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日本の財政は、敗戦のときよりも悪化している

逆境の克服とリーダーの胆力(3)中国の台頭と財政危機

神藏孝之
公益財団法人松下幸之助記念志財団 理事 /松下政経塾塾長代理/テンミニッツTV論説主幹
情報・テキスト
日本を取り巻く困難な状況は2つあると、公益財団法人松下政経塾副理事長・イマジニア株式会社代表取締役会長兼CEOの神藏孝之氏は指摘する。まずは中国が日本のGDPの約3倍という超大国になりつつあるということだ。朝鮮半島の混乱がそこに加わって、厳しい国際環境が生じている。他方、日本国内でも財政赤字が深刻化している。(全8話中第3話)
時間:08:01
収録日:2018/01/19
追加日:2018/06/12
≪全文≫

●中国は現在、中華の夢を呼び戻そうとしている


 さらに厄介なことは、中国はもともと超大国だったということです。私たちは文化大革命(文革)の後の荒廃していた時代を見てきているので、GDPのサイズとしては小さいというイメージがありました。

 しかし、もともと漢の時代も唐の時代も、また宋の時代も明の時代も清の時代も、中国は超大国です。産業革命以前の中国のGDPは、圧倒的に大きかったのです。産業革命が起こる前は、経済の重要な指標は農業生産性です。したがって、中国とインドという人口の多い国が圧倒的に強くなります。

 中国は現在、1840年のアヘン戦争以来失われてしまった「中華の夢」を呼び戻そうとして、元に戻っている、と考えた方がいいでしょう。毛沢東が30年間支配し、その後、鄧小平以来30年間、経済一本やりできました。そして習近平が再び、新しい皇帝として30年間続く体制を作ろうとしているのです。


●日本の約3倍のGDPを持った強国ができ始めてしまった


 それによって日本にとっての緊張感が非常に高まっています。朝鮮半島でも、韓国の文在寅首相は何をするのかよく分かりません。「韓国の鳩山由紀夫」ともいわれています。そこに北朝鮮の核ミサイル問題が加わります。

 このように朝鮮半島が動揺し、中国が台頭する時期は、日本人が一番精神的に不安定になりやすい時期です。元寇では、いくつかの偶然も作用しましたが、北条時宗が知謀戦略を立てて元を追い返すことができました。しかし、戦前は満州事変で深みにはまり、大敗退を喫します。

 今、私たちが置かれているのは、日本の約3倍のGDPを持った強国ができ始めてしまったという状況です。少なくとも2年前のデータを見ると、アメリカ海軍の第7艦隊が日本近海にとどまり、それを航空自衛隊の飛行機が支援するという形であれば、日米がかろうじて戦力として上回っていました。しかし今や、第7艦隊がいようがいまいが、中国に対しては軍事的に太刀打ちできません。

 これが私たちの取り巻かれている状況を考える際に、見ておくべき2つ目の状況です。中国が超大国に戻りつつあるということ、そして習近平という新しい皇帝が誕生したということです。


●日本の財政は、敗戦時よりも悪化している


 3番目に考えるべきことは、日本の財政問題です。敗戦の時、政府債務残高はGDP比で200パーセントを超えていました。あれだけの大戦争を行うために、1940年ぐらいから軍事費を日銀が全て戦時国債として引き受けてきたからです。

 もちろん革新官僚の賀屋興宣(かやおきのり)や岸信介はいましたが、それでも敗戦の日までに、債務残高GDP比は200パーセントにまで達していました。恐ろしいことに、金利は敗戦を迎えるまで全く上がっていません。植民地で軍票を発行していた国では、もう少し早くから金利が上がっていました。

 今、日本に起きているのは、こうした敗戦の時よりも悪化した財政です。2017年度で債務残高GDP比は221パーセントですが、2018年度には240パーセントを超えるでしょう。戦後はもちろん戦争が終わりますから、借金は増えません。もう弾を作る必要はないし、軍艦を作る必要もありません。しかし、問題解決は簡単ではありません。

 およそ97、8兆円の予算のうち、年金、医療、介護等々だけでなく、地方交付税交付金も、その中身は基本的には社会保障費です。そして、国債1,000兆円の元金の支払いと利払いもあります。利払いは、目下のマイナス金利、ゼロ金利のために9兆円しか現段階では計上していませんが、支払わざるを得ない額が予算のうち75パーセントを占めているのです。しかも、これは支払使途が決まっています。

 政府は史上最高の税率に引き上げると言っているが、それでも税収は60兆円にも達しないでしょう。他方、予算のうち削減できず、支払わざるを得ない部分は100兆円を優に超えていきます。この差額がどんどん増えて、積み上がってきているのです。予算のうち、国家公務員の人件費や、防衛費、文科省の費用、科学研究費(科研費)など、けずれそうな部分は結局今の状況だと25パーセントほどしかありません。


●日本はもともと、これほどの放漫財政ではなかった


 ただし日本の財政は、最初から野放図だったわけではありません。最初に赤字国債を出した時の財務大臣は大平正芳でしたが、彼は終生、「こんなことはすべきではない」という葛藤を抱き続けました。そのため彼は首相になると消費税を導入しようとしますが、選挙に敗退、最後は70歳で亡くなってしまいます。いずれにせよ、日本はもともと、これほどの放漫財政ではなかったということを覚えておくべきです。

 現在、1,000兆円を超える国債という幻の果実の下にいなが...
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