テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2021.04.19

ネットビジネスに誘われやすい人の特徴

 コロナ禍は人の集まる業種を直撃し、多くのバイト難民を生んだ一方で、悪徳ネットワークビジネスを副産物としている、と言われます。「スキマ時間で楽しく稼げる」といった誘い文句は、バイト先を失った学生や主婦をターゲットとして、新しげな展開を見せています。ハマると怖いネットワークビジネスについて、どんな仕組みなのか、どんな人がネラわれやすいのか、調べてみました。

「ネットワークビジネスは合法ですよ」と言うけれど…

 ネットワークビジネスはネズミ講と違って合法的なビジネス手法だとよく言われますが、日本国内では特定商取引法によって規制される、いわば監視対象のグレーゾーンといえるでしょう。その定義は「物品販売(または役務提供)の事業」であり、「再販売、受託販売もしくは販売のあっせんをする者を」「特定利益が得られると誘引し」「特定負担を伴う取引(条件等の変更を含む)をするもの、とされています。

 具体的には、「このグループに属すると売値の3割引で商品を買える。誰かを誘って売れば差額はあなたの利益」とか「さらに誰かを勧誘して入会させると、一人1万円の紹介料がもらえる」などといって人を勧誘し、商品代金以外の負担を負わせるもの。会員を多段階式に増やすのが目的ですから、本来の商品代金の値引きを持ちかけられることもあります。「規定は3割引だけど、あなただから半値にする」、ひどい時は「無料でいい」などということも。

 扱う商品は化粧品、健康食品(サプリメント)、健康器具などが中心で、通信機器や情報機器のほか、投資や副業で儲かるノウハウやシステムを教えるための実体のない情報商材であるケースも増えてきました。これらの共通点は「知っている人だけがトクをする(痩せる、シミが消える、ガンが治るetc.)抜け穴がある」とささやいてくるところ。「知らなかったワタシだけが損をしてた?」と、人間の心の弱点を突いてたくみに勧誘し、金銭的損害だけでなく、その人が築いてきた人間関係までボロボロにしてしまうのが、ネットワークビジネスの特徴です。

誘われやすい人にはどんな特徴があるの?

 人間には「食べたい、寝たい、快適に生活したい」という生理的欲求に始まり、「お金を貯めたい、病気になりたくない」などの安全欲求、「社会とつながりたい、何かのグループに属したい」という社会的欲求、「みんなに認められたい、リスペクトされたい」という承認欲求、「あるべき自分になりたい」という自己実現欲求の5段階があります。

 途中で気づかれた方も多いと思いますが、これはアメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱した「欲求5段階説」。そして、この5段階の欲求を徹底的に利用してビジネス展開に結びつけているのがネットワークビジネス(連鎖販売取引、マルチ商法)です。

 だから、バイトがなくなって生活に困っている学生には「いいバイトがあるよ」、マイホームを目指して貯蓄を考えている主婦には「楽に稼げるノウハウがある」、生活習慣病に苦しむ人には「NASA(やノーベル賞受賞した科学者など)が開発した新しいサプリ」、定型的な仕事にうんざりしているOLには「もっと輝いてみないか」と誘いかけ、「苦労せずに濡れ手で粟の生活を楽しみ、外車を乗り回して、リッチなブランド品に囲まれ、社会的にも認められている」サクセスフルなセンパイの姿を見せて、「あなたもすぐこちらに来られる」と誘惑するのです。

 テキはあらゆる欲求と弱みにつけ込んできます。叔父叔母やいとこといった血縁、職場やサークルの先輩、ご近所の顔役など、ちょっと断りにくい関係を利用するのも得意技。何しろ使えるものは何でも利用します。

