テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2020.04.19

「サブスク」って何?わかりにくいカタカナ語

 ニュースでも身近なやり取りでも、聞きなれないカタカナ語が原因で行き違いが起きたり、ストレスがたまることがあります。また、長すぎるからといって省略してしまうことで、さらに意味不明のやり取りが増えています。日常を囲むカタカナ言葉の世界、ちょっと振り返ってみませんか。

「マウンティング女子」はなぜ浸透したのか

 新型コロナウイルス報道では、政府関係者や専門家などが聞きなれないカタカナ語で世のひんしゅくを買いました。「オーバーシュート(爆発的患者の増加)」や「ロックダウン(都市封鎖)」など、これまで聞いたことのない言葉が乱発されたからです。「パンデミック(世界的大流行)」や「クラスター(感染者集団)」だけでも大変なのに、新しいカタカナ語はなぜ使われたのでしょうか。

 カタカナ語を使いたがる心理の一つは「単純にかっこいいから」というもので、その言葉を知らない人たちを威嚇するような意味がありました。それこそ最近よく使われている「マウンティング」ですね。

 マウンティングは、もともとサルなどが自分の優位性を示すのに相手に馬乗りになる様子を指す言葉で、レスリング用語としても使われます。「マウンティング女子」が日常語として使われだしたのは沢尻エリカ主演のドラマ『ファーストクラス』(2014)以来ということですが、なじめない人も多いでしょう。

 「かっこいい」と思う気持ちの奥には、一種の学術用語という権威だのみの心理もあります。ブランド名と同じように用いられるため、「わかる人にはわかる」ことがポイント。「日本語に言い換えてみてよ」と言ってもムダ、というケースです。

 同じような使われ方のカタカナ語には、病院で使われる「インフォームドコンセント(納得づくでの治療)」、ビジネス用語の「プライオリティ(優先順位、優先権)」、オリンピック関連用語の「レガシー(次世代への遺産)」、観光業界の「インバウンド(日本を訪れた外国人旅行客)」などがあります。

いつもの「出前」も「ウーバーイーツ」で新しく食べられる?

 さて、カタカナ語は「古いものを新しく見せる」ときにも便利に使われます。たとえば「オンデマンド」は注文生産のことですし、オンラインで注文すればいい「ウーバーイーツ」など、ネットと電話の違いはありますが、日本語では単純に「出前」で済んでしまいます。

 「意識高い系」とからかわれた「ロハス(健康と環境、持続可能な社会生活を心がける生活スタイル)」と、その元になった「サステイナビリティ(持続可能性)」。「なぜわざわざ英語で言う?」と感じずにいられない「ダイバーシティ(多様性)」、震災をきっかけに広がる「レジリエンス(復元力、弾性)」など、海外で提唱された概念には、新しい見せかけで古いものを見直す動きが案外多いものです。

 仲間をあげればキリがありませんが、「アーカイブ(保存記録、記録保存館)」「エビデンス(証拠)」から「コミット(関わる、注力)」や「フィックス(決定)」まで、当たり前のことを新しく見せたい気持ちがカタカナ語を氾濫させているかもしれません。

「セクハラ」がなければ「就活セクハラ」も伝わらなかった

 近年話題の「サブスクリプション」は、一定料金を支払うことで、一定期間サービスを使う権利を得られるというビジネスモデル。日本に昔からある言い回しでは「会員権」に近いのですが、「~し放題」というサービスとして親しまれるようになりました。

 問題は、このように長いカタカナ語の場合、必ず「サブスク」というふうに略されるところです。コンビニやリストラと同じ省略法ですが、口中をシャキッとさせる清涼菓子の名前と間違いそうですね。

 最近の省略カタカナ語で、「それはないでしょ」と感じたのが「ソシャディ」。やはり新型コロナウイルスをきっかけに重視されるようになった「ソーシャルディスタンス(社会的距離)」の略だそうです。先行する「ソーシャルゲーム(SNSを介したオンラインゲーム)」が「ソシャゲ」と略されていることからきたのでしょうが、「スマホでソシャゲ」しながら「ソシャディ」に気配りする姿、文字で書くとなんのことだかさっぱりわかりません。

 もちろん略して意味がわかりやすくなったり、伝えやすくなることもあります。「コスパ(価格に見合った機能)」や「セクハラ(性的嫌がらせ)」が市民権を得ているのはその例ですね。

 カタカナ語は、誰かが使っているとすぐ真似をしたくなるもの。一拍置いて、「相手を迷わせないか」「もともと日本語ではどういう言い回しだったか」を考えてから話すと、よい関係が結べそうです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識

ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識

ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム

「ヒトは共同保育の動物だ」――核家族化が進み、子育ては両親あるいは母親が行うものだという認識が広がった現代社会で長谷川氏が提言するのは、ヒトという動物本来の子育て方法である「共同保育」について生物学的見地から見直...
収録日:2025/03/17
追加日:2025/08/31
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長 元総合研究大学院大学長
2

日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道

日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道

未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発

日本は第二次大戦後に軍事飛行等の技術開発が止められていたため、宇宙開発において米ソとは全く違う道を歩むことになる。日本の宇宙開発はどのように技術を培い、発展していったのか。その独自の宇宙開拓の過程を解説する。(...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/09/02
川口淳一郎
宇宙工学者 工学博士
3

天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制

天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制

「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉

現代流にいうと地政学的な危機感が日本を中央集権国家にしたわけだが、疫学的な危機によって、それは早い終焉を迎えた。一説によると、天平期の天然痘大流行で3割もの人口が減少したことも影響している。防人も班田収授も成り行...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/01
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家
4

世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係

世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係

数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家

数学も音楽も生きていることそのもの。そこに正解はなく、だれもがみんな数学者で音楽家である。これが中島さち子氏の持論だが、この考え方には古代ギリシア以来、西洋で発達したリベラルアーツが投影されている。この信念に基...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/08/28
中島さち子
ジャズピアニスト 数学研究者 STEAM 教育者 メディアアーティスト
5

発がんリスク、心身の不調…シフトワークの悪影響に迫る

発がんリスク、心身の不調…シフトワークの悪影響に迫る

睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(5)シフトワークと健康問題

社会的時差ボケの発生には、働き方も大きな影響をもっている。特にシフトワークによって不規則な生活リズムを強いられる業種ではその回避が難しい。今回は、発がんリスク、メンタルヘルスの不調など、シフトワークが抱える睡眠...
収録日:2025/01/17
追加日:2025/08/30
西多昌規
早稲田大学スポーツ科学学術院教授 早稲田大学睡眠研究所所長