社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
日本で唯一「ゴムタイヤ」列車が走る場所とは
一般的に列車はレールの上を鉄輪で走っていますが、クルマのように「ゴムタイヤ」で走る列車があるのをご存じでしょうか。世界でも非常に珍しいものですが、実は日本のある路線でも走っています。それが札幌の市営地下鉄3路線(南北線、東西線、東豊線)です。
世界の都市でゴムタイヤ列車を採用しているのは、札幌のほかはフランスのパリ、イスラエルのハイファ、カナダのモントリオール、メキシコのメキシコシティ、チリのサンティアゴなど、十数例ほどしかありません。
しかも札幌の場合はレールを使わず、線路の真ん中を通る筋のような突起「案内軌条」をタイヤではさんで走行する「札幌方式」という独自のシステムを使って運行しているため、日本のみならず世界の鉄道ファンから注目される存在となっています。
しかし、なぜ鉄輪ではなく、ゴムタイヤなのでしょうか。採用の理由や、ゴムタイヤならではの特徴をご紹介します。
もっとも古くからゴムタイヤ列車を運行しているのは札幌市営地下鉄「南北線」です。南北線は札幌冬季オリンピックにともなう交通整備の一環として発足したものの、当初、目指す工期はかなり短く、建設費の予算も莫大なものとなっていました。
そこで工期短縮と建設費削減のため、地上の廃線路(旧定山渓鉄道)を活かし、地下から地上の高架へと走行する区間(現在の平岸駅~真駒内駅)が設けられることになったのです。
当然ながら地下よりも地上のほうが音は響きますし、特に今のようにロングレールが一般的でなかった当時は「ガタンゴトン」というレールの継ぎ目の音と振動により、騒音が非常に発生しやすい状況でした。
そこで当時の札幌市交通局長が、鉄輪よりも静粛性に優れたゴムタイヤの導入を提案し、これが受けいれられました。ここに世界で5例目にして、日本初のゴムタイヤ列車が誕生したのです。
先ほど述べたように、南北線は地下から地上へと運行する区間があります。ゴムタイヤは粘着性が高いため、急勾配でもしっかりと安全に登ることが可能。その点も、南北線にはうってつけだと考えられました。
以上のように、いいことづくしに見えるゴムタイヤ列車ですが、もちろん欠点もあります。
また南北線の場合はダブルタイヤを搭載しているため、もしも片方のタイヤがパンクを起こしたとしても、もう片方のタイヤで走行することが可能。また南北線以外の2路線(東西線・東豊線)の場合、ゴムタイヤのそばに金属製の補助輪が備えられているため、もしもの時はそれが稼働して走行することになっています。
とはいえ、やはりゴムタイヤは鉄輪と比べると、摩耗が激しい傾向にあるのは否めません。まめなタイヤ交換が必要となるため、メンテナンスによるコスト面は高くつきやすくなっています。
このように維持コストがかさみやすいゴムタイヤ列車ですが、今でも地域住民の生活の足として重要な役割を担っており、なくてはならないものとなっています。誕生した歴史、そしてレールがないという希少性も相まって、全国の鉄道ファンの心を惹きつけてやみません。
日夜安全を守り続けている作業員の方々に敬意を払いつつ、これからも運行が続いていくことを願うばかりです。
世界の都市でゴムタイヤ列車を採用しているのは、札幌のほかはフランスのパリ、イスラエルのハイファ、カナダのモントリオール、メキシコのメキシコシティ、チリのサンティアゴなど、十数例ほどしかありません。
しかも札幌の場合はレールを使わず、線路の真ん中を通る筋のような突起「案内軌条」をタイヤではさんで走行する「札幌方式」という独自のシステムを使って運行しているため、日本のみならず世界の鉄道ファンから注目される存在となっています。
しかし、なぜ鉄輪ではなく、ゴムタイヤなのでしょうか。採用の理由や、ゴムタイヤならではの特徴をご紹介します。
ゴムタイヤのメリット1:静かで快適な乗り心地
ゴムタイヤの最大の利点として上げられるのは、鉄輪よりも走行音が抑えられる点です。もっとも古くからゴムタイヤ列車を運行しているのは札幌市営地下鉄「南北線」です。南北線は札幌冬季オリンピックにともなう交通整備の一環として発足したものの、当初、目指す工期はかなり短く、建設費の予算も莫大なものとなっていました。
そこで工期短縮と建設費削減のため、地上の廃線路(旧定山渓鉄道)を活かし、地下から地上の高架へと走行する区間(現在の平岸駅~真駒内駅)が設けられることになったのです。
当然ながら地下よりも地上のほうが音は響きますし、特に今のようにロングレールが一般的でなかった当時は「ガタンゴトン」というレールの継ぎ目の音と振動により、騒音が非常に発生しやすい状況でした。
そこで当時の札幌市交通局長が、鉄輪よりも静粛性に優れたゴムタイヤの導入を提案し、これが受けいれられました。ここに世界で5例目にして、日本初のゴムタイヤ列車が誕生したのです。
ゴムタイヤのメリット2:登坂性能に優れる
ゴムタイヤの利点の二つ目は、急な坂を登りやすいこと、つまり登坂性に優れているところです。先ほど述べたように、南北線は地下から地上へと運行する区間があります。ゴムタイヤは粘着性が高いため、急勾配でもしっかりと安全に登ることが可能。その点も、南北線にはうってつけだと考えられました。
