●キリンビール高知支店でもがくうちに「正解」がわかった
―― 皆様、こんにちは。本日は、元キリンビール株式会社代表取締役副社長で営業本部長を務めておられた田村潤先生にお話をいただきます。先生、どうぞよろしくお願いいたします。
田村 お願いします。
―― 田村潤先生は、講談社プラスアルファ新書から『キリンビール高知支店の奇跡』という本を出されまして、こちらが20万部を超えるベストセラーになりました。田村先生が、高知支店に行かれたのが1995年です。当時は、言ってみればアサヒビールのスーパードライが全盛期で、キリンビールを追い抜き、キリンビールがもっとも大変だった時期に高知支店に行かれた。この本は、表題に「奇跡」とあるとおり、そこからどのようにキリンビールがよみがえっていったのかについてお書きになったものですね。
田村先生は高知支店長を務めた後、四国地区、東海地区の営業責任者をされ、2009年にキリンビールは9年ぶりのトップシェアを実現されます。そのときは本社で営業本部長を務められていたということですが、この一連の流れは、どのようなものでしたか。
田村 四国の高知というマーケットでは本当に悪戦苦闘しましたが、本質的なものをつかめたと思います。その後、四国全域、中部圏、最後は本社で4000人の部下がいたのですが、基本的には同じ考え方で進めていきました。すると、それぞれで反転をしていきまして、最終的にはキリンが9年ぶりに全国トップシェアを奪回できました。
その原点は、高知という非常に狭いマーケットでした。高知支店の社員もたった12名です。現場でもがきながら仕事をしているうちに、「こういうふうに考えて、こういうふうに動けば、お客様の気持ちをつかむことができて、生産性がすごく上がり、利益もすごく上がる」ということがわかったのです。
後はマネジメントだけの問題です。「正解」がわかったので、後は社員に動いてもらうだけですから。それで実践したら非常にうまくいき、成果が上がったということです。
―― そのようなご経験を基に、今、全国で企業の指導や講演会活動をされていらっしゃいます。『キリンビール高知支店の軌跡』のほかに、PHP研究所から『負けグセ社員たちを「戦う集団」に変えるたった1つの方法』、PHP新書から、テンミニッツTVでもおなじみの田口佳史先生との対談本『人生に奇跡を起こす営業のやり方』も出していらっしゃいます。今日は、そのご経験をお聞きしていきます。
先生が色々と講演活動で回られていて、会社の経営者や営業の責任者の方々から悩みや質問を受けるケースも多いと思います。その際、どのような質問が多いのでしょうか。
田村 一番多いのは、「うちの社員のやる気がない」というものです。指示待ちや、しょせん仕事が人ごとになっているというのです。「社員にやる気を持たせるにはどうしたらいいか」という質問が一番多いですね。
―― ほかには、どのような質問がありますか。
田村 やはり企業戦略でしょうか。また、「非常に変化の激しい時代ですから、どうしても右往左往してしまう。そのときの心の持ち方は?」といった質問もあります。ですが、一番多いのはやはりマネジメントです。「人がいない」「すぐに辞めてしまう」「もっと一生懸命、主体的・自立的に動いてもらいたいけれども全然できていない、そこを解決したい」といった質問が多いですね。
―― なるほど。まさにそのようなテーマに答えていただくような講義を、ぜひお願いいたします。
●やる気が低くなり、生産性が落ち、改革もうまくいかない
―― 最初に、今、先生がおっしゃった「やる気」についてです。「社員や部下たちのやる気を高めるにはどうしたらいいのか」ということについて、先生は、ご経験からどのようにお考えでしょうか?
田村 2年前だったと思いますが、日本経済新聞でアメリカのギャラップ社による、全世界のビジネスパーソンを対象にした調査が出ていました。それによると、日本において「やる気のある社員」の比率は非常に低く、6パーセントと出ているのです。
―― 6パーセントですか。
田村 はい。やる気のある社員が6パーセントしかいないという。調査した139カ国のなかで日本は132位でした。似たような調査でも、同じ結果が出ています。日本の社員のやる気のなさ、やる気がそれだけ低くなってしまっている。従って、生産性が落ちてくる。
これをなんとかしようということで、近年、企業統治改革、コーポレートガバナンス改革があったのだと思います。四半期開示やROE経営といったものです。
それでもなかなかうまくいかないというので、今度は働き方改革が叫ばれました。「どうも日本人は働き過ぎのようだから、労働時間を少なくすれば、西洋のように生産性が上がるのでは...