テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2023.06.06

脳の専門家が選んだ「賢い子」を育てるかがくのおはなしの魅力

 幼いころ、両親が読み聞かせてくれた物語や本の内容を、今でも覚えているという方はきっと多いことでしょう。なかには何となく覚えていたものもあれば、興味を持ち自分でも読んだり調べたりしたことで、より深く記憶に残っているものもあるかもしれません。

 本日ご紹介するのは、そんな読み聞かせのための一冊、『脳の専門家が選んだ「賢い子」を育てる かがくのおはなし50』(宝島社)です。監修を行っているのは、東北大学加齢医学研究所教授の瀧靖之先生です。これまでにも『脳の専門家が選んだ「賢い子」を育てる100のおはなし』『脳の専門家が選んだ「賢い子」を育てることばのえじてん』『脳の専門家が選んだ「賢い子」を育てる100のものがたり』『脳の専門家が選んだ「賢い子」を育てる「どうして?」クイズ100』(以上、すべて宝島社)を監修されており、専門分野として人の脳の発達や、加齢のメカニズムを明らかにする世界最先端の脳画像研究を行っています。瀧先生はいわば「脳画像研究の第一人者」というわけです。

 そんな脳の専門家が、子どもたちのためにまとめられた本書の魅力に触れて行きましょう。

知的好奇心を刺激する50の読み物

 本書には50個の読み物が用意されています。その内容は、「くらし」や「たべもの」といった身近なものから、「ことば」「れきし」などの人文学的なもの、「うちゅう」「しぜん」などの自然科学など、さまざまです。それぞれの読み物は、数ページの程度の短いもので、大人が子どもに読み聞かせることをおすすめしています。雑学やマメ知識レベルのものもあれば、本格的な科学の知識が得られるものまで幅広く網羅されており、親御さんの補助があることで、より深く内容を理解することができます。

 では、本書のタイトルにもある“「賢い子」を育てる”ためのポイントはどこにあるのでしょうか。それはズバリ、子どもたちの「知的好奇心」を刺激することにあります。瀧先生は本書の冒頭で、次のように話します。

〈知的好奇心とは、「これなに?」「どうして?」と興味をもち、それについて「もっと知りたい」とワクワクする気持ちです。幼いうちに知的好奇心をもって「知ることは楽しい」といく経験をたくさんすると、自然と学力が高くなり、勉強などにも意欲的にとり組めるようになります。〉

 こうした子どもたちの感じる“ワクワク”のきっかけを、本書はあたえてくれるのです。

脳科学から見る読み聞かせの影響

 本書の冒頭には、最先端の脳研究から導き出された、子どもの脳の発達の仕組みや、読み聞かせがあたえる子どもたちへの良い影響など、大人向けの脳科学の解説もあります。そのなかで、読み聞かせをはじめるのに適している時期は、生後6か月から2歳ごろとされています。このころは、母国語の獲得に関わる時期とされており、自分で本を読みたいと思うようになると、自然と文字を覚えて行くのです。

 また、瀧先生は「幼児期を過ぎて自分で文字が読めるようになっても、子どもが望むかぎり、読み聞かせを続けることをおすすめします」とも言います。

 子どもが「楽しい」と思える環境では、記憶をつかさどる「海馬」や感情をつかさどる「扁桃体」が互いに刺激し合うようになり、より物事を覚えやすくなるのだとか。ワクワクするお話を、毎日寝る前に親にしてもらう。それは脳の発達のみならず、良好な親子関係の構築にも深く結びつきます。

意外と専門的な読み物のかずかず

 ではここで、いくつかの読み物のタイトルをご紹介しましょう。

「どうして人間は記憶ができるの?」
「どうして風邪をひくと熱が出るの?」
「どうして磁石はくっつくの?」
「どうして季節があるの?」
「どうしてロケットで宇宙に行けるの?」
「どうして花や植物に水をあげるの?」

