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第三次成長戦略は選挙対策? 政治的思いが感じられない

激動する世界情勢と日本(8)アベノミクスの功罪

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
やわらか成長戦略。
首相官邸ホームページ(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/yawaraka_seichosenryaku.pdf)より
アベノミクスは、日本経済にいかなる影響を与えたのか。千葉商科大学学長・島田晴雄氏は以下の点を指摘する。金融政策は一応の成果を出した。財政政策は効果薄で、今後の見通しが立たない。成長戦略は一時よかったものの、現在は魅力に欠けるものになっている。島田氏が、アベノミクスの功罪を総括する。(2016年1月26日開催島田塾第131回勉強会島田晴雄会長講演「年頭所感 激動の世界経済と日本」より、全10話中第8話)
時間:15:46
収録日:2016/01/26
追加日:2016/05/16
≪全文≫

●アベノミクスの成果(1)第一の矢と第二の矢


 最後に、輪を閉じて日本経済に戻ります。もう一度復習になりますが、アベノミクスの成果としては、第一の矢は一応上がりました。株価が上がり、一気に利益が出ました。アベノミクスで利益が増えた分は、税収から逆算すると約30兆円になります。だから、企業社会は元気になったと思います。ただ、350兆円のベースマネーをどう吸収するのか。これが大問題ですね。

 第二の矢は財政です。財政についてですが、日本は2010年に財政再建公約というものを世界に向かって出しています。野田佳彦さんが、民主党議員180~90人近くの政治生命を失ってでも実行したかったのが、消費税増税です。なぜかというと、政府にも財政再建の気概があるということを、たった数パーセントの増税で見せたかったからです。野田さんは正直な人ですから、そこに政治生命を賭けたのです。そのぐらい、財政問題は重要なのです。

 現在、どうなっているのか。2010年に基礎的財政収支で対GDP比6.6パーセントあった財政赤字を、2020年にはゼロにする、あるいは黒字にするというのが目標です。2015年は中間点ですから、3.3パーセントにするという約束をしました。少し税収が上がったものですから、2015年はぎりぎり軌道上を走っていますが、今年から外れてしまいます。さらに2020年には大きく外れます。

 昨年まで、20年度の基礎収支は11兆円のマイナスということになっていました。内閣府がすでにレポートを出してしまいましたが、これは世界中が見ているので、それは大変なことだと受け取るのではないかと思います。そのことを財務省に質問したら、その幹部が「日本人は真面目だから理解していただけると思います」と言ったので、二の句が継げなかったのですが、これはその程度の問題ではないと思います。

 ギリシャはうそをついたから問題になりました。日本のGDPはギリシャのおよそ22倍です。政府の財政赤字比率も、ギリシャは170パーセントですが、日本は240パーセントですから、尋常ではないことになると思います。財政再建困難と判断されれば、最もあり得べきことは、国債暴落していくことです。そうすると、金利が跳ね上がります。そうすると、GDPの2倍以上ある財政赤字が急激に増えだします。これは第二次世界大戦後以上でしょう。こういう危機があるのです。第二の矢はそういうことですね。


●アベノミクスの成果(2)第一次成長戦略は不発に終わった?


 第三の矢はどうなっているか。これまで、3回にわたって成長戦略を発表しました。2013年に発表したのは、三つのアクションプランです。一つ目は、日本産業再興プラン。これは、経済の新陳代謝を早めましょうという考え方です。二つ目は戦略市場創造プラン。健康、エネルギー、次世代インフラと、これまであまり市場を形成すると思われていなかったものも産業になるということを言っています。三つ目のプランは、国際展開戦略プランで、FTA(自由貿易協定)比率を19パーセントから70パーセントへ上げるというものです。どうやってやるのかといえば、TPPと先ほどの東アジア地域包括的経済協定、FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)、これら全て達成されれば実現できると言っています。

 TPPは合意しました。実は2年前に、韓国がもうこれを実現しています。アメリカとヨーロッパと独自でやっています。日本はまだ20パーセント程度のところにいるので、どうするかということで、戦略を書いて打ち出しました。すると、その翌月から四半期の成長率がどっと落ちてしまったのです。政治家にとって重要なのはやはり株価と成長率ですから、成長戦略と四半期の成長率はそれほど関係ないのですが、それでも安倍晋三さんは真っ青になりました。翌年(2014年)の正月に、決然たる覚悟で、「既得権益である規制の岩盤を打ち破る、穴をあけるドリルの刃に私はなります」などとかっこいいことを言ったのです。


●アベノミクスの成果(3)世界的にも評価され得る第二次成長戦略


 それで、2014年6月発表を目指して総動員で取り組み、第二次成長戦略を打ち出しました。これは、世界的にも結構評価されており、真面目で、まともな戦略です。一つ目は何かというと、新陳代謝を促進するための、産業競争力強化法です。これは、「補助はしない」「保証はしない」「ゾンビ企業はつぶれてください」「補填しないから、失業者になりそうな人は職場を変わってください」という内容の法律です。

 さらに、おそらく一番成功したのかなと思われるのが、企業統治と資本市場の改革です。これは五つあります。一つ目は会社法改正で、日本人の日本人による日本人のための会社というのはよくないので、...
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