テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2024.06.19

『東大発!ハマるおうち読書』でハマる、楽しい読書教育

 子どもがなかなか本を読んでくれない、という思いを持つ親は多いかもしれません。現代はスマホやタブレットで、いつでもどこでも動画を見ることができます。またスマホやオンラインのゲームに夢中という場合もあるでしょう。画面を開けばすぐに刺激が得られる時代です。本に向かうためのハードルは以前よりも高くなっているといえます。

 一方で本を読む習慣ができれば、勉強への苦手意識が軽減されたり、言葉を知ることで思考の幅が広がったり、人の気持ちを理解したりできるようになるかもしれません。ただし、放っておいても自然と読書家になる子どもは多くはありません。それは、本のハマり方を適切に教えられていないからではないでしょうか。

 そこで、「読書は教えるものである」という視点で、本のハマり方を解説する本が今回紹介する『東大発!1万人の子どもが変わった ハマるおうち読書』(笹沼颯太著、Discover)です。

 著者の笹沼颯太さんは、筑波大付属駒場中・高を卒業後、2018年東京大学教養学部文科二類入学します。そして、在学中に株式会社Yondemy(ヨンデミー)を設立。Yondemyでは「読書は一生モノの習い事」をテーマに、子どもが読書にハマるオンライン習い事「ヨンデミー」を開発・運営し、AIやアプリを通して子どもの読書教育を行っています。

「○歳向け」「○年生向け」をあてにしないこと

 勉強もそうですが、読書も強制されれば苦手になります。あくまで楽しいと感じてもらうことが大事。このためには、大きく2つのポイントがあります。

 一つ目のポイントは適切な「レベル」です。知らない漢字や言葉にぶつかると一気に難しくなって、ハードルが上がってしまいます。子どもは日々成長しているので、その段階にピッタリフィットする本を選ぶ必要があります。このとき気をつけるポイントは「○歳向け」「○年生向け」の表記をあてにしないことです。これらが想定しているのは、「読書が好きで本を読むのが得意な子ども」だからです。

 次に二つ目のポイントは「好み」です。人気の本が全ての子どもの心に響くわけではありません。ファンタジーなのか、学園ものなのか、登場人物の性格が好奇心旺盛なのかクールなのか、こういった点が読者、つまり子どもの好みに合っているかどうかはとても大事です。

「つまみ食い」で好きを探り、一言記録をつけて傾向を把握

 ではこれらはどのように探ればよいのでしょうか。笹沼さんは「トライ&エラーを繰り返しながら、くじ引き感覚で気負わず楽しむ」と言います。また、「百発百中を狙をうとしない」ことも大事です。たとえば、15冊の本を借りてきたとしても、子どもの心にささる本は2~3冊あるかどうかといった程度と考えておく必要があるとのこと。

 そこから、「つまみ食い」をしてみることが推奨されています。子どもとともに図書館の本棚をめぐり、できるだけジャンルがばらけるように本を5~6冊選びます。このとき、子どもが「面白そう」「読んでみたい」と選んだ本があれば、どんな内容でも候補にいれます。そうして、机に並べて冒頭の部分だけを読んでみます。5分読んだら次の本へ。あとは「続きを読んでみたい」と思った本だけを読めばいいのです。

 また、このとき、つまみ食い用の本の選び方がわからない場合は、なんとなく2冊選んで表紙を見せ、どちらの本なら読んでみたいか聞きます。ここで傾向が少し見えてくるそうです。ただし、どちらか一冊を読むという前提のプレッシャーをかけないことも大事。このときには「どっちなら読んでみてもいいと思う?」「どっちの本が面白そう?」と聞くといいのです。

 つまみ食いして読んだ本の一言記録をつけることも効果があります。ちょっと読んでみて面白いと思った本、ハズレと思った本、それぞれ一言でいいので記録していくと好みの傾向が見えて、次の本探しに役立ちます。子どもに感想を聞きながら一緒に書き込んで記録しましょう。

「1日1冊」ではなく「1日10分」の読書

 子どもが「楽しい」と感じていたら、その読み方を尊重することが大事です。たとえば、飛ばし読みをしていても、楽しそうにしていればそのままでよく、読書する気になれない日は、簡単に読めそうな本をサクッと心地よく読むことも大切です。

 また、「1日1冊」ではなく「1日10分」といったように、時間で決めることも推奨されています。あえて中途半端なところで読むのをやめることで、「続きを読みたい」という気持ちを刺激するのです。

 本のレベル判定の材料には「長さ」と「難しさ」がありますが、おススメとしてはまず長さへの対応力を伸ばすことで、本に没頭している状態であれば、少しくらい長い本でも勢いで突破できる可能性があります。

