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DATE/ 2023.09.25

地球から最も遠い場所にある「人工物」とは

 果てしなく遠い場所と思われていた宇宙ですが、それも今や昔。世界各国が人工衛星や宇宙ステーションの建設、宇宙旅行を現実化するなど、宇宙開発は日進月歩で進んでいます。

 現在は「宇宙ゴミ」が問題化するほど、数え切れないほどの人工物が宇宙空間を飛び続けていますが、その中でも最も地球から遠い場所を飛んでいる人工物は、どんなものなのでしょうか。

地球から最も遠い惑星探査機「ボイジャー」

 NASAが打ち上げた2機の無人惑星探査機「ボイジャー」。その2機のうち1号機が地球から145億マイル(約233億km)もの距離にあり、地球で最も遠い人工物とされています。

 ボイジャーは宇宙の未知なる星、新たな発見を目指す「ボイジャー計画」というプロジェクトから開発された探査機で、1977年8月20日に先に2号機が、システムエラーで延期されていた1号機が遅れて9月5日に打ち上げられました。2機には地球上の音やメッセージ、写真などが収録された「ゴールデンレコード」と呼ばれる記録体も搭載され、万が一地球外生命体と接触した際、地球上の文明について伝えるメッセンジャーとしての役割も担わされました。

 2機のボイジャーは「探査機」の名にふさわしく、木星や土星、天王星、海王星の衛星の発見、木星らに環(わ)があることを発見するなど、宇宙のさまざまな謎を解き明かすことに成功。そして45年以上経った今でも運行を続けており、現在は太陽圏のさらに外側にある「星間空間」と呼ばれるエリアにまで到達しています。ここまで到達したのはボイジャーのみ。まさに宇宙史に残る歴史的快挙となったのです。

星間空間とは

 星間空間とは、端的に言うと「恒星と恒星の間に広がる宇宙空間」のこと。太陽から日々発せられる太陽風(プラズマ)が届く範囲内を太陽圏(ヘリオスフィア)といい、星間空間はこの太陽風が途切れた、太陽圏の外側に存在しています。(※ちなみに太陽「系」と太陽「圏」をどう区別するかは、専門家によって意見が分かれる)

 星間空間には無数の塵とガス(星間物質)が浮遊しており、太陽風はその星間物質と衝突することで減速。太陽風と星間物質が混ざり合う場所、いわば太陽圏と星間空間の境界をヘリオポーズと呼びます。2012年8月25日ごろにボイジャー1号が、そして2018年11月5日に2号がこのヘリオポーズを通過し、太陽圏を離脱。「星間空間に到達した」として、大きな話題となりました。

 この時、ボイジャー1号は粒子の速度がゼロとなる領域があること、ボイジャー2号のほうは太陽圏から星間空間に向かって粒子が流れていくことを観測。また2機ともに、送られてきたデータから太陽圏内と磁場の方向に変化がない(磁場の方向は太陽圏と同じ)ことを観測しました。これにはいったいどのような意味があるのかは、現在解析中です。

限界を超えてもなお運行するボイジャー

 ボイジャーは引き続き、太陽圏と星間空間がどのように作用しあい、どのような影響をもたらすのかを探索するミッションを続けています。しかしながら運用して45年以上という年月が経ち、ボイジャー1号機の誤作動が確認されるなど、耐用面で不安要素は尽きません。また2025年には電力を使い果たし、電源が完全に落ちてしまうだろうと予測されています。

 ボイジャーの余命は残りわずかではありますが、とはいえそれまでの間は観測が続けられますし、宇宙の貴重なデータを得られることに変わりありません。

 はるか遠い星の海をただようボイジャーは、未来の私たちにいったいどのような事実をもたらしてくれるのでしょうか。続報を期待して待ちましょう。

<参考サイト>
・ボイジャー2号の「鼓動」聞こえた 通信途絶後初めて(CNN)
https://www.cnn.co.jp/fringe/35207343.html
・エドワード・ストーン~ボイジャー 太陽系を超えて~(JAXA)
https://www.jaxa.jp/article/interview/vol18/index_j.html
・地球から最も遠い人工物体「ボイジャー1号」からのデータに問題…機体の状態と一致せず(BUSINESS INSIDER)
https://www.businessinsider.jp/post-254448
・宇宙探査機「ボイジャー1号」「2号」の打ち上げから45年、いまも太陽系外から“正常なデータ”が届き続けている(WIRED)
https://wired.jp/article/voyager-1-and-2-humanitys-interstellar-envoys-soldier-on-at-45/
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