テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2021.02.06

仕事をするのに最適な「室温」とは?

 コロナ禍を経て、自宅勤務を経験したことがある方も多いことでしょう。出勤時間がなくなったことで朝ゆっくり寝られる、自分の時間を使える、なんて声もありますが、一方で「オフィスって実は快適だったんだな」と気づく面も――。

寒さを我慢して働くのは「×」

 わかりやすいところだと空調です。会社にもよりますが、オフィスは働きやすい室温に設定されていることでしょう。自宅の場合は自分次第のため、寒さを我慢しながら働いているケースもあるかもしれませんが、実はそれ、仕事のパフォーマンスにも影響大なんです。では仕事をするのに最適な室温、そして湿度はどれくらいなのでしょうか?

 WHO(世界保健機関)が2018年11月に出した勧告によると、冬の住宅の最低室内温度は18℃以上。これを下回ると健康に影響が出てくる、という温度です。新型コロナウイルス対応では何かと批判されがちだったWHOではありますが、世界基準として示した室温は納得感のある数字ですね。ただ、国土交通省が行った「住宅の温熱環境と健康の関連」という調査によると、居間でさえ平均室温は16.7℃。寝室は12.6℃、脱衣所は12.8℃でした(約2100世帯を対象に調査)。日本の家はWHOが示す基準に達していない!という現実が浮き彫りになっています。

 じゃあ18℃あればいいのか、といえばさにあらず。WHOが示したのは健康という観点でした。仕事をするうえで快適な環境はずばり25℃。米コーネル大学の調査によると、室温を20℃から25℃に上げたところ、タイピングのエラーは44%減少したうえ、入力量は50%増えたとのことです。湿度という面では、「低湿度環境が在室者の快適性・知的生産性に与える影響に関する研究」という早稲田大学の研究が参考になります。湿度が35%を下回ると人は不快感を感じるようになり、70%を超えると疲れを感じやすくなるそうです。

実は法律で定められていた温度と湿度

 と、ここまで科学的なアプローチで最適な温度、湿度を探ってみましたが、1972年に定められた労働安全衛生法の事務所衛生基準規則5条3項に以下のような内容があります。「事業者は、空気調和設備を設けている場合は、室の気温が十七度以上二十八度以下及び相対湿度が四十パーセント以上七十パーセント以下になるように努めなければならない」。実は50年近く前から法律上働きやすい環境にするよう、具体的な温度と湿度が示されていたのですね。WHOの発表やコーネル大学、早稲田大学の調査よりも前に労働安全衛生法が定められたわけですが、後の調査結果に近しい値が規定されていた、ということになります。

 加えて、椅子や机の違いもいざ家で働いてみると如実に表れる部分かもしれません。自宅の椅子で8時間も9時間も働くと、腰が痛くなる、パソコンと目線の高さが合わない、なんて悩みもよく聞きます。毎日オフィスに通っていた頃は意識していなかったかもしれませんが、1日の1/3近くを過ごすオフィスは、働きやすい環境が整えられていたのですね。

 コロナ禍が落ち着いたとしても在宅勤務という選択肢は残り続けています。社会情勢に合わせて在宅勤務や出社を選ばざるを得ない人達も多いことでしょうが、ゆくゆくは働きたい場所、一番パフォーマンスが発揮できる場所を1人1人が選べる、そんな働き方を選択できる会社が理想とされる日が来るのかもしれませんね。

<参考サイト>
WHO HOUSING AND HEALTH GUIDELINES
https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/277465/WHO-CED-PHE-18.10-eng.pdf
・住宅の温熱環境と健康の関連
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001323205.pdf
・Study links warm offices to fewer typing errors and higher productivity | Cornell Chronicle
https://news.cornell.edu/stories/2004/10/warm-offices-linked-fewer-typing-errors-higher-productivity
・低湿度環境が在室者の快適性・知的生産性に与える影響に関する研究
Study links warm offices to fewer typing errors and higher productivity | Cornell Chronicle https://news.cornell.edu/stories/2004/10/warm-offices-linked-fewer-typing-errors-higher-productivity
・事務所衛生基準規則 第2章 事務室の環境管理(第2条-第12条)|安全衛生情報センター
https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-2/hor1-2-36-2-0.htm

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

次の時代は絶対にアメリカだ…私費で渡米した原敬の真骨頂

次の時代は絶対にアメリカだ…私費で渡米した原敬の真骨頂

今求められるリーダー像とは(3)原敬と松下幸之助…成功の要点

猛獣型リーダーの典型として、ジェネラリスト原敬を忘れてはならない。ジャーナリスト、官僚、実業家、政治家として、いずれも目覚ましい実績を上げた彼の人生は「賊軍」出身というレッテルから始まった。世界を見る目を養い、...
収録日:2024/09/26
追加日:2024/11/20
神藏孝之
公益財団法人松下幸之助記念志財団 理事
2

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

教養としての「人口減少問題と社会保障」(4)増え続ける社会保障負担

人口減少が社会にどのような影響を与えるのか。それは政府支出、特に社会保障給付費の増加という形で現れる。ではどれくらい増えているのか。日本の一般会計の収支の推移、社会保障費の推移、一生のうちに人間一人がどれほど行...
収録日:2024/07/13
追加日:2024/11/19
森田朗
一般社団法人 次世代基盤政策研究所(NFI)所長・代表理事
3

だべったら生存期間が倍に…ストレスマネジメントの重要性

だべったら生存期間が倍に…ストレスマネジメントの重要性

新しいアンチエイジングへの挑戦(1)患者と伴走する医者の存在

「百年健康」を旗印に健康寿命の延伸とアンチエイジングのための研究が進む医療業界。そうした状況の中、本職である泌尿器科の診療とともにデジタルセラピューティックス、さらに遺伝子を用いて生物としての年齢を測る研究など...
収録日:2024/06/26
追加日:2024/10/10
堀江重郎
順天堂大学医学部・大学院医学研究科 教授
4

石破新総裁誕生から考える政治家の運と『マカーマート』

石破新総裁誕生から考える政治家の運と『マカーマート』

『マカーマート』から読む政治家の運(1)中世アラブの知恵と現代の日本政治

人間とりわけ政治家にとって運がいいとはどういうことか。それを考える上で読むべき古典がある。それが中世アラブ文学の古典で教養人必読の書ともいえる、アル・ハリーリー作の『マカーマート』である。巧みなウィットと弁舌が...
収録日:2024/10/02
追加日:2024/10/19
山内昌之
東京大学名誉教授
5

遊女の実像…「苦界と公界」江戸時代の吉原遊郭の二面性

遊女の実像…「苦界と公界」江戸時代の吉原遊郭の二面性

『江戸名所図会』で歩く東京~吉原(1)「苦界」とは異なる江戸時代の吉原

『江戸名所図会』を手がかりに江戸時代の人々の暮らしぶりをひもとく本シリーズ。今回は、遊郭として名高い吉原を取り上げる。遊女の過酷さがクローズアップされがちな吉原だが、江戸時代の吉原には違う一面もあったようだ。政...
収録日:2024/06/05
追加日:2024/11/18
堀口茉純
歴史作家