テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2021.01.27

一般的な「養育費」の相場とは?

 「養育費」の相場は、個々の事例や状況によって異なります。そして、養育費の支払い義務は法律に定められていますが、具体的な金額は定められていません。

 つまり、養育費支払義務者(以下「義務者」)が合意していれば、養育費の金額の上限はありません。また養育費の算出は、義務者の年収だけでなく、養育費受取権利者(以下「権利者」)の年収によっても大きく異なります。

 しかし、個々の話し合いで合意に至る場合は少なく、現在の日本では、裁判所発表の「養育費算定表」に基づいて決められることが多いといわれています。

 そして、2019(令和元)年12月、最高裁の司法研修所は、基本的な考え方は維持したまま、16年ぶりに改訂した「養育費算定表」(令和元年版)を公表しました。

養育費算出の実質的な典拠「養育費算定表」

 前述したように、「養育費算定表」は養育費算出の典拠として広く用いられている表で、子どもの年齢を0~14歳と15歳以上で分け、さらに人数と両親の年収に応じた養育費の目安を示しています。

 「養育費算定表」の算出基準および計算式は、以下のようになっています。

【「養育費算定表」における養育費の算出基準】
・義務者の年収(高いほど養育費は多くなる)
・権利者の年収(低いほど養育費は多くなる)
・当事者が自営業か給与所得者か(支払義務者が給与所得者なら養育費が多くなる)
・子の年齢、人数(子の年齢が高いほど、子の人数が多いほど、養育費は多くなる)

【「養育費算定表」(令和元年版)の計算式】
1)基礎収入=総収入×0.38~0.54(給与所得者の場合)、総収入×0.48~0.61(自営業者の場合)
2)子の生活費=1)×62or85(子の指数:15歳未満=62、15歳以上=85)÷(100+62or85(義務者の指数+子の指数)
3)義務者が分担すべき養育費の額=2)×(義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)

 例えば、義務者の年収500万円、権利者の年収200万円で14歳の子ども1人と暮らす場合を「養育費算定表」を用いて算定してみると、従来は2~4万円でしたが、令和元年版では4~6万円となります。ただし、権利者の状況が同じでも義務者の年収が400万円の場合は、従来と変わらず2~4万円となります。

 ※なお、子の年齢・数に応じた個別の「養育費算定表」や用い方の詳細については、裁判所のホームページで公開されています。

養育費受け取りの実際値とは?

 しかし実態としての養育費の相場、つまり実際にはいくらくらいの金額が支払われ、また受け取られているのでしょうか。

 2019年12月の改定前の調査ではありますが一つの目安として、厚生労働省が2016(平成28)年度にひとり親世帯を対象に行った調査(以下「調査」)をみてみましょう。

 調査によると、養育費の月平均は、母子家庭で43,707円、父子家庭で32,550円という結果でした。ただし、この結果はあくまでも、“養育費を受けている”ひとり親世帯の平均であり、同じく調査によると、離婚時に養育費を取り決めていたが、その後支払われなくなるケースも多々あることがわかります。

 具体的には、養育費の取り決め状況で「取り決めをしている」割合は、母子世帯の母では42.9%。一方、父子世帯の父では20.8%。しかしながら、養育費の受給状況で「現在も受けている」割合は、離婚した父親からが24.3%、離婚した母親からが3.2%となっており、そもそも養育費を受け取っていない世帯も多いことがうかがえます。

分け合う義務「生活保持義務」は子どもの権利

 3組に1組が離婚するといわれている現在ですが、親権者であることと扶養義務は無関係であるため、たとえ離婚により親権者でなくなったとしても、親である以上は両親ともに、子に対する扶養義務はありつづけます。

 さらに、親の扶養義務は、扶養義務者が要扶助者に対して自分の生活と同質で同程度の生活を確保させる義務、つまり親と子が同程度の生活レベルを確保できるようにする義務である「生活保持義務」であるとされています。