 パッとタイトルを見ただけで、子どもにもわかるように説明ができるという方は、素晴らしい知識をお持ちです。しかし、なかなかそういった方は少ないのではないでしょうか。むしろ、意外と本格的な内容だなと思われた人も多いかもしれません。本書には、大人が読んでいても、「ふむふむ」とうなずけるような項目が揃っています。読んでいるうちに、意外と大人の方が夢中になってしまうなんてこともあるかもしれませんね。

 また、内容も読みやすく、すべての漢字にひらがなが振ってあるため、文字が読めるようになれば、子ども自身、読み返すこともできるでしょう。

子どもの目線から感じる「世界のなぞ」

 本書の大きな魅力は「親子で楽しめる」というところです。小学校や中学校で習った事がらも、いつしか当たり前になり、何かに疑問を抱くということも少なくなるのが大人です。しかし、何気ない日常の出来事でも、「なぜ?」「どうして?」を、子どもも目線で見ることで、新しい気づきや発見があります。

 子どもたちにとって、この世界は謎だらけです。そして、わたしたち大人も、わかっているつもりで、意外とわかっていないということもたくさんあります。お子さんに読み聞かせをしながら、一緒に科学の楽しいお話に触れてみてはいかがでしょうか。きっとかけがえのない貴重な体験を親子で共有できるはずです。

<参考文献>
『脳の専門家が選んだ「賢い子」を育てる かがくのおはなし50』(瀧靖之監修、宝島社)
https://tkj.jp/book/?cd=TD041777&p_bn=yoyaku

<参考サイト>
瀧靖之先生の研究室(東北大学 加齢医学研究所)
http://www.nmr.idac.tohoku.ac.jp/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係

世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係

数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家

数学も音楽も生きていることそのもの。そこに正解はなく、だれもがみんな数学者で音楽家である。これが中島さち子氏の持論だが、この考え方には古代ギリシア以来、西洋で発達したリベラルアーツが投影されている。この信念に基...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/08/28
中島さち子
ジャズピアニスト 数学研究者 STEAM 教育者 メディアアーティスト
2

外交とは何か――著書のあとがきに込めたメッセージ

外交とは何か――著書のあとがきに込めたメッセージ

外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い

外交とは国益を最大化しなければいけないのだが……。35年にもわたる外交官経験を持つ小原氏が8年がかりで書き上げた著書『外交とは何か 不戦不敗の要諦』(中公新書)。小原氏曰く、外交とは「つかみどころのないほど裾野が広い...
収録日:2025/04/15
追加日:2025/09/05
小原雅博
東京大学名誉教授
3

2交代制と3交代制、どちらが問題?…有効な夜勤対策は

2交代制と3交代制、どちらが問題?…有効な夜勤対策は

睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(6)夜勤問題と仮眠対策

睡眠のリズムに大きな影響を及ぼすシフトワーク。医療業界などそうした働き方をせざるを得ない職場では、夜勤問題などもあり、2交代制と3交代制、どちらにも問題がある。そうしたシフトワークの影響を減らすためにどのような工...
収録日:2025/01/17
追加日:2025/09/06
西多昌規
早稲田大学スポーツ科学学術院教授 早稲田大学睡眠研究所所長
4

著者が語る!『『江戸名所図会』と浮世絵で歩く東京』

著者が語る!『『江戸名所図会』と浮世絵で歩く東京』

編集部ラジオ2025(19)堀口茉純先生の「講義録」発刊!

テンミニッツ・アカデミーで6回のシリーズ講義として続いてきた、堀口茉純先生の《『江戸名所図会』で歩く東京》が、遂に講義録として発刊されました。今回の編集部ラジオでは、著者の堀口茉純先生にお越しいただき、この書籍の...
収録日:2025/08/19
追加日:2025/09/03
5

ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識

ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識

ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム

「ヒトは共同保育の動物だ」――核家族化が進み、子育ては両親あるいは母親が行うものだという認識が広がった現代社会で長谷川氏が提言するのは、ヒトという動物本来の子育て方法である「共同保育」について生物学的見地から見直...
収録日:2025/03/17
追加日:2025/08/31
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長 元総合研究大学院大学長