社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2016.01.31

プロの投資家やギャンブラーは宝くじを買わない?期待値で考える「宝くじ」

 年末ジャンボ宝くじともなれば、1等と前後賞を合わせると当選金額が最高10億円にもなる宝くじ。では現実的な話、億万長者になれる可能性は、果たしてどれだけあるのでしょうか?

「期待値」を知れば損をすることはない!?

 数学(確率論)や経済学の言葉で「期待値」というものがあります。これは、「実現する値」と「確率」の積を足したものです。

 例えば、100円で参加できる賭けがあります。赤黒2枚のカードからどちらかを引き、赤が出れば200円が支払われ、黒が出れば参加料100円が没収されます(0円になる)。ここでは赤黒の出現率は50%とします。

 この場合の「期待値」は(200円×50%)+(0円×50%)=100円となります。果たしてこの賭けに参加するでしょうか。合理的に考えれば、手元にある100円を選ぶでしょう。賭けなければ手元には100円が確実に残るのです。普通、不確実な100円よりも、確実な100円を選ぶことに疑いはないでしょう。

 では、昨年末のジャンボ宝くじの「期待値」を考えてみましょう。1等7億円は27本。1等が当たる確率は、0.000005%でした。そうすると、

 (7億円×0.000005%)=35円

 「期待値」は35円という結果になります。ちなみに1等から6等と70周年記念賞を合計しても期待値は150円でした。

 つまりは、300円のくじ1枚を買うごとに150円の損をしているという計算です。

 これだけ「期待値」が小さく、損をする確率が高いのに、なぜ宝くじは売れるのでしょうか?

 よく「宝くじは夢を買うものだ」という言葉を聞きます。たしかに、年末ジャンボであれば一年の終わりをホクホクした気持ちで過ごしたいという心理は理解できます。

 しかし、行動経済学を除いて、一般の経済学では心理は想定しません。ここから言えることがあるとすれば、人間はそれほど合理的ではないということです。

 逆に考えれば、合理性を身に付け、心理に左右されなければ、人はより経済的な側面では豊かになれる可能性がある、ということです。

「期待値」が大きい事象に賭けるのが「投資」

 ここからプロの投資家やプロのギャンブラーと、宝くじを買う人間の違いを読み取ることもできます。

 プロたちはあくまで合理的に「期待値」の多い方に賭けます。そこで利益を生み出すのが彼らの仕事なのです。

 もちろん、賭けに確実性はありません。けれども、どういった局面でどれだけ冷静に「期待値」の高いもの=リターンがよりよいものを選択することができるか、というところでプロの優劣が決まっているのです。

 このことは投資をしてみようと思っている人には参考になるのではないでしょうか。投資をする際、まず行うことは「期待値」がプラスのものを探すということです。つまり「期待値」がより大きい事象に賭けるのが「投資」ともいえるでしょう。

<参考サイト>
・毎日新聞デジタル版「経済プレミア:投資のプロが宝くじを買わない理由」2015年8月17日
http://mainichi.jp/premier/business/articles/20150806/biz/00m/010/002000c
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如

現代社会にとって空海の思想がいかに重要か。AIが仕事の仕組みを変え、超高齢社会が医療の仕組みを変え、高度化する情報・通信ネットワークが生活の仕組みを変えたが、それらによって急激な変化を遂げた現代社会に将来不安が増...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/12
2

『武功夜話』は偽書か?…疑われた理由と執筆動機の評価

『武功夜話』は偽書か?…疑われた理由と執筆動機の評価

歴史の探り方、活かし方(5)史実・史料分析:秀吉と秀次編〈下〉

豊臣秀次事件に対する見方を変えた『武功夜話』だが、実は偽書疑惑もある。今回は、そのことに鋭く迫っていく。『武功夜話』は、豊臣秀吉に仕えて大名まで上り詰めた前野長康の功績を中心に記された史料だが、その発表・出版の...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/28
3

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール

内側から見たアメリカと日本(6)日本企業の敗因は二つのオウンゴール

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた主な要因として、二つのオウンゴールを挙げる島田氏。その一つとして台湾のモリス・チャン氏によるTSMC立ち上げの話を取り上げるが、日本はその動きに興味を示さず、かつて世界を席巻して...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/25
4

歴史作家・中村彰彦先生に学ぶ歴史の探り方、活かし方

歴史作家・中村彰彦先生に学ぶ歴史の探り方、活かし方

編集部ラジオ2025(29)歴史作家の舞台裏を学べる

この人生を生きていくうえで、「歴史」をひもとくと貴重なヒントにいくつも出会えます。では、実際にはどのように歴史をひもといていけばいいのか。

今回の編集部ラジオでは、歴史作家の中村彰彦先生がご自身の方法論...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/27
5

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授