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深センと天安門事件…鄧小平の粘り、能力、怖さ

逆境の克服とリーダーの胆力(6)鄧小平の執念

神藏孝之
公益財団法人松下幸之助記念志財団 理事 /松下政経塾塾長代理/テンミニッツTV論説主幹
情報・テキスト
鄧小平
現在、日本は中国に経済分野で大きく水を空けられている。中国の経済発展の基礎をつくったのは鄧小平である。鄧小平とはどのような政治家だったのか、公益財団法人松下政経塾副理事長・イマジニア株式会社代表取締役会長兼CEOの神藏孝之氏が解説する。鄧小平の強みは、執念と粘り強さにこそあった。(全8話中第6話)
時間:13:17
収録日:2018/01/19
追加日:2018/07/03
タグ:
≪全文≫

●鄧小平は1978年、松下電器のカラーテレビ工場を訪れた


 鄧小平は初来日した時、松下電器の門真市のカラーテレビ工場を訪れています。最新鋭の工場を訪れた際、「本日は幸之助先生に教えを請いに来ました」ということを言っています。これは今では考えられないことです。例えば、習近平国家主席がトヨタの工場を視察し、訪中を熱心に請い、仲良く会話するでしょうか。しかも、来日時の鄧小平の肩書は副首相でしたが、事実上は最高権力者でした。

 彼の人生で圧倒的に面白いのは、起き上がりこぼしといわれるほど、失敗してはそのたびにまた復活してきたところです。特に興味深いのは、3回失敗したうちの2回目です。


●鄧小平のすごさは、絶対に諦めないことである


 鄧小平は、毛沢東が「大躍進」で失敗した後、中国経済の総責任者として経済再建に取り組みました。大躍進では、最大でも4,000万人以上の餓死者が出ました。鄧小平は、経済再建に従事していることから反革命分子だと批判され、近衛兵を使って再び権力を取りに来た毛沢東に、役職を全て奪われてしまったのです。

 彼のすごさは、それでも絶対に諦めないという点でしょう。北京大学にいた鄧小平の長男は、絶望して自殺を図り、半身不随になってしまいます。家族も離散させられました。にもかかわらず、鄧小平は毛沢東に手紙を書き続けます。この粘りが強烈です。周恩来とのコンタクトも、絶対に絶やそうとはしません。鄧小平は有能な経済設計者でしたから、もし毛沢東が抹殺していれば、今の中国の経済発展はあり得ないでしょう。鄧小平は能力とともに怖さも兼ね備えていたのです。

 そして、周恩来の計らいで再び復帰することになります。中国は経済的に立ち行かなくなっていた矢先、四人組事件も起きていました。そうした混乱の時期に鄧小平は復活を遂げますが、周恩来はがんに侵されて亡くなってしまいました。

 天安門事件は2度起きているのですが、1回目は、周恩来の死去を惜しむ民衆が大量に集まったことで始まります。民衆があまりにも周恩来を支持しているということを見た毛沢東は、再び鄧小平をつぶそうとします。しかし、毛沢東の寿命の方が尽きるのが早く、結果的にはそれ以降、鄧小平の時代が30年間続くことになりました。


●鄧小平のすごさの象徴は、深センである


 鄧小平が実行した政策を見れば、政治はいかに国にとって大事なことかが分かるでしょう。鄧小平のすごさの象徴は深センです。深センはもともと6万人ほどの漁村でした。その漁村が、今や「中国のシリコンバレー」と呼ばれるほどに発展してきています。ここに電気自動車(EV)や蓄電バッテリーなど、ありとあらゆる最先端技術がそろっており、テンセントもここにあります。

 鄧小平が晩年に取り組んだのが深センの改革でした。ただし簡単ではなかったでしょう。冷戦が終わりつつある1989年に天安門事件が起きます。すでに80歳を過ぎていた鄧小平は引退していてもおかしくありませんでしたが、まだ諦めません。深センなど南方の都市をめぐり、「南巡講話」を発表します。深センの空港に行くと、今でも鄧小平の「百年不動揺」という言葉が書いてあります。つまり、社会主義資本主義の一国二制度は、100年動かさないという宣言です。

 ところが、南巡講話で訪問する都市では、陳雲らを含めて保守派が実権を握っていました。そこで、鄧小平はもう一度戦う決意をします。80歳半ばになった老人が、もう一回戦いを挑むというのです。これが南巡講話です。また鄧小平は「豊かになれる人から先に豊かになれ」という「先富論」を唱えます。黒猫でも白猫でも、ネズミを捕るなら良い猫だという、とても分かりやすい言い方をするのです。


●日本で40万、中国で80万という人材市場になっている


 南巡講話の結果、今起きていることは驚異的な事実です。世界の時価総額トップ企業のランキングの中に、テンセントやアリババが入りました。中国共産党を共産主義の政党だと考えるのは、誤解でしょう。むしろ、中国共産党という名の王朝なのだと考えるべきです。

 つまり、政治権力に手さえ出さなければ、自分たち中国共産党の統治を脅かさなければ、何でもありだというのが基本的なやり方なのです。アリババは日本でも有名ですが、テンセントは世界最大級のメッセンジャーアプリ「WeChat」を運営する、決裁プラットフォーム会社でありゲーム会社です。このように、中国共産党は実は、非常に商売に対して理解があるわけです。

 例えば、華僑と呼ばれる人たちは4,000万人ほどいます。オーバーシーチャイニーズという言い方をしますが、中国本土では食えなくなって、弾圧されて出てい...
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