社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
東大教授が解説する人工知能「東ロボくん」が東大合格を諦めたワケ
2016年11月、東大合格を目標に、国立情報学研究所の新井紀子教授がプロジェクトディレクターとなって2011年から進めてきた国産人工知能「東ロボくん」の進路変更は、ちょっとしたニュースになりました。総合偏差値57.1をマークし、相当上位の大学に合格する実力に到達していた東ロボくんですが、それでもこのままでは東大受験突破は無理と判断、プロジェクトは凍結されることになったのです。その理由は、どうも「言語の理解」という壁にありそう。そこには人間と人工知能の認識や処理の違いがありました。
東ロボくんの試験成績を見ると、得意なのは世界史と数学、苦手なのは英語・国語と物理なのです。人工知能がビッグデータを得意とするのはもう常識ですから、得意分野はうなずけますが、苦手の中で「物理」に首をかしげる人が多いのではないでしょうか。
実は物理の試験で人工知能にとって壁になったのは、イラスト(図解)を理解することでした。イラストには、人間が思っているより多様な描き手のくせや個性が含まれています。一つの「型」を捉えるのに、微妙な差があることを踏まえてどこまで同じ「型」として読み取るかが課題となるのですが、もしかすると、これもある意味では「言語の理解」カテゴリーに入ってくるのかもしれません。
しかしながら、一つひとつの単語の意味を知ることは得意でも、人工知能には背景知識を適切に持ってくることがまだ難しいのです。背景知識には歴史的な経緯もありますが、対話している二人の人間性、あるいはそのコミュニティの雰囲気など、さまざまなものがランダムに反映されて、その場での意味合いが変わってくるからです。
よく言われるのは、人工知能には小学生程度の常識もなく、会話のテーマも理解できないということです。たとえ簡単な英語でも、背景知識がなければちんぷんかんぷんだということでしょう。
例えば、話し言葉でよく用いられる「ことわざ」は、土地によってさまざまな動物が出てきます。監督が、自分の国のことわざで「ライオン」を例に話を進めると、日本人は何となく「百獣の王」を連想して「ものすごく勇敢にやる」ことだと理解してしまう。でも、実際にはそんなニュアンスはまったく含まれていなかったりします。
そんなときに言葉をその国の表現に合わせて言い換えるのが、正しい言語の解釈に基づく通訳のスキル。これは人工知能には真似のできないことだろうと感じます。
ただし、コミュニケーション能力とは、単に他人と仲良くする能力ではない、と釘も刺されています。例えばリーダーシップや高度な人対人の交渉能力、交流能力などの高度なコミュニケーション能力を従業員にいかに身に付けさせるかが、ビジネスにおける経営戦略では今後、大きなポイントになっていくはずです。
2020年の東京オリンピックを目標に、「おもてなし」が注目ワードとなっています。接客に携わる人々が持つ長年の経験の蓄積が物を言うのは間違いありませんが、日本は今後、人工知能を活用してその経験をシステム化できるかがが問われています。その際の決め手となるのも、きっと「言語の理解」なのでしょうね。
偏差値57.1の東ロボくんの泣きどころは?
