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『日本の果物はすごい』で味わう歴史を変えた魅惑の果物史
スーパーにはその季節ごとに色とりどりの果物が並んでいます。代表的なものだけでも、ミカン、リンゴ、イチゴ、カキ、ブドウ、モモ、サクランボ、ナシ、バナナ、スイカ、メロン、キウイなど、さまざまなものがあります。ただし、この多くは明治期以降に日本に入ってきたもので、江戸時代以前に日本にあった果物は、柑橘、カキ、ナシ、スイカぐらいでした。
こういった現代で身近な果物の歴史、文化的なエピソード、系統、さらに最新の状況まで網羅、詳述されている本が『日本の果物はすごい 戦国から現代、世を動かした魅惑の味わい』(竹下大学著、中公新書)です。本書では具体的に、柑橘類、カキ、ブドウ、イチゴ、メロン、モモについて取り上げられています。本書を読むと、果物がその味や香りで人間に感動を与え、ときに社会を動かしてきたこと、また、栽培に関わった多くの人の情熱が注ぎ込まれて現代に至っていることがわかります。
著者である竹下大学氏は1965年東京都生まれで、1989年に千葉大学園芸学部を卒業し、キリンビールに入社します。そこで育種プログラムを立ち上げ、高収益ビジネスモデルを確立、130品種の商品化に成功しています。その後は一般財団法人食品産業センター勤務等を経て独立、現在では農作物・食文化・イノベーション・人材育成・健康といった切り口から情報発信やコンサルティングを行っています。他の著書としては『日本の品種はすごい』(中公新書、2019年)、や『植物はヒトを操る』(いとうせいこうとの共著、毎日新聞社、2010年)、『野菜と果物 すごい品種図鑑』(エクスナレッジ、2022年)などがあります。
その後、温州みかん(うんしゅうみかん)が登場します。「温州」ということで中国の地名がついてはいますが、実は鹿児島の長島という地で発見された日本のオリジナル品種です。江戸時代初期にはその存在が知られていたようですが、2016年のゲノム解析によって、紀州みかんにクネンボ(九年母=インドシナ半島から琉球経由で日本に来た品種)が交配してできたと推定されています。また、この交配は自然交雑だった可能性が高いようです。
現在日本で収穫されるみかんは、温州みかんが約7割を占めています。ただし、温州みかんにも117もの品種があるとのことです。これにより一年を通して多種多様な旬の品種を私たちは味わうことができるのです。この背景にはいくつかの幸運も関連しています。たとえば、戦争時になりますが1941年ごろから伐採をまぬがれました。このころ果物畑はイモやムギに置き換えられましたが、蜜柑類は急斜面に植えられていたことでそのままにされたようです。
さらに、1991年からのオレンジ自由化では、レモンや夏みかんが大打撃を受ける一方で、温州みかんはそこまで大きな影響を受けませんでした。オレンジは皮を剥くにくい上に、食べるときには手が汚れます。また、味が濃いので食べ飽きることもあります。こうしたことから、温州みかんがオレンジに置き換わることにはなりませんでした。
ただし、日本では昔からブドウは野山で採集するものと考えられていたそうで、本格的な栽培が行われるようになったのは江戸時代、「甲州」という品種が起点となったそうです。現在での都道府県別生産比率は山梨県が25%、長野県が18%、岡山県9%、山形県8%となっており、この4県で全体の6割強を占めています。また、世界的にはワイン生産のためのブドウのほうがかなり多いのに対して、日本では生食用のブドウのほうが多いという特徴があります。
日本のブドウのナンバー1の品種は甲州、デラウェア、巨峰、シャインマスカットと変化してきました。現在のシャインマスカットは、種なしという価値を提供したデラウェア以来の大革命とのこと。国の農研機構によって2006年に品種登録されました。2007年に登場したのち、一気に栽培面積を広げています。皮が薄くて渋みがなく、歯切れと歯ごたえのよい果肉、マスカット香が乗った濃い甘みが特徴です。さらに、丈夫で栽培しやすいという点まで含めて、完全無欠な品種といえるでしょう。
この登場により、ブドウ生産者は所得を増やし、流通業者・販売業者ともに儲かり、大量生産しても価格が下支えされています。このことから竹下氏は、シャインマスカットをブドウ業界の救世主といいます。海外での品種権を取得しなかったことで、国外で増殖が行われてしまった点は惜しまれますが、現在ではさらにシャインマスカットの子どもたちといえる品種がいっせいに登場しています。
つまり歴史や性質といった知識を持つことで、果物の価値がよりはっきりとわかるということです。そうすれば果物を食べることの体験価値はぐっと高くなる。本書を読んで、気になった果物をぜひ探して、味わってみてください。それがもし普段からよく食べていた果物であったとしても、きっとこれまでとは違った味わいを感じることができるはずです。
こういった現代で身近な果物の歴史、文化的なエピソード、系統、さらに最新の状況まで網羅、詳述されている本が『日本の果物はすごい 戦国から現代、世を動かした魅惑の味わい』(竹下大学著、中公新書)です。本書では具体的に、柑橘類、カキ、ブドウ、イチゴ、メロン、モモについて取り上げられています。本書を読むと、果物がその味や香りで人間に感動を与え、ときに社会を動かしてきたこと、また、栽培に関わった多くの人の情熱が注ぎ込まれて現代に至っていることがわかります。
著者である竹下大学氏は1965年東京都生まれで、1989年に千葉大学園芸学部を卒業し、キリンビールに入社します。そこで育種プログラムを立ち上げ、高収益ビジネスモデルを確立、130品種の商品化に成功しています。その後は一般財団法人食品産業センター勤務等を経て独立、現在では農作物・食文化・イノベーション・人材育成・健康といった切り口から情報発信やコンサルティングを行っています。他の著書としては『日本の品種はすごい』(中公新書、2019年)、や『植物はヒトを操る』(いとうせいこうとの共著、毎日新聞社、2010年)、『野菜と果物 すごい品種図鑑』(エクスナレッジ、2022年)などがあります。