 生活保持義務は、例えるなら“一個のパンを分け合う義務”といわれ、扶養義務者が自己の生活に余裕がある限度で要扶助者を扶助すべき義務である「生活扶助義務」と根本的に違います。前者の生活保持義務に照らし合わせると、義務者は自身の生活費にたとえ余力がなかったとしても、養育費を支払えないという主張は通りません。

 「養育費算定表」は、養育費分担事件の迅速な解決を目的として、2003(平成15)年4月に東京・大阪の裁判官の共同研究の結果、作成・公表されました。しかしながら公表当初から、「低額過ぎる」などの批判も出ていましたが、それでも多用されてきた理由は、迅速に養育費を取り決め受給させることによって、なによりも優先すべき子どもの権利を保証するためです。

 「養育費算定表」の令和元年版の改訂によって、養育費という子どもの権利の適切な実現を望むとともに、しかしそれ以上に、養育費の支払い義務を「養育費算定表」で強制せざるを得ない状況に子どもが巻き込まれない現実こそを、切望します。

<参考文献・参考サイト>
養育費・婚姻費用算定表│裁判所
https://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/youikuhi_santei_hyou/index.html
新たな養育費算定表のイメージ図(2019年12月) - 時事通信
https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_pol_seisaku-houmushihou20191222j-03-w470
『婚姻費用・養育費・財産分与の法律相談』(平田厚著、青林書院)
養育費の平均相場は?離婚後の子どもの人数や夫(妻)の年収別に徹底解説!【令和見直し版】
https://www.riconhiroba.com/money/childcare-expenses-after-divorce.html
平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188147.html
『離婚したいと思ったら読む本(第2版)』(中里妃沙子著、自由国民社)
「生活保持義務」『法律用語辞典(第4版)』(有斐閣)
「生活扶助義務」『法律用語辞典(第4版)』(有斐閣)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識

ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識

ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム

「ヒトは共同保育の動物だ」――核家族化が進み、子育ては両親あるいは母親が行うものだという認識が広がった現代社会で長谷川氏が提言するのは、ヒトという動物本来の子育て方法である「共同保育」について生物学的見地から見直...
収録日:2025/03/17
追加日:2025/08/31
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長 元総合研究大学院大学長
2

日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道

日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道

未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発

日本は第二次大戦後に軍事飛行等の技術開発が止められていたため、宇宙開発において米ソとは全く違う道を歩むことになる。日本の宇宙開発はどのように技術を培い、発展していったのか。その独自の宇宙開拓の過程を解説する。(...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/09/02
川口淳一郎
宇宙工学者 工学博士
3

より良い人生への学び…開かれた知、批判の精神、学ぶ主体

より良い人生への学び…開かれた知、批判の精神、学ぶ主体

「アカデメイア」から考える学びの意義(4)学びの3つのキーワード

私たちにとって「学び」はどんな意義を持つのか。学びについて考えるべき要素は3つあると納富氏はいう。さらに、「学びは生きる場所」でもある。今生きている人と対話をする。先人たちと書物を通じて対話する。そのことで、自分...
収録日:2025/06/19
追加日:2025/09/03
納富信留
東京大学大学院人文社会系研究科教授
4

天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制

天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制

「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉

現代流にいうと地政学的な危機感が日本を中央集権国家にしたわけだが、疫学的な危機によって、それは早い終焉を迎えた。一説によると、天平期の天然痘大流行で3割もの人口が減少したことも影響している。防人も班田収授も成り行...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/01
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家
5

世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係

世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係

数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家

数学も音楽も生きていることそのもの。そこに正解はなく、だれもがみんな数学者で音楽家である。これが中島さち子氏の持論だが、この考え方には古代ギリシア以来、西洋で発達したリベラルアーツが投影されている。この信念に基...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/08/28
中島さち子
ジャズピアニスト 数学研究者 STEAM 教育者 メディアアーティスト