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DATE/ 2021.06.01

なぜトヨタ車ばかりが売れるのか?

 トヨタのクルマには特徴がないとか、カッコ悪いなどといわれたのは、いまや昔の話である。2020年度の車名別新車販売ランキングの乗用車ベスト10は、1位「ヤリス」、2位「ライズ」、3位「カローラ」、4位「アルファード」、5位「ルーミー」と、上位5位をトヨタ車が占め、ようやく6位にホンダ「フィット」が入った。トヨタの登録車の市場シェアは50%を超えた。トヨタのクルマがダサいと思っているのはオジサンたちで、若い人たちはトヨタのクルマをカッコいいと思っているのだ。

 では、なぜトヨタ車ばかりが売れるのか。

 ズバリ、2009年6月、豊田章男氏が社長に就任し、以来、「もっといいクルマをつくろうよ」と社内にいい続けてきたからにほかならない。トヨタのクルマはそれ以降、大きく変わった。

 豊田氏は、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)といわれる設計思想の改革に着手した。クルマを骨格から変え、例えばフォルクスワーゲン車に比べて高かった車高と重心を5センチも下げた。結果、走る、曲がる、止まるの基本性能、走行安定性が大幅に向上。デザインの自由度も増した。特徴あるフロントグリルなどを投入し、無難だが印象に残らないといわれたトヨタ車の“顔”に個性を加えていった。

 トヨタのクルマが売れる理由は、ほかにもある。豊田氏は社長就任前から、トヨタのトップガンだった故・成瀬弘氏からドライビングスキルや車を評価する技術を学び、2013年以降、トヨタのマスタードライバーを務めている。自らを「最終センサー」と呼び、トヨタの全車種の責任者としてデザインや乗り心地をチェックする。

 その感性、感覚を磨くため、いまも“モリゾウ”の名前で、現役ドライバーとしてステアリングを握っている。“モリゾウ”には、若い自動車ファンから圧倒的支持が寄せられている。

 実際、近年のトヨタ車の評価は、海外でも高まっている。2020年のトヨタを象徴する車といえば、「ヤリス」である。2月に「ヴィッツ」を刷新するかたちで「ヤリス」が発売され、冒頭、触れたように2020年度新車ランキングで首位を獲得した。8月にはコンパクトSUVの「ヤリスクロス」、翌9月には豊田氏が「トヨタのスポーツカーを取り戻したい」という思いをかけた「GRヤリス」と、そのラインナップを充実させてきた。2021年3月、「トヨタ ヤリス」は欧州のカーオブザイヤーに選ばれた。

 環境対応や先進技術のアピールも、“モリゾウ”ならではだ。同5月21~23日、富士スピードウェイで開かれた24時間耐久レースには、豊田氏が参戦ドライバーの1人として、開発中の水素エンジンを搭載した「カローラ スポーツ」で出場した。水素エンジン車によるレース出場は、世界初だ。

「水素というと爆発のイメージを持たれていますので、安全を証明するためにも私がドライバーとして参加します」と、豊田氏は語っている。

 自動車メーカーの社長のクルマ好きは、当たり前のことのようにも思われるが、ここまでクルマに心酔する社長は、世界の自動車メーカーを見渡してもほかにいない。完全にトヨタのイメージを一新した。

 豊田氏が社長に就任して12年が経過した。豊田氏はいまも、「もっといいクルマをつくろうよ」といい続けている。そのブレない経営の意志が、トヨタのクルマを完全に変えたといっていい。トヨタのクルマが売れ続けるのは、トップの強いリーダーシップがあるからだ。

文=片山修
片山 修(ジャーナリスト)
愛知県名古屋市生まれ。経済、経営など幅広いテーマを手掛けるジャーナリスト。鋭い着眼点と柔軟な発想力が持ち味。長年の取材経験に裏打ちされた企業論、組織論、人事論には定評がある。著書に、『豊田章男』(東洋経済新報社)、『本田宗一郎と「昭和の男」たち』(文春新書)など多数。

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
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