●「アジアの奇跡」を実現した「人口ボーナス期」
こんにちは、株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵と申します。よろしくお願いします。今回は、「経営戦略としての働き方改革」についてお話しさせていただきたいと思います。
今、なぜ日本社会にとって「働き方改革」といえば、これほどまでに重要になってきているのか。どうして日本では長時間労働が起きているのだろうか。それらの大きな基本となる「人口ボーナス期・オーナス期」という考え方についてお話しさせていただきたいと思います。
まず、人口ボーナス期についてお話ししていきます。一言でいうと、「人口がボーナスをくれる時期」と置き換えると分かりやすいと思います。ある時期、特に生産年齢人口の比率が非常に高く、高齢者が少ししかいない人口比率になった時期の国は非常にもうかるという法則があります。
今ちょうど、中国、韓国、シンガポール、タイがこの時期に入っています。この状態にある国は、安い労働力が多いことによって、世界中の仕事を早く・安く・大量にこなす。一方で、もうかったお金は、高齢者の比率が少ないわけですから、社会保障費がかさみません。ですから、どんどんインフラ投資に回すことができるので、爆発的な経済成長となって当たり前という時期になります。
実は、中国はもうすぐこの人口ボーナス期が終わるといわれています。インドはこれから入って、2040年まで続くといわれています。つまり、「アジアの奇跡」といわれる経済発展のほとんどが、この人口ボーナス期によって説明できてしまうといわれています。
●日本の人口ボーナス期は1960年代~90年代半ば
では、日本にとっての人口ボーナス期はいつだったのか。グラフをご覧ください。
グラフ上の右肩に上がっている点線が老年人口(高齢者)の比率となります。下がっている線が年少人口(子ども)の比率です。一番上の少し太い線が「従属人口指数」というもので、何人の生産者が何人の高齢者と年少人口を支えているかという指数です。この指数が低い方が一人当たりの負担は軽いわけですから、国として有利な発展しやすい時期といえます。
グラフの一番左側を見ていただくと、日本の従属人口指数が非常に高いことが分かります。この時期はまだ子たくさんの時期で、子どもを養育するために国として教育投資が必要なため、一人当たりの負担が重いのです。ただ、これは「明るい重さ」です。教育投資をすれば、その子どもはどんどん労働力になります。この後は従属人口指数が急速に下がっています。それが底を打っている時期としては、1960年代半ばから90年代半ばになります。
そして90年代半ばから再び従属人口指数が上がっていることが、見て取れると思います。今度は、「暗い重さ」とでもいうのでしょうか。高齢者の比率が増え、その社会保障費が一人当たりの負担に重くのしかかってくる形で、従属人口指数がどんどん上がっていくと予測されています。
これを見て分かるのは、60年代半ばから90年代半ばが日本の人口ボーナス期だったということです。そして、それは日本が高度経済成長をした時期とがっちりはまるということもお分かりいただけるのではないでしょうか。
●なぜ人口ボーナス期は終わってしまうのか
この人口ボーナス期は、一度終わると二度と訪れないという法則があります。つまり、グラフの下にも書きましたように、90年代半ばで人口ボーナス期が終わった日本には、もう訪れないということです。
なぜ人口ボーナス期が終わるのかについては、グラフの右側に書きました。高度成長期によって富裕層が生まれ、富裕層は子どもに教育投資をするので、子どもが高学歴化します。高学歴化すると、人件費が上昇し、ちょうど今の中国のように、「中国も高くなってきたから、他の国に発注しようか」というように、世界の仕事が他国へ流れていってしまうため、仕事が集まらなくなるということです。また、高学歴化すると、女性だけでなく男性の結婚年齢も後ろ倒しになっていきます。そうなると、生涯にもつ子どもの数が減ってきて、少子化の社会になっていきます。
右下に書きましたが、こうした高度経済成長期には医療や年金制度の整備が進んでいきます。そうすると、高齢者に対してお金がかかる社会になってくるわけですが、それと同時に高齢者の比率も増えるし、高齢者の寿命も延びるということが起こってきます。当然、そこにかかるお金が非常に増えてしまいます。こうして、一人当たりの負担、その重さが増えてしまい、国民一人あたりのGDPは横ばいに入ります。こうなると、グラフの右側にグレーで塗った部分、つまり人口オーナス期に入っていきます。
●人口オーナス期の特徴とは
では、人口オーナス期はどんな時期なのでしょう。
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