テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.02.15

人が幸せになれない飽和社会から脱出するには?

モノがあふれた飽和社会

 トランプ政権下、産業発展、雇用促進を旗印に「アメリカファースト」が幅を利かせています。しかし、冷静に考えれば、現代のようにモノがあふれた飽和社会の中、「○○ファースト」で自国の産業を保護、発展させるには限界があるのです。

 少なくとも先進国はどこでも、一家にテレビが数台あるのは珍しいことではないですし、携帯電話、スマホにいたっては一人一台、または一人で複数使い分けている人もいるでしょう。その上、人口も飽和状態といわれているため、もはや買い替えによる需要しか起こらないといってもいいほどです。つまり、飽和社会とは新しい需要への突破口を見つけられない状態にあるともいえるのです。

飽和社会では人は幸せになれない

 飽和社会では、技術革新が起こって生産性が上がっても、ただでさえモノはあふれているため、限りあるシェアを皆で取りあうゼロサム競争になるだけなのです。大きな事業発展は望めず、結局市場は価格競争になるため、モノ作りは海外での現地生産が主流となります。これでは、自国内の雇用は増えないということになりますね。

 このように飽和社会では、旧来の需要を追いかけていても新たな雇用は見込めないため、国内の繁栄、人々の幸せは得にくいという構図が定着してしまうのです。

飽和型需要から創造型需要へ

 東京大学第28代総長で10MTVオピニオン座長・小宮山宏氏は、こうした飽和社会のあり方を憂慮し、優れた人材と知恵や人脈の組み合わせで、皆が生き生きと暮らせるプラチナ社会をめざして、長年、「プラチナ構想ネットワーク」を提唱、推進してきました。その小宮山氏が飽和社会の解決策として提案するのが、自ら雇用を創出する「創造型需要」です。

 その「創造型需要」を起こす可能性の一つとして、小宮山氏が注目しているのが再生可能エネルギーです。中でも風や太陽に比べて安定性抜群の水力発電に期待がかかります。

創造型需要の鍵は「小さなビジネス」

 さらに、今後の期待値が大きいのは、ダムによる大規模発電ではなく、中小水力発電なのだと小宮山氏は断言します。農水路を流れる水を利用する発電は、地域で安定してとれるエネルギーということで地方創生にも貢献し、ダム建設のような環境への甚大な影響もありません。

 また、1年平均1台の特注だった水力発電のタービンを、仮に年100基まで引き上げることができれば、価格はおよそ4割にまで引き下げることができるということです。あとはこうしたビジネスをいかに軌道にのせていくかの段階になっています。これは小規模事業かもしれませんが、飽和社会の突破口となり創造型需要を大きく広げるのは、実はこうしたビジネスなのです。

ビジネス生態系モデルを創出するために

 そして、小宮山氏は、これからはこうした小規模事業に大企業が投資すべき時代だと力説します。可能性のある知や技術に企業が投資をして、協力しながらビジネスをつくりあげる循環系ビジネスモデルの時代が来ているのです。

 スタンフォード大学を核としたシリコンバレーのあり方などはその好例。スタンフォード大学では、「卒業後大学に残るのではなく、起業して外に出る」というチャレンジ精神を尊重しており、その結果、世界を代表するIT企業の集積地・シリコンバレーが形成されていったといわれています。

 日本でも、ベンチャービジネスに挑む果敢な技術者のスピンアウトとそれを支援する大企業の太っ腹な投資の組み合わせで、未来型のビジネス生態系を創出させたいところ。飽和社会で自国ファーストを主張しても、新たな可能性は広がりません。

 飽和型から創造型へ。技術力やアイディアのあるところはユニークな小さなビジネスを武器にする。資金のあるところはその小さなビジネスを大きく育てて羽ばたかせる。それぞれの持ち味を生かす時期にきているのではないでしょうか。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生

ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生

ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯

ピアニスト江崎昌子氏が、ピアノ演奏を交えつつ「ショパンの音楽とポーランド」を紹介する連続シリーズ。第1話では、すべてのピアニストにとって「特別な作曲家」と言われる39年のショパンの生涯を駆け足で紹介する。1810年に生...
収録日:2022/10/13
追加日:2023/03/16
江崎昌子
洗足学園音楽大学・大学院教授 日本ショパン協会理事
2

歴史のif…2.26事件はなぜ成功しなかったのか

歴史のif…2.26事件はなぜ成功しなかったのか

クーデターの条件~台湾を事例に考える(5)世直しクーデターとその成功条件

クーデターには、腐敗した政治を正常化するために行われる「世直しクーデター」の側面もある。そうしたクーデターは、日本では江戸時代の「大塩平八郎の乱」が該当するが、台湾においては困難ではないか。それはなぜか。今回は...
収録日:2025/07/23
追加日:2025/10/17
上杉勇司
早稲田大学国際教養学部・国際コミュニケーション研究科教授 沖縄平和協力センター副理事長
3

国力がピークアウトする中国…習近平のレガシーとは?

国力がピークアウトする中国…習近平のレガシーとは?

習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(6)習近平のレガシー

「時間は中国に有利」というのが中国の認識だが、中国の国力はすでに衰え始めているとの見方を提示した垂氏。また、台湾問題の解決が習近平主席のレガシーになり得るかだが、かつての香港返還問題を事例として、その可能性につ...
収録日:2025/07/01
追加日:2025/10/16
垂秀夫
元日本国駐中華人民共和国特命全権大使
4

なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る

なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る

学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち

たかが「1」、されど「1」――今、数の意味が理解できない子どもがたくさんいるという。そもそも私たちは、「1」という概念を、いつ、どのように理解していったのか。あらためて考え出すと不思議な、言葉という抽象概念の習得プロ...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/06
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

学力喪失と「人間の理解」の謎…今井むつみ先生に聞く

学力喪失と「人間の理解」の謎…今井むつみ先生に聞く

編集部ラジオ2025(24)「理解する」とはどういうこと?

今井むつみ先生が2024年秋に発刊された岩波新書『学力喪失――認知科学による回復への道筋』は、とても話題になった一冊です。今回、テンミニッツ・アカデミーでは、本書の内容について著者の今井先生にわかりやすくお話しいただ...
収録日:2025/09/29
追加日:2025/10/16