●どうすれば「理念」が「腹に落ちる」のか?
田村 そのときにピンときたのが、「理念」なんですね。それまで、自分も含めて、理念などというものを考えたこともなかった。それが、キリンビールがあまりにも売れなくなってしまったので(理念を考えるようになった)。キリンの理念である「お客様本位」「品質本位」に向かって挑戦していくということは頭にありましたが、ただ、そんなものが頭にあったところで、売上は全く上がりません。理念はたんなる概念ですから。ですが、この概念と日々の営業活動が、あるときにピタッと合致したときがあった。1997年の6月ごろだったと思います。
「ああ、そうか。お客様のことを考えながら、キリンがどこでもある状態をつくり、しかも『高知のお客様を大事にする』というメッセージで活動することは、高知のお客様を幸せにすることなのだ。これがキリンの理念なのだ。キリンの理念を実現するために自分たちは仕事をするのだ」ということを発見したのです。
そのことを、高知支店の皆に話しました。ですがそのときは、「は?」というようなもので、わかってもらえませんでした。「理念」という考えはありませんでしたから。でも、ある程度、市場で動いていましたから、しばらくしたら「腹に落ちた」と言っていました。
―― どうやったら腹に落ちるのですか。これもなかなか、「言うは易く、行うは難し」の世界になってくるかもしれないですが。
田村 メンバーにしつこく言っていました。「自分たち(が仕事をするの)は、数字を上げるため、本社からの評価を高めるためではない。お客様に喜んでもらうためだ。だからもっと多くの店を回り、キリンの商品を置かなければいけない」と。この理念を頻繁に言っていました。
―― 田村先生ご自身がおっしゃっていたのですね。
田村 逆にそれ以外のことは一切言いませんでした。
そうすると、何カ月かすると、ずっと言われていて、社員たちはある程度回っていますから、わかってくるのです。そして、私が発見して半年ほど後に、社員たちの腹にも落ちたのです。ずっと言われ続けながら実際に現場でやってみると、「頑張ればお客さんが喜んでくれる」とわかってくる。すると、「もっとやろう」と奮い立ちます。お客様に喜んでもらうとうれしいので、頑張ることができる。そうすると「これが田村の言っている経営理念なのだ」と腹に...