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「ノウハウ」では勝てない。大切なのは「スタイル」である

営業の勝敗、キリンの教訓(7)「内在的な論理」に応える

田村潤
元キリンビール株式会社代表取締役副社長/100年プランニング代表
情報・テキスト
「キリンの理念の実現」に向けて、組織を動かす中で、どうしようもない事態に陥ることがある。たとえば、キリンビール本社から「お金を使ってはいけない」と指示がきたことがあったが、資金がないなかで四国支店は、その他の支店と圧倒的な差をつけて業績を伸ばすことに成功する。なぜ、これほどまでに理念の実現にむけた活動が大きな力を発揮できたのだろうか。その秘密、営業の極意とは? (全7話中第7話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:12:17
収録日:2020/09/25
追加日:2021/03/15
キーワード:
≪全文≫

●「お金がなくても、何とかする」ための方法論


田村 それから、「お金がなくてもなんとかするんだ」という文化が、「理念」から出てきたのです。四国にいたある年の秋、会社の年度決算が芳しくないということで、本社から「それ以上、金を使ってはいけない」という指示がきたことありました。ところが、飲み屋さんを回ると、お金はやはり必要です。什器やグラスなどはメーカー協賛ですから。

 お金がないということは、店を回ることができません。そこで、四国ではどうしようかとなりました。本社で使えるお金がなくなったことについては、仕方がありません。しかし、「本社」より大事なのは「理念」であり「四国のお客様」です。

 自分たちのできることは全てやると思っても、お金がない。そこで我々は何やったかといえば、それまでもよく市場を回っていたのですが、それまでの3倍くらい回ったのです。

―― 回数を増やしたわけですか。

田村 四国中の飲み屋さんを、猛烈な勢いで回りました。そして店では、「すみません。本社がアホで、金を使ってしまったので今年は金がないのですが」と言うしかない。

―― 率直に言うわけですね。

田村 そうです。なぜなら、約束違反をしているのです。こちらが「お金は出します」と言って店側にお願いしているにもかかわらず、金がないのです。「勘弁してください」と言うと当然、店側に「なんだ」「ふざけるな」と怒られる。

 ですが、キリンのセールスマンが、しょっちゅう訪問するわけです。大げさに言うと朝・昼・晩と。「すみません。この分は来年に利子を付けて返します。なんとかお願いします」などとお願いする。やはり人間は怒っても、その相手がしつこく「許してください」「もう勘弁してください」と言い続けると、1、2カ月もすれば諦めてくれます。そして、「仕方がない」「来年は倍返しだぞ」などとは言われたのですけれども、結局、四国はお金がない影響を受けなかったのです。

 ところが、四国以外のキリンはどうなったかというと、市場を回らなくなってしまいました。回るとクレームになってしまうので。

―― 普通はそうですね。わざわざ、お金がないのに回っても仕方がないと思ってしまいますね。

田村 お金がないから回らなくなってしまった。キリンビールがなくても、ほかのビールメーカーがありますから、飲み屋さんは困りません。酒屋さんも困らない。「キリンは要らない」となるのです。これの影響は、実は5、6年ありました。

―― その1年、市場を回らなかっただけで。

田村 そうです。キリンは一度信用失ったから。そして5、6年の間、四国とそれ以外の差が決定的についたのです。

 この差が出た原因は、優秀なセールスがいたからでもなんでもありません。単に、「心の置き場」が変わっていたからです。四国では、四国のお客様を喜ばせるために、自分たちで工夫して活動するという心です。ほかのエリアは、本社からの指示を忠実にやるという心です。「心」の問題なのです。これだけでもって、決定的に差がついてしまった。やはり、理念に向かっていると、いろいろな工夫が出てくるのです。

―― 本当に大きな差ですね。

田村 決定的な差がついた。こういったことは、随所にあるのです。


●お客様の「内在的な論理」に応えていく


 四国のメンバーは、なんとかしようと思って、お店の方に聞くわけです。「わからないから、教えてください」と。ほかの地区は、本社から言ってきたことを忠実にお願いするわけです。「今週は焼酎、来週はウイスキーをお願いします」と。すると相手は、「いい加減にしろ」となるわけです。

 高知支店では、とにかくお客様が大事です。お客様に喜んでもらうためには、相手の話をよく聞く。よく「内在的な論理」という言葉を使うのですが、カギは「相手の心」です。相手の心はキリンビールのセールスとは違いますから、これを把握することが非常に大切です。

―― イメージで言うと、例えば、飲み屋さんに行ったときに、料理傾向が、ビールに合うお店もあれば、焼酎に合うお店もあれば、ウイスキーに合うお店もある。それをきちんと把握した上で、たとえ本社からウイスキーだと指示されたとしても、社員が「この店は焼酎だ」と思ったら焼酎を勧めるといったことでしょうか。

田村 それほど高度なことはやりません。

―― そういうことではないのですか。

田村 単純明快にしておかなければ動けません。営業がいて、その下に店頭を回っている契約社員の人が数人いますから。そうではなくて、シンプルに「相手が何を思っているか。飲み屋さんが何を思っているか」を知るということです。

 これは1つなんです。やはり、「よく顔を出すセールス、よく顔を出すメーカーがいい」。これだけなんです。これが相手の内在的...
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