ドイツと日本の現代と歴史を振り返ってみた上で、もう一度日本の最近の動向について考えてみたいと思います。
日本の最大のテーマは、「失われた20年」からの復活です。日本経済が1990年代初頭のバブル崩壊に続いて、90年代後半から長期デフレと停滞に沈んだことを「失われた20年」といいますが、安倍内閣は、この長期デフレから日本を脱却させることを最大の目標としてスタートしたわけです。
●アベノミクスの経緯と成果
安倍政権ではその目的を達成するために、アベノミクスという大経済戦略を打ち出しました。それは3本の矢から構成されています。
第一の矢は金融です。異次元金融緩和でベースマネーを大量に提供して、インフレマインドを醸成しようというものでした。異次元緩和は為替レートを引き下げ、株価を上昇させ、産業に活気をもたらす意味では大成功でしたが、本来の狙いは物価上昇であり、物価上昇を実現することで人々にインフレマインドを醸成させることでした。その過程でGDPに匹敵するほどベースマネーを提供してしまい、今や出口戦略ができるのかという不安があります。したがって、これは「mixed success」、成功もしたが大きな課題が残っているということでしょう。
2本目は財政です。積極的・機動的な財政政策を展開するというもので、確かに景気を維持することへの一定の役割は果たしました。しかし、国際公約の財政健全化、つまり基礎的財政収支を2020年にゼロまたは黒字にするという目標はかなり遠のいてしまっています。
3本目が成長戦略です。第一次アベノミクスでは資本市場、農業、労働など構造改革に注力しましたが、これらは成果が出るのに時間がかかります。第二次アベノミクスでは、「一億総活躍」の総称の下に、さらに環境を整えて労働力供給を増やす趣旨の改革を進めました。
アベノミクスの成果を通観してみると、2013~2016年までは成長、物価、実質賃金それぞれの面で成果があまり出なかったといわざるを得ません。しかし、2016年の中旬ごろから、成長、物価、実質賃金それぞれに改善の兆しが見えてきました。これは、背景にある世界経済の大変な好調が影響しているのか、アベノミクス独自の成果なのかは、今後の評価が待たれると思います。
●懸念される財政破綻リスクのシナリオ
以上のようにドイツと日本の歴史と現状を通観した上で、最後に日本の課題とドイツの課題について、日独比較の上から皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
日本の課題は、大きく分けて三つあります。
一番目は、財政破綻のリスクが高まっていること、それにどう対応するのかという大きな課題です。今の日本における一般政府財政負債は異常で、国際的にも突出しています。太平洋敗戦後の一般政府負債GDP比よりも高いのです。
財政負債が高齢化で一段と増えていくだろうと見込まれている一方、やがて家計貯蓄率が伸び悩んでくるため、今後10~15年くらいのうちに政府の総債務額が家計の純貯蓄の総額を超える可能性が出てきます。そうなると、国債を購買する余力がなくなってきます。
経常黒字なら購買は継続できますが、その場合、海外投資家が「財政健全化を達成できないかもしれない国の国債」という理由で、日本の国債に安値要請をしてくることも当然考えられます。逆に経常赤字になると、国債価格は急落するおそれがあります。そうなると金利が上昇するリスクが大きくなり、政府の予算編成、あるいは企業の生産・投資活動に障害が出てきます。
●破綻リスク回避への本気の覚悟が問われている
実は、1990年代の後半から財政赤字は急増してきました。その原因は、社会保障会計の赤字です。高齢化によって社会保障給付がどんどん伸びる反面、経済が停滞していて賃金が伸びないのです。賃金をもとにした保険料の収入が伸びない時代が二十数年続いたため、社会保障会計の赤字が増大したのです。
社会保障給付はいろいろな意味で国民生活に直結しており、それを支えています。よって、とくに医療や介護サービスの削減は難しい。だとすれば、これを解決するために消費税を引き上げていくことは不可避だと思います。
ドイツも含めて欧州では、付加価値税は20~25パーセントの水準にあります。一方、安倍政権は現在8パーセントの消費税をあと2パーセント引き上げることにも大変逡巡をしており、2回すなわち4年間も延期してしまいました。したがって、ドイツなどから見れば、財政赤字の膨張で高まる破綻リスクを本気で回避する取り組みへの覚悟が日本政府にあるのかが、疑問に見えると思います。
●日本は近隣諸国との建設的関係構築を望むのか
二番目は、日本に近隣諸国、とくに中国と韓国と建設的な関係を構築する覚悟があるのかという点です。戦後70年以上が経過しました...