DATE/ 2026.10.19

見え方は人それぞれ?錯視と脳の不思議

 私たちは本当にみな同じ世界を見ているのでしょうか。このことを考える鍵の一つが脳にあります。私たちが世界を見る時には目を使いますが、実際にそれを目の前の現実として捉えていくのは脳の役割です。この時、脳は目から入った情報をもとにさまざまな処理をして、私たちが知覚する世界を形作っています。錯視は、こうした脳の働きを知る手がかりの一つです。

脳は「文脈」で判断する

 光は目の水晶体を通って網膜に像を結び、電気信号になって脳にたどり着きます。そこから「知覚」として意識に上がってくるわけですが、ここまでの間には数百ミリ秒かかるそうです。数百ミリ秒というのは、1秒にも満たない短い時間です。例えば瞬きによって視覚入力が遮られる時間が約0.3秒(十分の三秒)と聞くと、少しだけイメージできるかもしれません。

 こうした知覚の遅れに着目し、早稲田大学の高尾沙希講師は「脳は未来を予測することで、遅延を補償しているのではないか」という視点から脳の仕組みを研究しているそうです。たとえば、エビングハウス錯視では、周囲の円が大きい場合、中央の円が本来よりも小さく知覚されます。また周囲の円が小さい場合は、反対に中心の円が大きく知覚されます。

 高尾氏はこの周囲の円を「文脈」としてとらえ、時間的な変化を加えて検証しました。周囲の円(文脈)が先に提示される場合には、通常と同じ錯覚となります。この一方で、中央の円(ターゲット)を先に提示し、その後で周囲の円(文脈)を提示すると、これとは反対方向の「同化効果」が起きます。つまり、小さい円で囲まれたターゲットはより小さく、大きい円で囲まれたターゲットはより大きく見えることがわかったとのことです。高尾氏はこの結果から、「脳が時間軸上で過去と未来の情報を統合している」という仮説を提唱しています。

脳は「ショートカットして」認識している

 目には世の中のさまざまな情報が飛び込んできます。これらを全て細かく処理していたら、時間もコストもかかってしまいます。こうした視覚の情報処理について考える例として、ジャストロー錯視と呼ばれる錯視があります。ジャストロー錯視とは、扇形を上下に二つ並べると大きさが違って見えるというものです。

 この錯視が生じるのは、近くにある長い円弧と短い円弧が比べられて、円弧がより長いと判断された扇形の方が全体として大きく感じられるからです。このように、私たちの視覚は必ずしも図形を正確に測っているわけではありません。視覚は、多くの場面で問題がないように情報処理を「ショートカット」していると考えられています。

脳が世界を見ている

 私たちの脳は、目から入ってきた情報をそのまま受け取るのではなく、さまざまな手がかりを使って解釈しています。こうした情報処理によって、私たちは普段、目の前の世界を大きな違和感なく見ることができます。ここで錯視の絵のような「日常ではあまり意識しないもの」に触れると、脳がいつものやり方で処理した結果、実際の大きさや形とは異なるものが見えてきます。このように錯視は、私たちが普段意識しない「見る」仕組みに気付かせてくれます。

 私たちは客観的な世界を見ているようですが、実際は過去の経験や知識も使いながら世界を認識しています。そうであれば、自分とは経験や知識の異なる他者には、ちょっとだけ違う世界が見えている可能性もあります。こう考えると、見えている世界は人それぞれといってもいい部分はあるのではないでしょうか。

<参考サイト>
早稲田大学:安定した視覚世界を生み出す脳のしくみを明らかにする
https://www.waseda.jp/inst/wias/news/2026/01/26/21040/
北海道大学:見ている世界は本当に“そのまま”か?― 錯視から考える知覚の不思議 ―
https://www.let.hokudai.ac.jp/cafe/28196
京都産業大学:私たちは何を見ているのだろうか―錯視・錯覚から迫る脳の視覚情報処理メカニズム―
https://www.kyoto-su.ac.jp/project/st/st10_06.html
ジャストロー錯視|NTT 錯覚を体験 Illusion Forum
https://illusion-forum.ilab.ntt.co.jp/jastrow/index.html
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