テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2023.09.01

「にほん」と「にっぽん」どちらが正しいのか?

 にほん国憲法と大にっぽん帝国憲法、にほん航空と全にっぽん空輸、にほん書紀とにっぽん永代蔵、にほん共産党とにっぽん維新の会、そして、東京のにほん橋と大阪のにっぽん橋……。

 国名である「日本」の読み方は「にほん」と「にっぽん」ですが、一方に統一することは不可能なため、どちらの発音でもよいとされています。つまりニッポンの呼び方は、「にほん」と「にっぽん」はどちらも正しいといえます。

「にほん」と「にっぽん」の誕生

 国名として「日本」が使われ始めたのは、奈良時代までさかのぼります。大化の改新の頃、「日出づる処」の意味で「日本(ひのもと)」と称したことが始まりといわれています。

 ただし、当初は「日本」という表記で「やまと」と呼ばれていました。古くは大和地方を基盤とする大和政権によって国家統一がなされたことから、国名を「やまと」や「おおやまと」と称していたからです。

 ではなぜ、「日本」は「にほん」または「にっぽん」と呼ばれるようになったのでしょうか。

 日本語の文字は漢字が基となっていますが、漢字は古代中国の統一王朝である「漢」の文字でした。飛鳥時代から奈良時代にかけての中国との交流で、日本に漢字がもたらされたことにより、日本語の発音に漢字の表記が当てられることとなります。

 しかし、漢字には中国で使われていた本来の字音(読み方、発音)として、漢音(かんおん)や呉音(ごおん)などがありました。例えば、「日」の漢音は「ジツ」で呉音は「ニチ」、「本」は漢音・呉音とも「ホン」です。

 つまり「日本」は、(1)最初に発音されていた「やまと」や「おおやまと」から、(2)呉音や漢音の「にちほん」となり、(3)さらに「にっぽん」に音変化したうえで、(4)時代が下がるにつれて発音のやわらかな「にほん」とも呼ばれるようになり、(5)「にほん」と「にっぽん」が併用されるようになった――のではないかといわれています。

「日本」の読み方が統一されなかった経緯

 「日本」が「にほん」と「にっぽん」と二つの呼び方で呼ばれるようになった歴史を考察してきましたが、やはり国名不統一の国はめずらしいといえます。そのため、日本の国名を統一するという動きは何度もありました。

 まず、昭和9(1934)年に臨時国語調査会(国語審議会の前身)が国号呼称統一案として「ニッポン」を決議しましたが、政府採択には至りませんでした。

 その後も、戦前の帝国議会や戦後の国会を通じて、何度か国号呼称の統一が問題になりました。例えば、昭和45(1970)年、日本初の万国博覧会(大阪万国博覧会)を開催中の閣議でも検討され、当時の佐藤栄作首相や中曽根康弘防衛庁長官が「ニッポン」を強く推したといわれています。しかし、この時も結論は出ず、問題は先送りにされました。

 そして、平成21(2009)年に当時の麻生内閣は「今後、『日本』の読み方を統一する意向はあるか」の質問に対し、「『にっぽん』または『にほん』という読み方については、いずれも広く通用しており、どちらか一方に統一する必要はないと考えている」と答弁し、現在にいたっています。

 ただし、日本放送協会は昭和26(1951)年に、正式の国号としては「ニッポン」、その他の場合は「ニホン」と言ってもよいとしました。ちなみに、『NHK日本語発音(にほんごはつおん)アクセント新辞典』の編者は、NHK(にっぽんほうそうきょうかい)放送文化研究所です。

 いかがでしたでしょうか。身近にある「にほん」と「にっぽん」、ぜひ探してみてください。

<参考文献・参考サイト>
・『デジタル大辞泉』(小学館)
・『歴史に「何を」学ぶのか』(半藤一利著、ちくまプリマー新書)
・『社会人の社会科』(吹浦忠正著、祥伝社 )
・『NHK日本語発音アクセント新辞典』(NHK放送文化研究所編、NHK出版)
・日本は「にっぽん」と「にほん」どちらの呼び方が正しいの?
https://topics.tbs.co.jp/article/detail/?id=4012
・「ニホン」も「ニッポン」も正しい!「日本」の読み方はなぜ統一しない?/毎日雑学
https://ddnavi.com/serial/695538/a/
・言葉のてびき - 教育出版 - Q18「日本」は「ニッポン」か「ニホン」か
https://www.kyoiku-shuppan.co.jp/textbook/chuu/kokugo/guidanceq018-00.html
・「ニホン」と「ニッポン」、なぜ2つの呼び方が存在するのか?
https://diamond.jp/articles/-/297292
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

千手千眼観音のサポートとは?菩薩たちのビッグバンとは?

千手千眼観音のサポートとは?菩薩たちのビッグバンとは?

おもしろき『法華経』の世界(3)止観と菩薩による救済

最澄の瞑想図は非常に美しいが、彼は何を瞑想していたのだろうか。答えは無、心の動きを止めるのが「止観」だからだ。また、『法華経』全巻の構成を見ると、弥勒、観音、普賢の三菩薩が衆生を導き救済する中心的存在であること...
収録日:2025/01/27
追加日:2025/05/18
鎌田東二
京都大学名誉教授
2

トランプ関税はアダム・スミス以前の重商主義より原始的

トランプ関税はアダム・スミス以前の重商主義より原始的

第2次トランプ政権の危険性と本質(2)トランプ関税のおかしな発想

「トランプ関税」といわれる関税政策を積極的に行う第二次トランプ政権だが、この政策によるショックから株価が乱高下している。この政策は二国間の貿易収支を問題視し、それを「損得」で判断してのものだが、そもそもその考え...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/05/17
柿埜真吾
経済学者
3

相互関税の影響は?…トランプが築く現代版の万里の長城

相互関税の影響は?…トランプが築く現代版の万里の長城

世界を混乱させるトランプ関税攻勢の狙い(1)「相互関税」とは何か?

トランプ大統領は、2025年4月2日(アメリカ時間)に貿易相手国に「相互関税」を課すと発表し、「解放の日」だと唱えた。しかし、「相互関税」の考え方は、まったくよくわからないのが実状だ。はたして、トランプ大統領がめざす...
収録日:2025/04/04
追加日:2025/04/10
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
4

米国史の教訓…ドル基軸通貨体制の信認を問う大転換に?

米国史の教訓…ドル基軸通貨体制の信認を問う大転換に?

株価と歴史…トランプ関税の影響を読む(1)アメリカ史の教訓とは

トランプ関税の影響は、今後、どのように広がっていくのだろうか? 過去の大きな構造変化や金融環境の変化が各国の「株価リターン」にどのような影響を与えたのかを分析しつつ、今後を考えるヒントがないかを検証していく。第1...
収録日:2025/04/18
追加日:2025/05/02
養田功一郎
元三井住友DSアセットマネジメント執行役員
5

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス

「重要思考」で考え、伝え、聴き、そして会話・議論する――三谷宏治氏が著書『一瞬で大切なことを伝える技術』の中で提唱した「重要思考」は、大事な論理思考の一つである。近年、「ロジカルシンキング」の重要性が叫ばれるよう...
収録日:2023/10/06
追加日:2024/01/24
三谷宏治
KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授