここまで遅延が頻発してしまうのでしょうか。

遅延には小規模と大規模がある

 このデータでは、10分未満の遅延を「小規模な遅延」、30分以上の遅延を「大規模な遅延」として2つのケースに分けて原因を分析しています。

 地図化されたデータを見るとよくわかりますが、山手線圏内の都心部ではほとんどの路線で1か月に8日以上11日未満の小規模な遅延が起きています。中でも多いのは東京メトロ千代田線・南北線・半蔵門線・丸ノ内線などで、1か月に11日以上。遅延の理由で最も大きいのは、約54%を占める「乗降時の要因」です。さらに細かくこの内訳を見てみると、48.3%は乗降時間超過が原因となっており、乗客のスムーズな乗降が課題となっていることがうかがえます。

 これに対して大規模な遅延が多いのはJR埼京線・川越線で1か月に2日以上、JR中央・総武線各駅停車で1か月に1.4日以上2日未満。この両路線は小規模な遅延が頻発している路線とは異なり、山手線圏外から圏内にかかるエリアを走行しています。遅延の理由も小規模な遅延とは大きく異なり、約75%を占める「突発的な要因」が最大の理由です。細かい内訳の中では52.4%が自殺となっており、現代社会の闇が見え隠れする結果となりました。

 ただし、埼京線・川越線に突出して自殺者が多いわけではありません。実は、埼京線は池袋から大崎間で高崎線や横須賀線に直通する湘南新宿ラインと線路を共有しているため、この路線が遅延すると一緒に遅延してしまうのです。乗り換えなしで長距離を移動できる相互直通運転はとても便利ですが、ひとたび遅延が起きると広い範囲に影響が及ぶ点は今後の課題といえますね。

実際に功を奏した改善策とは

 もちろん鉄道各社は遅延に対するさまざまな対策を講じており、遅延減少を実現した路線もあります。特に大幅な減少に成功したのが、前年比-3.5日の東急大井町線、-2.7日のJR青梅線、-2.5日の都営地下鉄三田線です。具体的にどんな対策を取ったのか見てみましょう。

 東急電鉄・JR・都営地下鉄に共通するのが、ホームドアの設置です。これによって転落事故や列車との接触を防げるため、遅延減少に大きく貢献します。また、乗客に時差通勤を推奨するキャンペーンを行っており、これによって乗降時間超過の緩和が期待できます。特に東急電鉄は早朝ダイヤを増強したり、東急線アプリを通じて早朝に電車を利用した乗客にサービス割引や商品交換で利用できるクーポンを配信したりして、乗客の時差通勤のモチベーションを上げる工夫をしています。

 ホームドアの設置には億単位の費用がかかるともいわれており、すべての駅で同時期に整備するのは難しい事情があります。しかし東急電鉄の取組を見てみると、乗客の意識を変えて利用しやすい環境を整えることはアイデア次第で可能といえるでしょう。安全確保と混雑緩和は遅延減少に欠かせない要素。人口が集中している首都圏では難易度の高い課題ですが、鉄道各社には前向きに取り組んでいってほしいですね。

<参考サイト>
・国土交通省 東京圏の鉄道路線の遅延「見える化」(平成30年度)
http://www.mlit.go.jp/report/press/tetsudo02_hh_000126.html
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小原雅博
東京大学名誉教授