 ですから、「人の話を素直に聞き入れる」ヒトや、「そもそもマルチ商法・ネズミ講が何なのか知らない」ようなヒトはもっともたやすいターゲットです。地方から都会へ出て、これから新しいライフスタイルを構築していこうとしている大学生や新社会人なども恰好の標的。なぜなら、そういう人たちは「成長したい」という前向きな希望にもえています。成長・前向き・ポジティブは決して悪いことであはありませんが、上にあげた「欲求」をかなえようという行動パターンである分、つけこまれやすいのは残念ながら事実です。

 静岡県立大学国際関係学部の津富ゼミが作成した小冊子では、勧誘されやすい人を「お金に余裕がない」「現在の仕事に不満がある」「ビジネスに興味が有る」「友人が多い」と4パターンに分けて解説した上で、「とか言いつつ、誰でも誘われます」とストレートに断定しています。その通りです。

 どんなに「あなたは特別だから」と持ち上げられても、誘ってくる人の目にあなたが単なる数や金額ノルマにしか見えていないことを忘れてはいけません。また、「勧誘を断りきれなかったから」「話に乗った自分がバカだったから」と諦めないことも肝心。クーリング・オフや中途解約のルールが定められているので、各地の消費者ホットラインに相談しましょう。

<参考サイト>
ネットワークビジネスから身を守るために知っておきたい5つのコト│静岡県立大学国際関係学部
https://www.u-shizuoka-ken.ac.jp/media/shitteokitai5tsunokoto1a.pdf
消費者ホットライン│消費者庁 https://www.caa.go.jp/policies/policy/local_cooperation/local_consumer_administration/hotline/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

相互依存で平和は保てるか…EUの深化・拡大の難題とは

相互依存で平和は保てるか…EUの深化・拡大の難題とは

地政学入門 ヨーロッパ編(9)EUの深化・拡大とトルコの問題

国際政治の理論として国同士の経済交流、相互依存が安全保障、つまり平和を維持できると伝統的に考えられてきたが、今般の国際政治ではそれは必ずしも当てはまらないようだ。そこでEUの問題である。国の垣根を越えて世界国家に...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/06/30
小原雅博
東京大学名誉教授
2

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

第2次トランプ政権の危険性と本質(8)反エリート主義と最悪のシナリオ

反エリート主義を基本線とするトランプ大統領は、金融政策の要であるFRBですらも敵対視し、圧力をかけている。このまま専門家軽視による経済政策が進めば、コロナ禍に匹敵する経済ショックが世界的に起こる可能性がある。最終話...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/28
柿埜真吾
経済学者
3

江藤淳と加藤典洋――AI時代を生きる鍵は文芸評論家の仕事

江藤淳と加藤典洋――AI時代を生きる鍵は文芸評論家の仕事

AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(1)AIに代わられない仕事とは何か

昨今、生成AIに代表されるようにAIの進化が目覚ましく、「AIに代わられる仕事、代わられない仕事」といったテーマが巷で非常に話題となっている。では、AIに代わられない事とは何であろうか。そこで、『江藤淳と加藤典洋』(文...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/06/25
與那覇潤
評論家
4

遍歴とアバター…多様な仏、多様な菩薩が変容する面白さ

遍歴とアバター…多様な仏、多様な菩薩が変容する面白さ

おもしろき『法華経』の世界(5)遍歴するアバター

『銀河鉄道の夜』の著者・宮沢賢治にとってもそうだが、『法華経』の重要なテーマは「遍歴」であると考えられる。遍歴や修行の旅は、仏教的には方便を用いて悟りに向かうことだが、『大日経』住心品には悟りと大悲こそが究境と...
収録日:2025/01/27
追加日:2025/06/29
鎌田東二
京都大学名誉教授
5

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス

「重要思考」で考え、伝え、聴き、そして会話・議論する――三谷宏治氏が著書『一瞬で大切なことを伝える技術』の中で提唱した「重要思考」は、大事な論理思考の一つである。近年、「ロジカルシンキング」の重要性が叫ばれるよう...
収録日:2023/10/06
追加日:2024/01/24
三谷宏治
KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授