 こうして、負荷がかかりすぎないようにして読める本の幅を広げていくと、「楽しく、たくさん、幅広く」読書することにつながるのです。

読んだ本について少しずつ会話すること

 また、「◯◯の後に読書する」という習慣をつけることも効果があるとのこと。そして、読んだ本について話すこともおススメです。ちなみに、「おもしろかった」としか言わなかったとしても、決して否定しないこと。「本についての会話を楽しむ」といったスタンスが大事なので、はじめは「Yes」「No」で答えられることでお話をしてみる。たとえば「好きなキャラクターはいた?」など。そこから少しずつ「どんなキャラクターだったの?」と聞いていくと、少しずつ深くなります。

 それから、子どもの身近な出来事と絡められるような工夫について、たとえば「今日の晩ごはんのカレーは『◯◯』の本に出てきたものと似ているね」であるとか、「先週の家族旅行は『◯◯』の物語みたいだったね」といった例が挙げられています。このように、どんな些細なことでも子どもと本をつなげて問いかけてみると、より広がりのある話ができるようになるのではないでしょうか。

 ということで、本と出会い、接しかたを学び、楽しさを知ること。そこから会話をして、楽しさを共有していくことが、読書を習慣化する第一歩です。本書では、子どもを楽しい読書体験へと導くために家庭でできる読書教育のコツがポイントごとにわかりやすく解説されています。本書を読むと、子どもと図書館に行って本について話してみたくなります。いちどお試しください。

<参考文献>
『東大発!1万人の子どもが変わった ハマるおうち読書』(笹沼颯太著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)
https://d21.co.jp/book/detail/978-4-7993-3021-0

<参考サイト>
笹沼颯太氏のX(旧Twitter)
https://x.com/souta_sasanuma

ヨンデミーのX(旧Twitter)
https://x.com/YondemyEdu
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

経営をひと言で?…松下幸之助曰く「2つじゃいけないか」

経営をひと言で?…松下幸之助曰く「2つじゃいけないか」

東洋の叡智に学ぶ経営の真髄(1)経営とは何かをひと言で?

東洋思想を研究する中で、50年間追求してきた命題の解を得たと田口佳史氏は言う。また、その命題を得るきっかけとなったのは松下幸之助との出会いだった。果たしてその命題とは何か、生涯の研究となる東洋思想とどのように結び...
収録日:2024/09/19
追加日:2024/11/21
2

次の時代は絶対にアメリカだ…私費で渡米した原敬の真骨頂

次の時代は絶対にアメリカだ…私費で渡米した原敬の真骨頂

今求められるリーダー像とは(3)原敬と松下幸之助…成功の要点

猛獣型リーダーの典型として、ジェネラリスト原敬を忘れてはならない。ジャーナリスト、官僚、実業家、政治家として、いずれも目覚ましい実績を上げた彼の人生は「賊軍」出身というレッテルから始まった。世界を見る目を養い、...
収録日:2024/09/26
追加日:2024/11/20
神藏孝之
公益財団法人松下幸之助記念志財団 理事
3

冷戦終焉から30年、激変する世界の行方を追う

冷戦終焉から30年、激変する世界の行方を追う

ポスト冷戦の終焉と日本政治(1)「偽りの和解」と「対テロ戦争」の時代

これから世界は激動の時代を迎える。その見通しを持ったのは冷戦終焉がしきりに叫ばれていた時だ――中西輝政氏はこう話す。多くの人びとが冷戦終焉後の世界に期待を寄せる中、アメリカやヨーロッパ諸国、またロシアや同じく共産...
収録日:2023/05/24
追加日:2023/06/27
中西輝政
京都大学名誉教授
4

遊女の実像…「苦界と公界」江戸時代の吉原遊郭の二面性

遊女の実像…「苦界と公界」江戸時代の吉原遊郭の二面性

『江戸名所図会』で歩く東京~吉原(1)「苦界」とは異なる江戸時代の吉原

『江戸名所図会』を手がかりに江戸時代の人々の暮らしぶりをひもとく本シリーズ。今回は、遊郭として名高い吉原を取り上げる。遊女の過酷さがクローズアップされがちな吉原だが、江戸時代の吉原には違う一面もあったようだ。政...
収録日:2024/06/05
追加日:2024/11/18
堀口茉純
歴史作家
5

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

教養としての「人口減少問題と社会保障」(4)増え続ける社会保障負担

人口減少が社会にどのような影響を与えるのか。それは政府支出、特に社会保障給付費の増加という形で現れる。ではどれくらい増えているのか。日本の一般会計の収支の推移、社会保障費の推移、一生のうちに人間一人がどれほど行...
収録日:2024/07/13
追加日:2024/11/19
森田朗
一般社団法人 次世代基盤政策研究所(NFI)所長・代表理事