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DATE/ 2024.12.03

時代とともに消えた「職業」とは?

 次の24の「職業」のうち、あなたになじみ深い「職業」、もしくはあなたが知らない「職業」は、いくつあるでしょうか?

 1.速記者学校講師、2.タイピスト学校講師、3.ワードプロセッサ操作員、4.タイピスト、5.声色師、6.奇術師、7.あやつり人形使い、8.腹話術師、9.ボードビリアン、10.曲芸師、11.キャバレーのレジスター係、12.預貯金集金人、13.保険料集金人、14.場立人、15.才取人、16.注文取り、17.呼売人、18.ミシン販売員、19.絹織物買継人、20.牛馬仲介人、21.雑穀仲介人、22電話売買仲介人、23.書生、24留守番――。

 この24の「職業」は、大正大学・地域構想研究所・主任研究員の中島ゆき氏が、5年に1度行われる国勢調査で使われる職業分類をもとに調査・発表された研究レポート「国勢調査から消えた『平成の職業』」(以下「レポート」)において挙げられた、“平成とともに消えた「職業」”です(ただし、あくまで統計調査上の消えた「職業」です)。

 ※正式には、平成2(1991)年の国勢調査には記載されていた、平成27(2015)年の国勢調査では削除されていた「職業」。国勢調査に削除の基準は明示されていませんが、中島氏によると「働く人が1200人以下になると、削除されるようです」とのこと。

“平成とともに消えた「職業」”の特徴

 平成という時代とともに消えた「職業」は、大別すると以下のような3分類にすることができます。

【1・技術が一般化され必要とされなくなった「職業」】

 1・には24の「職業」のうち、1.速記者学校講師、2.タイピスト学校講師、3.ワードプロセッサ操作員、4.タイピスト――があてはまります。

 速記術を用いて口述を書き取る「速記者」、タイプライターあるいはワープロを操作して文書を印字する「タイピスト」「ワードプロセッサ操作員」は、最盛期には事務系の職業の即戦力技術者として重宝され、時代の花形職業ともいえる存在でもありました。しかし、技術が一般化され、技術者でなくとも容易に操作できるようになり、それらの技術を教える講師とともに、消えた「職業」となりました。

【2・流行が移り伝統芸能化された「職業」】

 2・には24の「職業」のうち、5.声色師、6.奇術師、7.あやつり人形使い、8.腹話術師、9.ボードビリアン、10.曲芸師――があてはまります。

 現在でも、他人(特に有名人等)の声をまねる芸人「声色師」、奇術(手品)を職業とする芸人「奇術師(手品師とも)」、操り人形を使う芸人「あやつり人形使い」、口を動かさずにしゃべる話術である腹話術の芸人「腹話術師」、ボードビル(歌と対話を交互に入れた通俗的な喜劇・舞踊・曲芸等)を演じる芸人「ボードビリアン」、身軽さや練達した高い技術をもって観客を驚かせる芸人「曲芸師」はいますが、流行が移り芸能者が減るとともに伝統芸能化されたことによって、消えた「職業」となりました。

【3・技術革新や時代背景によって必要とされる場が激減した「職業」】

 3・には24の「職業」のうち、11.キャバレーのレジスター係、12.預貯金集金人、13.保険料集金人、14.場立人、15.才取人、16.注文取り、17.呼売人、18.ミシン販売員、19.絹織物買継人、20.牛馬仲介人、21.雑穀仲介人、22電話売買仲介人、23.書生、24留守番――があてはまります。

 「キャバレーのレジスター係」はキャバレーの減少によって、自宅など訪問して預金や保険料を代行徴収する「預貯金集金人」「保険料集金人」は、日中不在家庭の増加や銀行やコンビニエンスストア等の振り込みやクレジット決済など金融インフラの拡充によって消えていきました。

 また、“手サイン”と呼ばれる証券取引所専用の取引の手合図を出す「場立人」、証券取引所の立会場内で取引所正会員(証券業者)間の売買取引が円滑に行われるよう仲介業務を専門としていた証券業者「才取人」は、コンピューターシステム化が進み、立会場での取引がなくなり、消滅しました。