日本の柑橘は小みかんから温州みかんへ
甘くておいしいみかんの元祖は「小みかん(こみかん)」です。小みかんは直径五センチ程度と小さな品種ですが、温州みかんが登場するまでもっとも多く栽培されました。おそらく遣唐使船や唐の貿易船によって、熊本の八代に持ち込まれたものと考えられます。その後、12~13世紀に現在の熊本県八代市を中心に栽培され、1574年に紀州有田で導入されます。このことが、のちに紀州が一大みかん産地となる第一歩となります。ちなみに、徳川家康も自ら接木し駿府城に植えています。その後、温州みかん(うんしゅうみかん)が登場します。「温州」ということで中国の地名がついてはいますが、実は鹿児島の長島という地で発見された日本のオリジナル品種です。江戸時代初期にはその存在が知られていたようですが、2016年のゲノム解析によって、紀州みかんにクネンボ(九年母=インドシナ半島から琉球経由で日本に来た品種)が交配してできたと推定されています。また、この交配は自然交雑だった可能性が高いようです。
現在日本で収穫されるみかんは、温州みかんが約7割を占めています。ただし、温州みかんにも117もの品種があるとのことです。これにより一年を通して多種多様な旬の品種を私たちは味わうことができるのです。この背景にはいくつかの幸運も関連しています。たとえば、戦争時になりますが1941年ごろから伐採をまぬがれました。このころ果物畑はイモやムギに置き換えられましたが、蜜柑類は急斜面に植えられていたことでそのままにされたようです。
さらに、1991年からのオレンジ自由化では、レモンや夏みかんが大打撃を受ける一方で、温州みかんはそこまで大きな影響を受けませんでした。オレンジは皮を剥くにくい上に、食べるときには手が汚れます。また、味が濃いので食べ飽きることもあります。こうしたことから、温州みかんがオレンジに置き換わることにはなりませんでした。
シャインマスカットはぶどう業界の救世主
日本では柑橘類の栽培や消費がもっとも多いですが、世界的に見ればもっとも生産量の多い果物はブドウです。生産量の多い国は、中国、イタリア、スペイン、アメリカ、フランスと続きます。また、人類史上もっとも古くから栽培されている果物もブドウです。遅くとも紀元前2000年には野生種の中から栽培品種が現れていました。日本国内でも縄文遺跡からはヤマブドウの種子が多く発見されています。ただし、日本では昔からブドウは野山で採集するものと考えられていたそうで、本格的な栽培が行われるようになったのは江戸時代、「甲州」という品種が起点となったそうです。現在での都道府県別生産比率は山梨県が25%、長野県が18%、岡山県9%、山形県8%となっており、この4県で全体の6割強を占めています。また、世界的にはワイン生産のためのブドウのほうがかなり多いのに対して、日本では生食用のブドウのほうが多いという特徴があります。
日本のブドウのナンバー1の品種は甲州、デラウェア、巨峰、シャインマスカットと変化してきました。現在のシャインマスカットは、種なしという価値を提供したデラウェア以来の大革命とのこと。国の農研機構によって2006年に品種登録されました。2007年に登場したのち、一気に栽培面積を広げています。皮が薄くて渋みがなく、歯切れと歯ごたえのよい果肉、マスカット香が乗った濃い甘みが特徴です。さらに、丈夫で栽培しやすいという点まで含めて、完全無欠な品種といえるでしょう。
この登場により、ブドウ生産者は所得を増やし、流通業者・販売業者ともに儲かり、大量生産しても価格が下支えされています。このことから竹下氏は、シャインマスカットをブドウ業界の救世主といいます。海外での品種権を取得しなかったことで、国外で増殖が行われてしまった点は惜しまれますが、現在ではさらにシャインマスカットの子どもたちといえる品種がいっせいに登場しています。
知ることで味覚が鍛えられる
以上、今回は柑橘とブドウについて、その一部を紹介しました。本書では他にも、カキ、イチゴ、メロン、モモについて、その歴史や文化と合わせて詳述されています。また、本書の終わりのほうで竹下氏は、「農作物の生い立ちを知ることや品種の個性に気づくことは、すなわち歴史を味わう味覚が鍛えられた証明にほかならない。言い切ってしまえば、まったく同じものを食べたとしても、よりおいしくよりありがたく感じられるようになる」といっています。つまり歴史や性質といった知識を持つことで、果物の価値がよりはっきりとわかるということです。そうすれば果物を食べることの体験価値はぐっと高くなる。本書を読んで、気になった果物をぜひ探して、味わってみてください。それがもし普段からよく食べていた果物であったとしても、きっとこれまでとは違った味わいを感じることができるはずです。
<参考文献>
『日本の果物はすごい 戦国から現代、世を動かした魅惑の味わい』 (竹下大学著、中公新書)
https://www.chuko.co.jp/shinsho/2024/09/102822.html
※参考サイト
竹下大学氏のHP
https://peraichi.com/landing_pages/view/takeshita/
竹下大学氏のX(旧Twitter)
https://x.com/wavebreeder?
『日本の果物はすごい 戦国から現代、世を動かした魅惑の味わい』 (竹下大学著、中公新書)
https://www.chuko.co.jp/shinsho/2024/09/102822.html
※参考サイト
竹下大学氏のHP
https://peraichi.com/landing_pages/view/takeshita/
竹下大学氏のX(旧Twitter)
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