東ロボくんの例をもとに、人工知能には言語を理解することが難しいと解説しているのは、新井教授の研究仲間でもある東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の柳川範之氏です。東ロボくんの試験成績を見ると、得意なのは世界史と数学、苦手なのは英語・国語と物理なのです。人工知能がビッグデータを得意とするのはもう常識ですから、得意分野はうなずけますが、苦手の中で「物理」に首をかしげる人が多いのではないでしょうか。
実は物理の試験で人工知能にとって壁になったのは、イラスト(図解)を理解することでした。イラストには、人間が思っているより多様な描き手のくせや個性が含まれています。一つの「型」を捉えるのに、微妙な差があることを踏まえてどこまで同じ「型」として読み取るかが課題となるのですが、もしかすると、これもある意味では「言語の理解」カテゴリーに入ってくるのかもしれません。
人工知能には背景知識が不足している
では、なぜ人工知能はこの分野が苦手なのでしょうか。「Google翻訳」の進化などを見ても、単純な翻訳技術の精度自体は相当上がっています。しかしながら、一つひとつの単語の意味を知ることは得意でも、人工知能には背景知識を適切に持ってくることがまだ難しいのです。背景知識には歴史的な経緯もありますが、対話している二人の人間性、あるいはそのコミュニティの雰囲気など、さまざまなものがランダムに反映されて、その場での意味合いが変わってくるからです。
よく言われるのは、人工知能には小学生程度の常識もなく、会話のテーマも理解できないということです。たとえ簡単な英語でも、背景知識がなければちんぷんかんぷんだということでしょう。
「文字どおりの翻訳」と「正しく伝える」のあいだ
人間にしかできない「言語の理解」とは何かを知るための例として柳川氏は、ワールドカップの歴代監督の通訳経験者らによる座談会を紹介しています。そこで話されていたのは、「文字通りに翻訳する」ことと「監督の言葉を正しく伝える」ことの違い。「文字通り」の正確さを得意とするのが人工知能ですが、人間は場合はそうではないということです。例えば、話し言葉でよく用いられる「ことわざ」は、土地によってさまざまな動物が出てきます。監督が、自分の国のことわざで「ライオン」を例に話を進めると、日本人は何となく「百獣の王」を連想して「ものすごく勇敢にやる」ことだと理解してしまう。でも、実際にはそんなニュアンスはまったく含まれていなかったりします。
そんなときに言葉をその国の表現に合わせて言い換えるのが、正しい言語の解釈に基づく通訳のスキル。これは人工知能には真似のできないことだろうと感じます。
2020年を機に「AIおもてなし」は花開くか
そしてこれを抜きにしては成り立たないのが、人間同士のコミュニケーションです。日本の大多数の人間にとって、人工知能に打ち勝つ「生き残り戦略」は、幅広いコミュニケーション能力を活かすことだろうと柳川氏は言います。ただし、コミュニケーション能力とは、単に他人と仲良くする能力ではない、と釘も刺されています。例えばリーダーシップや高度な人対人の交渉能力、交流能力などの高度なコミュニケーション能力を従業員にいかに身に付けさせるかが、ビジネスにおける経営戦略では今後、大きなポイントになっていくはずです。
2020年の東京オリンピックを目標に、「おもてなし」が注目ワードとなっています。接客に携わる人々が持つ長年の経験の蓄積が物を言うのは間違いありませんが、日本は今後、人工知能を活用してその経験をシステム化できるかがが問われています。その際の決め手となるのも、きっと「言語の理解」なのでしょうね。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
民族自決原則とは?多民族国家が抱える難題と矛盾
地政学入門 ヨーロッパ編(6)「ロシア世界」と民族自決原則
「ルスキー・ミール」という言葉で代表される「ロシア世界」――それは、実際の国境にとどまらず、自国語を話す周辺領域の市民をも包括した概念。プーチンはそれを使ってウクライナ侵攻を正当化するが、国家外の自民族の保護を優...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/06/09
米国史で最も「主権主義者」を体現しているのはトランプか
トランプ2.0と中東(2)保守主義者から主権主義者へ
トランプ2.0の政治手法や姿勢からは、支持者が信じる保守主義の影が薄れている。「自国第一主義」を守るためなら、桁外れの関税も議事堂襲撃も恐れない。むしろ大国仲間としてロシアに接近する風すらうかがえる。見えてくるのは...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/06/08
問題だらけの閣僚たち…トランプ政権の真の公約とは?
第2次トランプ政権の危険性と本質(5)トランプの政治手法の問題とは?
トランプの経済政策は、文化戦争の手段としての反グローバリズムという軸で理解するしかないが、そのような政策を進めるトランプ政権の政治手法の問題点はなにか。その背景には、陰謀論者が全部入ってしまったような閣僚の問題...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/07
その後の余命が変わる!続けるべき良い生活習慣とは
健診結果から考える健康管理・新5カ条(7)良い生活習慣が健康寿命を延ばす
健康診断の結果に一喜一憂するだけではなく、そのデータを活用し、生活習慣を見直すことが大切である。今回は、内臓脂肪の管理が健康維持に直結する理由や、体重増加と糖尿病リスクの関係、さらには良い生活習慣が寿命に与える...
収録日:2025/01/10
追加日:2025/05/27
健康寿命に大きく影響する骨粗鬆症・歯周病・変形性関節症
老いない骨のつくり方(1)高齢化と骨の病気
東京大学工学系研究科・医学系研究科教授の鄭雄一氏による「老いない骨のつくり方」シリーズ講話。鄭氏はレクチャー冒頭で、「情報に溺れず正しい情報を選択する能力がいかに大切か」と語り、誤った情報は「人生の栄養失調」に...
収録日:2016/09/14
追加日:2016/10/20