ゴムタイヤのメリット3:加速・減速がしやすい
ゴムタイヤの利点の三つ目は、加速・減速のしやすさです。特に駅間の距離が短い路線ほどその性能を発揮しやすく、最適だと考えられています。以上のように、いいことづくしに見えるゴムタイヤ列車ですが、もちろん欠点もあります。
ゴムタイヤのデメリット1:摩耗しやすく、維持コストが高い
まずゴムタイヤとなれば、心配なのがパンクでしょう。ただこれに関しては走行部に設置された「パンク検知装置」により事前に察知できるようになっていて、現在はゴムの劣化によるパンクはほとんどないのだそうです。また南北線の場合「シェルター」と呼ばれる高架を覆うドームのおかげで、雪や雨によるゴムの劣化は最低限に抑えられています。また南北線の場合はダブルタイヤを搭載しているため、もしも片方のタイヤがパンクを起こしたとしても、もう片方のタイヤで走行することが可能。また南北線以外の2路線(東西線・東豊線)の場合、ゴムタイヤのそばに金属製の補助輪が備えられているため、もしもの時はそれが稼働して走行することになっています。
とはいえ、やはりゴムタイヤは鉄輪と比べると、摩耗が激しい傾向にあるのは否めません。まめなタイヤ交換が必要となるため、メンテナンスによるコスト面は高くつきやすくなっています。
ゴムタイヤのデメリット2:消費電力が大きい
ほかに、ゴムタイヤは「消費電力が大きい」という欠点が挙げられます。鉄輪は惰性によって比較的少ないエネルギーで走行できますが、ゴムタイヤは前述したとおり粘着性があるため、速度が低下しやすくなります。そのため走行に必要なエネルギー量が増え、比例して消費電力も大きくなってしまうのが難点です。このように維持コストがかさみやすいゴムタイヤ列車ですが、今でも地域住民の生活の足として重要な役割を担っており、なくてはならないものとなっています。誕生した歴史、そしてレールがないという希少性も相まって、全国の鉄道ファンの心を惹きつけてやみません。
日夜安全を守り続けている作業員の方々に敬意を払いつつ、これからも運行が続いていくことを願うばかりです。
<参考サイト>
・「ゴムタイヤ」の列車ってほんとにあるの?(一般社団法人日本地下鉄協会)
http://www.jametro.or.jp/100/009.html
・「ゴムタイヤ」の列車ってほんとにあるの?(一般社団法人日本地下鉄協会)
http://www.jametro.or.jp/100/009.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
アカデメイアからアカデミーへ…自由なる学びの府の原型
「アカデメイア」から考える学びの意義(3)受け継がれる学園の理念
プラトンが創設した学問アカデメイア。そこでは性別や身分を問わず多種多様な人々が議論を展開し、学問に励んだ。では創設者のプラトンは、その学園でどのように振る舞っていたのか。実は、アカデメイアにおいて、プラトンは自...
収録日:2025/06/19
追加日:2025/08/27
日本は集権的か分権的か…地理と歴史が作る人間の性質とは
「集権と分権」から考える日本の核心(1)日本の国家モデルと公の概念
今も明治政府による国家モデルが生きている現代社会では、日本は中央集権の国と捉えられがちだが、歴史を振り返ればどうだったのかを「集権と分権」という切り口から考えてみるのが本講義の趣旨である。7世紀に起こった「大化の...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/08/18
スターリンクや宇宙旅行の課題とは?…民間企業の宇宙開発
未来を知るための宇宙開発の歴史(6)技術の確立、そして民間企業が参入へ
宇宙事業には民間企業が参入し始めている。有名なのはイーロン・マスク率いるスペースX社で、次々とロケット(衛星)を打ち上げている。だが、そこには懸念もあるという。はたして、どのようなことだろうか。さらに近い将来、宇...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/08/26
世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
数学も音楽も生きていることそのもの。そこに正解はなく、だれもがみんな数学者で音楽家である。これが中島さち子氏の持論だが、この考え方には古代ギリシア以来、西洋で発達したリベラルアーツが投影されている。この信念に基...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/08/28
「生成AI」実装の衝撃…人工知能の歴史と特長
Microsoft Copilot~AIで仕事はどう変わるか(1)「生成AI」の画期性
ChatGPTに代表される「生成AI(Generative AI)」が社会を、そして仕事を、大きく変えようとしている。日本マイクロソフト株式会社の渡辺宣彦氏によれば、生成AIは「人間の英知をすべて装備している」という。では、いったい、...
収録日:2023/08/01
追加日:2023/09/27