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DATE/ 2024.01.14

人工的につくられた言語「エスペラント語」とは

 日本語や英語のように自然に発生し昔から話され使われてきたことばを「自然言語」といい、対して特定の個人や団体が意識的につくられたことばを「人工言語」といいます。そして、人工的につくられた言語である「エスペラント語」は、後者の代表的な言語として有名です。

 では、エスペラント語は、誰によって何のためにつくられたのでしょうか。

ザメンホフがつくった希望の国際人工言語

 「エスペラント語(Esperanto)」(「エス語」と略される場合あり)は、ポーランドのユダヤ系眼科医ザメンホフが考案し、1887年に発表しました。ザメンホフの生まれ育ったポーランド北東部のビャウィストクは、ロシア人、ポーランド人、ドイツ人、イディッシュ語を話すユダヤ人が暮らす、文化・宗教・言語が混在する地でした。そして、違いが分断や相互不理解を生んでいました。

 そのような環境で育ったザメンホフは、違いを克服する可能性を持つ言語、つまりは世界中の人々の第二言語といえるような共通語をつくるという考えを持つようになったといわれています。そのため、エスペラント語は「国際語」であり、ひいては「国際人工言語」としての特色ももっています。

 なお、「エスペラント」は、エスペラント語で「希望する人」を意味します。ザメンホフのペンネーム「エスペラント博士」がそのまま言語の名称として定着しました。

 そして、エスペラント博士であるザメンホフは、創始者としての権利を主張せずにエスペラント語をオープンソースとして開放しながら、さらに寄せられた意見を積極的に生かして改良しました。そのため、エスペラント語は知識人からアナーキストまで多くの支持を受け、世界的に普及していきました。

エスペラント語に「サルートン!」

 エスペラント語のアルファベットは、英語のアルファベットからQq、Ww、Xx、Yyの4文字を除いた28文字(ただし、内6文字には文字の上の符号「字上符」が付いている)。ラテン系の語彙を根幹とし、基礎単語数は約1900といわれています。

 そして、「文法法則に例外がない」一点以外は、仕組みや響きが自然言語に近く、使い手目線の簡単な言語体系であったり文法的構造もきわめて簡単であったりするなど、習得しやすい言語だといわれています。

 ちなみに、エスペラント語を使う際、基本となる挨拶ことばは以下となります。この機会に、ぜひ声に出してエスペラント語を話してみてください。

【エスペラント語の挨拶ことば】
「サルートン(Saluton)」こんにちは(時間を問わない軽い挨拶)
「ダンコン(Dankon)」ありがとう
「パルドーノン(Pardonon)」ごめんなさい
「ジス・レヴィード(Ĝis revido)」さようなら(気軽な場面では「ジス」のみでも可)
「ボーナン・マテーノン(Bonan matenon)」おはようございます(朝の挨拶)
「ボーナン・ターゴン(Bonan tagon)」こんにちは(昼間の挨拶)
「ボーナン・ヴェスペーロン(Bonan vesperon)」こんばんは(夕方~夜の挨拶)
 ※Bonan(良い~)の後に単語を続けるのが、いろいろな挨拶の定番パターン。

他にもある!エスペラント語以外の人工言語

 エスペラント語は、人工言語としての世界シェアは圧倒的第一位といわれていますが、エスペラント語以外の人工言語も存在しています。エスペラント語以外の代表的な人工言語には、以下のような言語があります。

「ボラピュク語(Volapük)」
 エスペラント語の次に世界シェアが多いといわれている人工言語。1879年頃にドイツの司祭シュライヤーが提唱しました。英語とロマンス語派の諸言語を基本としていますが、音声的には非常に変形しています。考案当時は急速に支持を集めましたが、習得が難しいことやシュライアーが利権を主張しすぎたこと、さらにエスペラント語などもっと使いやすい人工語が出現したため衰退し、普及しにくかったといわれています。

「イド語(Ido)」
 エスペラント語とボラピュク語についで世界シェアが多いといわれている人工言語。フランス語の国際補助語協会によりつくられ、1907年に「改善されたエスペラント語」として発表されたことからもわかるように、イド語はエスペラント語に基づいています。そのため、エスペラント語によく似ており、エスペラント語の方言のように扱われる場合もあります。

「トキポナ(Toki Pona)」
 「言語(Toki)」と「良い(Pona)」をあわせて「良い言語」を意味する、カナダの言語学者・翻訳家ソニャ・ラング氏によって発表された人工言語です。発表は2001年ですが完成したのは2014年であり、2023年現在「一番新しい言語」ともいわれています。語幹が120、音素が14、おおよその語彙数が120~137語、複合語や派生はまったくないといった、非常にシンプルな言語です。

 いかがでしたでしょうか。エスペラント語をはじめとした人工言語に興味を持った方は、ぜひ第二言語として「サルートン!」してみてください。

<参考文献・参考サイト>
・「エスペラント」『デジタル大辞泉』(小学館)
・「人工言語」『日本大百科全書(ニッポニカ)』(吉田夏彦著、小学館)
・「国際語」『日本大百科全書(ニッポニカ)』(泉幸男著、小学館)
・「人工言語」『世界大百科事典』(荒俣宏著、小学館)
・『ニューエクスプレスプラス エスペラント語』(安達信明著、白水社)
・『エスペラント-分断された世界を繫ぐHomaranismo』(大類善啓著、批評社)
・エスペラントとは ? 言語入門編│一般財団法人日本エスペラント協会
https://www.jei.or.jp/5hunkan-kouza/
・ボラピュク語(ボラピュクご)とは? 意味や使い方
https://kotobank.jp/word/%E3%83%9C%E3%83%A9%E3%83%94%E3%83%A5%E3%82%AF%E8%AA%9E-134208#goog_rewarded
・身近にあふれている人工言語
https://idiomasgalion.com/ja/%E8%BA%AB%E8%BF%91%E3%81%AB%E3%81%82%E3%81%B5%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E8%A8%80%E8%AA%9E/
・一番新しい言語ってナニ?専門家に聞いてみた
https://www.gizmodo.jp/2022/05/whats-the-newest-language.html
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