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人が幸せになれない飽和社会から脱出するには?
モノがあふれた飽和社会
トランプ政権下、産業発展、雇用促進を旗印に「アメリカファースト」が幅を利かせています。しかし、冷静に考えれば、現代のようにモノがあふれた飽和社会の中、「○○ファースト」で自国の産業を保護、発展させるには限界があるのです。少なくとも先進国はどこでも、一家にテレビが数台あるのは珍しいことではないですし、携帯電話、スマホにいたっては一人一台、または一人で複数使い分けている人もいるでしょう。その上、人口も飽和状態といわれているため、もはや買い替えによる需要しか起こらないといってもいいほどです。つまり、飽和社会とは新しい需要への突破口を見つけられない状態にあるともいえるのです。
飽和社会では人は幸せになれない
飽和社会では、技術革新が起こって生産性が上がっても、ただでさえモノはあふれているため、限りあるシェアを皆で取りあうゼロサム競争になるだけなのです。大きな事業発展は望めず、結局市場は価格競争になるため、モノ作りは海外での現地生産が主流となります。これでは、自国内の雇用は増えないということになりますね。このように飽和社会では、旧来の需要を追いかけていても新たな雇用は見込めないため、国内の繁栄、人々の幸せは得にくいという構図が定着してしまうのです。
飽和型需要から創造型需要へ
東京大学第28代総長で10MTVオピニオン座長・小宮山宏氏は、こうした飽和社会のあり方を憂慮し、優れた人材と知恵や人脈の組み合わせで、皆が生き生きと暮らせるプラチナ社会をめざして、長年、「プラチナ構想ネットワーク」を提唱、推進してきました。その小宮山氏が飽和社会の解決策として提案するのが、自ら雇用を創出する「創造型需要」です。その「創造型需要」を起こす可能性の一つとして、小宮山氏が注目しているのが再生可能エネルギーです。中でも風や太陽に比べて安定性抜群の水力発電に期待がかかります。
創造型需要の鍵は「小さなビジネス」
さらに、今後の期待値が大きいのは、ダムによる大規模発電ではなく、中小水力発電なのだと小宮山氏は断言します。農水路を流れる水を利用する発電は、地域で安定してとれるエネルギーということで地方創生にも貢献し、ダム建設のような環境への甚大な影響もありません。また、1年平均1台の特注だった水力発電のタービンを、仮に年100基まで引き上げることができれば、価格はおよそ4割にまで引き下げることができるということです。あとはこうしたビジネスをいかに軌道にのせていくかの段階になっています。これは小規模事業かもしれませんが、飽和社会の突破口となり創造型需要を大きく広げるのは、実はこうしたビジネスなのです。
ビジネス生態系モデルを創出するために
そして、小宮山氏は、これからはこうした小規模事業に大企業が投資すべき時代だと力説します。可能性のある知や技術に企業が投資をして、協力しながらビジネスをつくりあげる循環系ビジネスモデルの時代が来ているのです。スタンフォード大学を核としたシリコンバレーのあり方などはその好例。スタンフォード大学では、「卒業後大学に残るのではなく、起業して外に出る」というチャレンジ精神を尊重しており、その結果、世界を代表するIT企業の集積地・シリコンバレーが形成されていったといわれています。
日本でも、ベンチャービジネスに挑む果敢な技術者のスピンアウトとそれを支援する大企業の太っ腹な投資の組み合わせで、未来型のビジネス生態系を創出させたいところ。飽和社会で自国ファーストを主張しても、新たな可能性は広がりません。
飽和型から創造型へ。技術力やアイディアのあるところはユニークな小さなビジネスを武器にする。資金のあるところはその小さなビジネスを大きく育てて羽ばたかせる。それぞれの持ち味を生かす時期にきているのではないでしょうか。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
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