●一つのコンセプト、さまざまなネーミング
IoTのIはInternet、oはof、TはThingsです。訳すと「モノのネット」ですが、世の中には、私が提唱したHFDSから始まり、同じような意味を持つ言葉がたくさんあります。
例えばUbiquitous Computingです。これは10年ぐらい前に流行した言葉で、その他にもCalm Computingとか、Pervasive Computing、M2M、O2O、CPSなど、いろいろな名前で呼ばれています。しかし結局、目指しているところは同じです。モノの中に入っているコンピューターを相互接続し、さらにインターネットの中にある情報とそれらを足し算することで、現実と仮想空間をつなげる。そのようなことをやるという目的を、全ての言葉が共通して持っています。
最近では、世界中にいる研究者たちも、いろいろな言葉で呼ぶと分からなくなるので、「モノの中に入れたコンピューターをつないで現実世界と仮想空間をつなぐ」ような研究分野に関しては、IoTと呼ぼうということになっています。これは、アメリカやヨーロッパ、日本でも共通認識になってきましたので、これからはこの分野の研究を、IoTと呼びたいと思います。
先ほど述べたユビキタスコンピューティングという言葉は、私も10年前ぐらいからたくさん使っていたものです。「ユビキタス」とは、ラテン語に由来する英語で「どこにでもある」ということです。ユビキタスコンピューティングとは、「コンピューターはどこでもある」ことを指します。いろいろなモノの中に、コンピューターが入っていると言えば「コンピューターどこにでもある」わけですから、どうもこれだと少し哲学的な感じがしてしまう。そこで、マーケッターが考えると、やはりIoT、「モノのネット」だろうということになるのは当然だと思います。
●重要なのは「インターネットのようにつなぐこと」
ここで私が重要だと思うのは、「インターネットのようにモノをつなぐ」という認識をすることです。「モノをインターネットにつなぐ」と考えると、モノをネットにつないで、例えば遠隔でコントロールするなどということは、もう10~20年も前からもできていたことで、実はたいしたことではなく、「何も今更」という感じがします。有線でも無線でもいいのですが、遠隔から通信回線を通してモノをコントロールしようということは、かなり昔からあったものです。
ところがここで重要なのは、「インターネットのようにモノをつなぐ」ことなのです。どういうことか。一言で言うと、オープン性です。インターネットの本質はオープン性にあります。このTRONプロジェクトも、オープンでやっていて、全ての技術情報を開示しています。
例えばTRONの場合ですと、ソースコードもオープンに開示して、しかもロイヤルティー取りません。インターネットにも似たようなところがあります。テクノロジー的には、ロバート・カーンさんなどがやっていたTCP/IPというプロトコルを使いますが、これも公開されていて、パソコンだろうとスマホだろうと、あるいはパッド型のコンピューターだろうと、どこに入れても、このプロトコルさえ入れれば、相互に通信できるようになります。
このように、インターネットはかなりオープンなもので、どこかの会社のクローズなネットで、そこで誰かが全てを支配しているというものではありません。ここはものすごく重要なところだと、私は思っています。
●インターネットの本質はオープン性にある
大切なのは、オープンなネットワークであることです。なぜインターネットでいろいろなイノベーションが起こったり新しいことが起こったりするかというと、そういうオープン性があるからです。誰もがつなぎたいと思ったときにつなげて、しかもインターネットでビジネスをしたい会社はいくらでも入ってくることができて、その上でコンテンツ流通もできるし、プログラムの流通もできる。メールのネットワークといったこともできるので、いろいろな通信文を交換することができたり、情報を皆でシェアしたり見たりすることができる。これら全ての原点には、インターネットの本質、すなわち「あらゆるものをつなぐことが自由にできる」というオープン性があります。
何度も言っているように、オープンになっていくからこそ、イノベーションが起こるのです。ここが非常に重要なことです。クローズなもので、何かをするのに誰かに断らなければいけないとか、何かをやろうとしたときに誰かの支配を受けるという環境では、なかなかイノベーションは起きません。このインターネットが、なぜ今の社会に大きな影響を与えたのか。その本質がこのオープン性にあることを、まず理解することが重要です。そうなると、「モノのネット」も、このインターネットのようにやっていきたいと思うわけです。