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DATE/ 2023.06.09

日本で唯一「ゴムタイヤ」列車が走る場所とは

 一般的に列車はレールの上を鉄輪で走っていますが、クルマのように「ゴムタイヤ」で走る列車があるのをご存じでしょうか。世界でも非常に珍しいものですが、実は日本のある路線でも走っています。それが札幌の市営地下鉄3路線(南北線、東西線、東豊線)です。

 世界の都市でゴムタイヤ列車を採用しているのは、札幌のほかはフランスのパリ、イスラエルのハイファ、カナダのモントリオール、メキシコのメキシコシティ、チリのサンティアゴなど、十数例ほどしかありません。

 しかも札幌の場合はレールを使わず、線路の真ん中を通る筋のような突起「案内軌条」をタイヤではさんで走行する「札幌方式」という独自のシステムを使って運行しているため、日本のみならず世界の鉄道ファンから注目される存在となっています。

 しかし、なぜ鉄輪ではなく、ゴムタイヤなのでしょうか。採用の理由や、ゴムタイヤならではの特徴をご紹介します。

ゴムタイヤのメリット1:静かで快適な乗り心地

 ゴムタイヤの最大の利点として上げられるのは、鉄輪よりも走行音が抑えられる点です。

 もっとも古くからゴムタイヤ列車を運行しているのは札幌市営地下鉄「南北線」です。南北線は札幌冬季オリンピックにともなう交通整備の一環として発足したものの、当初、目指す工期はかなり短く、建設費の予算も莫大なものとなっていました。

 そこで工期短縮と建設費削減のため、地上の廃線路(旧定山渓鉄道)を活かし、地下から地上の高架へと走行する区間(現在の平岸駅~真駒内駅)が設けられることになったのです。

 当然ながら地下よりも地上のほうが音は響きますし、特に今のようにロングレールが一般的でなかった当時は「ガタンゴトン」というレールの継ぎ目の音と振動により、騒音が非常に発生しやすい状況でした。

 そこで当時の札幌市交通局長が、鉄輪よりも静粛性に優れたゴムタイヤの導入を提案し、これが受けいれられました。ここに世界で5例目にして、日本初のゴムタイヤ列車が誕生したのです。

ゴムタイヤのメリット2:登坂性能に優れる

 ゴムタイヤの利点の二つ目は、急な坂を登りやすいこと、つまり登坂性に優れているところです。

 先ほど述べたように、南北線は地下から地上へと運行する区間があります。ゴムタイヤは粘着性が高いため、急勾配でもしっかりと安全に登ることが可能。その点も、南北線にはうってつけだと考えられました。

ゴムタイヤのメリット3:加速・減速がしやすい

 ゴムタイヤの利点の三つ目は、加速・減速のしやすさです。特に駅間の距離が短い路線ほどその性能を発揮しやすく、最適だと考えられています。

 以上のように、いいことづくしに見えるゴムタイヤ列車ですが、もちろん欠点もあります。

ゴムタイヤのデメリット1:摩耗しやすく、維持コストが高い

 まずゴムタイヤとなれば、心配なのがパンクでしょう。ただこれに関しては走行部に設置された「パンク検知装置」により事前に察知できるようになっていて、現在はゴムの劣化によるパンクはほとんどないのだそうです。また南北線の場合「シェルター」と呼ばれる高架を覆うドームのおかげで、雪や雨によるゴムの劣化は最低限に抑えられています。

 また南北線の場合はダブルタイヤを搭載しているため、もしも片方のタイヤがパンクを起こしたとしても、もう片方のタイヤで走行することが可能。また南北線以外の2路線(東西線・東豊線)の場合、ゴムタイヤのそばに金属製の補助輪が備えられているため、もしもの時はそれが稼働して走行することになっています。

 とはいえ、やはりゴムタイヤは鉄輪と比べると、摩耗が激しい傾向にあるのは否めません。まめなタイヤ交換が必要となるため、メンテナンスによるコスト面は高くつきやすくなっています。

ゴムタイヤのデメリット2:消費電力が大きい

 ほかに、ゴムタイヤは「消費電力が大きい」という欠点が挙げられます。鉄輪は惰性によって比較的少ないエネルギーで走行できますが、ゴムタイヤは前述したとおり粘着性があるため、速度が低下しやすくなります。そのため走行に必要なエネルギー量が増え、比例して消費電力も大きくなってしまうのが難点です。

 このように維持コストがかさみやすいゴムタイヤ列車ですが、今でも地域住民の生活の足として重要な役割を担っており、なくてはならないものとなっています。誕生した歴史、そしてレールがないという希少性も相まって、全国の鉄道ファンの心を惹きつけてやみません。

 日夜安全を守り続けている作業員の方々に敬意を払いつつ、これからも運行が続いていくことを願うばかりです。

<参考サイト>
・「ゴムタイヤ」の列車ってほんとにあるの?(一般社団法人日本地下鉄協会)
http://www.jametro.or.jp/100/009.html
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