 得意先などを回り注文を受ける「注文取り(御用聞きとも)」、金魚売・豆腐売・焼芋売等、大声で呼びかけながら売り歩く「呼売人」、主に訪問販売で、ミシンの販売・設置・修理等も行った「ミシン販売員」。そして、絹織物の生産者と問屋との間で取引の仲介をする「絹織物買継人」、同様に、当事者双方の間に立って商取引をまとめたりあっせんしたりする仲介人も「牛馬仲介人」「雑穀仲介人」「電話売買仲介人」等、専門に取り扱う商品や商品販売の形態に、時代の流行を感じます。

 さらに、他家に住み込み、家事を手伝いながら勉学した「書生」「留守番」も、消えた「職業」となりました。

「職業」は時代の代理人(エージェント)

 もちろん平成だけでなく他の時代にも、時代とともに消えた「職業」は多々あります。例えば昭和初期、当時の主力輸出産業であった生糸工業に関連した「繰糸工」「織布工」「農耕・養蚕作業者」の従事者は多数いましたが、時代とともに消えた「職業」となりました。また、現在では伝統工芸品化されている「おけ職」「たる職」「和がさ・ちょうちん・うちわ職」等も、同じく時代とともに消えた「職業」といえます。

 他方、中島氏は「レポート」において、ドイツの哲学者で社会学者のジンメルのエッセイ「大都会と精神生活」から、19世紀末のパリが生んだ当時の新しい「職業」ある「14番目役」を紹介しています。14番目役とは、晩餐会の人数が13人になりそうなときに、すぐに呼び出しに応じられるように、正装をして準備している「職業」人のことです。住居に人目につくように看板を掛けて行っていたようです。

 現代日本でも結婚式やパーティ等のための「出席代理人」がビジネス化していますが、それに近い感じかもしれません。社会が拡大し、高度化・複雑化・都市化するにしたがって、「職業」化すること、つまりは分業が盛んになります。そして分業とは、代理人(エージェント)への委託ともいえます。そのようにとらえると、“「職業」は時代のエージェント(代理人)”ともいえるのかもしれません。

 ところで、時代とともに消えた「職業」がある反面、動画サイトYouTubeへ投稿した動画の再生によって得られる広告収入で生活する「YouTuber(ユーチューバー)」、アフィリエイト・プログラムを導入して多額の広告収入を得る「アフィリエイター」、取扱説明書など技術関連のテキスト執筆に特化したライター「テクニカルライター」、マニキュアやペディキュア等のネイルケア(爪の手入れ)を専門とする美容師「ネイリスト」など、新しい「職業」も生まれてきています。また、情報システム系、心理カウンセラー系、金融資産系など、さらに高度化・細分化されつつある「職業」も多々あります。

 「14番目役」が時代とともに生まれて消え、しかしながら「出席代理人」のように時代に合わせてバージョンチェンジして再登場したかのように、時代とともに消えた「職業」にこれから生まれる新しい「職業」のヒントや活用ポイントがあるかもしれません。興味のある方はぜひ一度、時代とともに消えた「職業」を、振り返ってみてください。

<参考文献・参考サイト>
国勢調査から消えた「平成の職業」 - 大正大学地域構想研究所
https://chikouken.org/report/8795/
新しい職業分類 -日本標準職業分類の統計基準としての設定(平成21年12月)に当たって-
https://www.stat.go.jp/info/today/019.html
国勢調査より「平成で新たに誕生した職業」_前編 - 大正大学地域構想研究所
https://chikouken.org/report/9065/
国勢調査より「平成で新たに誕生した職業」_後編 - 大正大学地域構想研究所
https://chikouken.org/report/9068/
「大都会と精神生活」『ジンメル・エッセイ集』(ゲオルク・ジンメル著、川村二郎編訳、平凡社ライブラリー)
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