社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.02.01

乗車率100%は「満員」ではないって本当?

 都市部に在住の方にとって、切っても切り離せない問題「満員電車」。2016年、東京都知事に就任した小池百合子氏が、この満員電車を改善するという公約を打ち出すほど、「満員電車問題」は多くの人々にとって感心のある事象です。

 車両にすし詰めになった乗客。もう人っ子ひとり乗れなさそうな乗り降り口から、乗客をさらに車内に押し込む駅員。宙に浮く荷物と、骨折しそうな角度に追いやられる体。

 満員電車問題のない地域の方には、まるで都市伝説のように思われるかもしれませんが、もう100年近く、都心部ではこの満員電車と企業戦士たちとの、激しくもささやかな戦いは続いているのです。今回はそんな満員電車の実態に迫ります。

東京86%、大阪74%が通勤・通学時に「満員電車」に乗っている

 では、実際にどのくらいの人が満員電車に乗っているのでしょう? マーケティングリサーチ・国内最大手企業「マクロミル」によると、満員電車が深刻な問題となっている東京と大阪では、通勤・通学者1000人のうち、東京が86%、大阪で74%の人々が満員電車に乗ることがあると回答したと発表しています。そのうち、10人に1人は「まったく身動きが取れないレベルの混雑」を経験していました。

 ちなみに、「乗車率」という言葉を耳にしたことがあるかと思いますが、この「まったく身動きが取れないレベルの混雑」はなんと乗車率約250%。では100%がどのレベルなのかというと、座席が満席で、つり革部分と出入り口に人が立っている程度の混雑とされています。すでに座席がなく、通路にも人が並んでいる状態で、そこに同じだけか、更にそれ以上の乗客が乗り込んで来るのです。いかに混雑しているかということを表していますね。

原因は時間の長さ?片道1時間の通勤・通学時間

 そもそも、東京・大阪でこれだけ満員電車問題が慢性化しているのは、通勤・通学時間の長さもかかわっています。この2都市では、通勤・通学者のうち50%が片道1時間をかけて通っているのです。

 満員電車を使用している方は、上り線は混雑しているのに、下りはガラガラという光景をよく見かけるのではないでしょうか? どうしても企業や学校は都心部に集中しているため、多くの人の向かう先が同じなのです。合わせて、都心部は地価が高く、また生活に欠かせないスーパーなどの軒数も少ないため、どうしても郊外に居を構える人が多いことも、通勤・通学時間を長くする原因のひとつとなっています。

現代ストレスの一端を担ってしまう満員電車

 こうした満員電車を利用することは、多くの人々にとってストレスでもあります。東京・大阪の満員電車使用者のうち、約95.2%の人々が満員電車で何らかのストレスを感じることがあると回答しました。

 人はそれぞれの「パーソナルスペース」を確保したいと思う生き物です。ですから「満員電車に乗る」ということ自体が、見ず知らずの相手とゼロ距離で接することを意味するため、少なからず苦痛を感じてしまいます。

 ストレス社会と謳われるようになって久しいですが、満員電車もこの現代ストレスの原因の一端となっていると言って過言ではないでしょう。

満員電車を軽減するアイディアは?

 アンケートでは、満員電車を軽減するためのヒアリングも行われました。アイディアで最も多かったのは、「フレックスタイム制の導入」、「在宅勤務制の導入」など、企業にも協力を仰ぐものが多く、続いて、「電車の運行本数を増やす」「連結車両数を増やす」などの、電車の運行やキャパシティを増やすことなどがアイディアとしてあがりました。

 これらの対策は、企業の協力が不可欠なため、いますぐに実行することは難しいのが現実です。しかし、軽減策のなかには今日から実行できる内容もありました。例えば、「リュックサックを下ろしてから乗車する」や、「混雑時にはスマートフォンを使わない」など。小さな事柄ではありますが、ひとりひとりが実行することで、少しでも環境を改善することができます。

 満員電車の通勤・通学では体力と精神力を必要とします。「難しい課題」と感じても、企業には少しでも協力の姿勢を見せていただきたいですし、また乗車するわたしたちも、すべて人任せにしてしまうのではなく、満員電車を戦う乗り合わせた同士たちを労い、気遣いながら、よりよい環境をつくっていくことが大切なのではないでしょうか。

<参考サイト>
・Honote by マクロミル:『満員電車は嫌だ!』電車での通勤・通学事情(東京・大阪編)
https://www.macromill.com/honote/20161011/report.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

日本の外交には「インテリジェンス」が足りない

日本の外交には「インテリジェンス」が足りない

インテリジェンス・ヒストリー入門(1)情報収集と行動

国家が的確な情報を素早く見つけ行動するためには、インテリジェンスが欠かせない。日本の外交がかくも交渉下手なのは、インテリジェンスに対する意識の低さが原因だ。日本人の苦手なインテリジェンスの重要性について、また日...
収録日:2017/11/14
追加日:2018/05/07
中西輝政
京都大学名誉教授 歴史学者 国際政治学者
2

豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割

豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割

豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割

豊臣と羽柴…二つの名前で語られる秀吉と秀長だが、その違いは何なのか。また、これまで秀長には秀吉の「補佐役」というイメージがあったが、史実ではどうなのか。実はこれまで伝えられてきた羽柴(豊臣)兄弟のエピソードにはか...
収録日:2025/10/20
追加日:2025/12/18
黒田基樹
駿河台大学法学部教授 日本史学博士
3

葛飾北斎と応為の見事な「画狂人生」を絵と解説で辿る

葛飾北斎と応為の見事な「画狂人生」を絵と解説で辿る

編集部ラジオ2025(31)絵で語る葛飾北斎と応為

葛飾北斎と応為という「画狂親娘」の人生と作品について、堀口茉純先生にそれぞれの絵をふんだんに示しながら教えていただいた講義を、今回の編集部ラジオで紹介しました。

葛飾北斎といえば知らぬ人はいない江戸の絵...
収録日:2025/12/04
追加日:2025/12/18
4

親娘で進歩させた芸術…葛飾応為の絵の特徴と北斎との比較

親娘で進歩させた芸術…葛飾応為の絵の特徴と北斎との比較

葛飾北斎と応為~その生涯と作品(4)葛飾応為の芸術と人生

葛飾北斎の娘であるお栄は、「応為」という画号で独自の絵画表現を切り拓いた。北斎とは異なる、女性ならではの描き方は、特に身体表現に現れ、西洋画の陰影表現の色濃い影響を感じさせる。積極的に新たな画法を吸収し、後世の...
収録日:2025/10/29
追加日:2025/12/13
堀口茉純
歴史作家 江戸風俗研究家
5

ルソーの「コスモポリタニズム批判」…分権的連邦国家構想

ルソーの「コスモポリタニズム批判」…分権的連邦国家構想

平和の追求~哲学者たちの構想(4)ルソーが考える平和と自由

かのジャン=ジャック・ルソーも平和問題を考えた一人である。個人の「自由意志」を尊重するルソーは、市民が直接参加して自分の意思を反映できる小さな単位を基本としつつ、国家間紛争を解決する手段を考えた。「自由の追求」に...
収録日:2025/08/02
追加日:2025/12/16
川出良枝
東京大学名誉教授 放送大学教養学部教授