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DATE/ 2024.01.05

労働時間はなぜ「8時間」が標準なのか

 過労死など労働環境をめぐる深刻な事件が起こると、必ず取り沙汰されるのが労働時間です。法定労働時間は、原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えないように決められています。労働時間はなぜこのような8時間と定められているのでしょう?

日本の8時間労働導入は約100年前

 日本における8時間労働の始まりは、1919年10月1日、川崎造船所が始まりとされ、操業地である神戸市には「八時間労働発祥之地」の碑があります。8時間労働制を導入していた会社は、それまでも複数あったようですが、川崎造船所が始まりとされるのは、激しい労働争議のプロセスが何度もメディアに取り上げられ、達成された出来事であったことに依拠しています。

世界史からみた8時間労働の期限

 世界史的に「8時間労働」という基準値が生まれたのは、産業革命時代のイギリスです。当時、子どもを含む工場労働者が1日に10時間を超えて働かされている過酷な状態を改善するために、「仕事に8時間を、休息に8時間を、やりたいことに8時間を」というスローガンが叫ばれ、労働時間短縮を求める運動が欧米各国に広がっていきました。

 米国では、1886年5月1日、シカゴの労働者が連帯し、8時間労働制を要求する大規模なストライキが行われ、これが「メーデー(労働者の日)」の起源となりました。

 1800年代後半、8時間労働制の要求が社会運動として拡大したのは、マルクスとエンゲルスが打ち立てた社会主義思想が背景としてあります。国際的な労働者組織である第一インターナショナル、それに続く第二インターナショナルは、8時間労働制を含む労働者の権利獲得の戦いでした。結果、1917年に誕生したロシア・ソビエト連邦社会主義共和国で初めて法律として8時間労働が規定され、1919年にはILO設立と8時間労働の条約化、という世界的な労働運動の影響下、同年10月1日、川崎造船所の8時間労働制に着地するのです。

現代の8時間労働

 歴史的な8時間労働制は工場などのライン労働というベースに設定されました。現代の多様な労働に、8時間がそのまま当てはまるのかというと少し無理がでてきているという見方があります。

 多くの仕事が機械化やIT化、通信インフラの発達によって高速に処理できるようになり、人間に求められる仕事の質と量が変化しています。「労働密度(労働強度)」という考え方があり、頭を使わなくていい作業労働や待ち時間が縮約され、これまで以上にハイテンションな労働時間の持続が問題になっているのです。資料を探しにちょっと外出という労働に含まれる移動時間などで脳が休まることなく、PCと向き合いハイテンションで資料検索するような、同じ時間でも疲労度など負担が増しているのです。

 これからは、労働の時間という量だけでなく、多様な労働の質に応じた労働環境の改善を考えなければならない時期にあるように思います。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
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