知能と進化
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人間に固有な性質としての蓄積的文化
知能と進化(4)人間の特殊性としての蓄積的文化
総合研究大学院大学長・長谷川眞理子氏と東京大学大学院工学系研究科特任准教授・松尾豊氏は、蓄積的に行われていくという人工知能(AI)の学習過程と類推的に、進化生物学でいわれる人間に固有な性質としての蓄積的文化について議論する。人間が有する猿とは違った性質とは一体何なのか。(全8話中第4話)
時間:8分31秒
収録日:2018年4月9日
追加日:2018年7月20日
カテゴリー:
≪全文≫

●蓄積的文化が、他の動物にない人間の特性である


松尾 長谷川先生がいう蓄積的文化とはどのようなものですか?

長谷川 蓄積的文化とは、個別の動物がある特定の環境要素をどう改変したら、自分を楽にしたり、物をおいしくしたりできるのかということを、試行錯誤する中で形成していくというものです。例えば、そうした試行錯誤を眺めていた個体は、それをそのまま真似するのではなく、それは何をやっていることなのかを心で理解しているわけでもないのに、なんとなく「あそこがうまくいっている」ということを見ることで、自分も似たようなことを行動してみようという気が起きます。そうすると、個人学習が社会的に促進されます。それが動物の社会的促進学習なのです。

 しかし、基本的にはそこで終わりで、それが全て消えていってしまいます。つまり、非常にうまくいっている行動は、世代を超えて子どもたちや孫にも伝えられるのですが、伝えるということでいっぱいいっぱいで、蓄積してもっと良いものになったりはしません。

 しかし、それができるのは人間なのです。例えば、最初に石器を作った人がそのやり方を教えたかどうかは別として、人間には心があることが分かっているし、目的があるということも理解している者同士ということで、あることをやってうまくいくものを作ったから「こういうふうにやればいいんだ」と他の人間に伝えると、そのことが次の世代にも伝わります。そうすると、改めて試行錯誤する必要がなく、すぐにそれを作ることができるので、その類型ができます。さらに、そうすると空いた時間で、もう少し良くするにはどうしたら良いかを考えます。まず矢じりを作り、次の機会には木の柄に付けることのできる矢じりを作る、ということなどがそうです。

 それを次の世代が習うと、今度は歯太にし、ひもを付けて投げようとするなど、次第に蓄積的に発展できます。しかも、それが非常に速い速度でできるのが人間の文化の特徴なのです。


●言葉より先に、人間は心への働きかけを行い始めた


松尾 それと言葉は関係しているのでしょうか。

長谷川 言葉は、最初に何か行為ができるようになる際には、あってもなくても良いものだと思います。それより先に心というものがあり、お互いに心が何らかの世界に対して働きかけようとします。自分自身がもっと良くできたら楽しいと思うから、「あの...

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