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DATE/ 2023.10.28

世界で最も危険な樹木「マンチニール」とは

 「マンチニール(manchineel)」とは、熱帯アメリカ産のトウダイグサ科の常緑広葉樹です。南北アメリカの熱帯から西インド諸島の海辺などに自生し、約15メートルの高さに育ちます。

 そして、マンチニールはスペイン語で「小リンゴ」を意味する「manzanilla」に由来するといわれているとおり、小さな青リンゴに似た黄緑色の実をたくさんつけます。そのため、自生地の特性とあわせて、別名「海辺のリンゴ(beach apple)」とも呼ばれています。

「世界で最も危険な樹木」といわれる理由

 一方、マンチニールは「死の小リンゴ(manzanilla de la muerte)」というスペイン語の俗名もあわせもっています。俗名のとおり、その実を食べると最初は甘酸っぱくておいしいものの次第に苦味へと変わり、2~3分後にはのどがはれて、ヒューヒューと虫の息を吐くことになってしまいます。さらには胃腸などの内臓にもダメージを与え、最悪の場合は命を失うともいわれています。

 そこまで聞くと、「マンチニールの実は毒をもっていて食べると危険なんだ!」と思われるかもしれまん。しかし、マンチニールの危険性は、小さな青い実だけにとどまりません。

 実は、マンチニールは「世界で最も危険な樹木」として2011年にギネス世界記録(通所『ギネスブック』)に登録されたほどの強い毒性を、樹木全体に持っています。毒の成分は完全にはわかっていませんが、アレルギー性皮膚炎の原因となるホルボールなどが含まれているといわれています。

 そのため、例えばマンチニールの幹や葉や樹液に触るだけで、火傷した時のような痛みにおそわれたり、皮膚が腫れ上がり浮腫が生じたりすることが知られています。

 さらに困ったことに、有毒成分のホルボールは非常に水に溶けやすいため、雨が降るととけ出してしまいます。したがって、もしもマンチニールの樹の下で雨宿りをした場合、枝からしたたる水滴で全身がかぶれるおそれがあります。

 くわえて、マンチニールは安易な焼却処分もできません。燃やすことによって発生する有毒な煙は、目に入ると失明のおそれすらあり、吸い込むと喉や鼻から肺にいたるまでの呼吸器を損傷するおそれがあるからです。

 以上のような理由から、マンチニールには注意書きの標識が付けられ、触ることはもちろん近寄ることも禁止されています。

現地に根ざす有用樹としてのマンチニール

 他方、マンチニールはとても固い材質のため、家具材として人気があります。伐採や加工の段階で十分な注意が必要ですが、正しい手順にのっとりしっかりと乾燥させることで、マンチニールの有毒成分をなくすことができるそうです。

 また、海辺に自生し深く根を張り厚い枝葉を茂らす特性を持つマンチニールは、侵食する波風から海岸線を守る働きをもっています。

 つまり、近寄ることさえ危険な樹木であるマンチニールですが、現地の人々の生活を支え、沿岸部の生態系を守る、有用樹としての側面もあるのです。

 なお、日本にマンチニールは自生していませんが、日本にも危険かつ有用な樹木や植物が自生しています。危険な樹木や植物であるからこそ、正しい知識をもって活用することが大切です。

<参考文献・参考サイト>
・『だれかに話したくなる あやしい植物図鑑』(菅原久夫監修、白井匠・クリハラタカシ絵 、ダイヤモンド社)
・『学校では教えてくれない ヤバい科学図鑑』(るーい著、左巻健男監修、SBクリエイティブ)
・世界で最も恐ろしい樹木「マンチニール」の正体│東洋経済
https://toyokeizai.net/articles/-/619164
・ギネスブックに登録された「もっとも危険な樹」│ログミーBiz
https://logmi.jp/business/articles/322848
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小原雅博
東京大学名誉教授