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中国封じ込め戦略を進めるアメリカの目的は達せられるか?

米中対立の行方をどう読むか(3)アメリカにとって不利な条件

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
情報・テキスト
今後も中国に対するアメリカの封じ込め戦略は続くと思われるが、アメリカもまた打撃を受けるだろう。それは、アメリカにとって不利な条件が三つあるからだという。その条件とは。(全7話中第3話)
時間:07:52
収録日:2018/12/25
追加日:2019/05/24
カテゴリー:
キーワード:
≪全文≫

●中国に対する封じ込め戦略は今後も続くがアメリカも打撃を受ける


中西 端的にいって、今のトランプ政権によって始まった中国包囲戦略、中国封じ込め戦略と呼べるようなものが、一つの戦略として今後も続けられることは間違いないと思います。ですから、どこかで妥協して、それで手打ちをして一件落着、または以前のオバマ時代の米中関係、あるいはそれ以前の米中蜜月とまではいかないけれども、普通の関係に戻ることはないと思います、アメリカはここまで意思表示をしているわけですから。

 しかし、この政策を続ければ、アメリカにとっても相当の返り血を浴びることは確かです。アメリカにとって何が利益なのでしょうか。中国経済を追い詰めていって、自分がお山の大将で唯一の覇権国だという地位を安泰なものにすることが目的なのでしょうか。それが目的だったら、その目的は達せられないと思います。

 なぜか。アメリカは経済力において、軍事力において、それから技術力において、中国よりもまだまだ大きい、中国をはるかにしのぐ力を依然として持っています。そこは間違いありません。
 ただ、アメリカにとって不利な条件が三つあります。


●中国封じ込めには、アメリカと同盟国の親密な関係が必要


中西 まず一つ目についてお話しします。

 中国を本当に封じ込めようとするには、同盟国とアメリカとの関係がもっと緊密でなければならないし、一体でなければなりません。米ソの冷戦の時、ソ連のような小さな脅威でさえ、アメリカは打倒するのにNATO同盟、日米安保同盟、ANZUS(Australia, New Zealand, United States Security Treaty、太平洋安全保障条約)など、あらゆる同盟国との緊密な関係があってようやく封じ込められたわけです。

 ところが今のアメリカには、同盟国をこれ以上、優遇する余裕はありません。トランプ外交のせいだけではなく、基本的なベクトルとして、同盟国はむしろ重荷だとか、同盟国こそが問題だとか、そのような暴言を含めれば、トランプ政権は、私にいわせれば本当にアメリカファーストで、そしてジョージ・ワシントン初代大統領の訣別(辞任)演説におけるアメリカ国家の理想からいえば、トランプ大統領は理想の通り動いているわけです。

 つまり、海外に米軍を駐留させ、海外の戦争や外交に介入することはアメリカの自由をむしばむということです。アメリカがローマ帝国のような抑圧国家になるということは建国の父の理念ではないということです。不思議なことにトランプ大統領と建国の理念とが合うのです。

 ですから、アメリカが同盟国とどこまで協調、協力できるかが今のアメリカの対中新戦略の成否を占う第一の要件です。今のアメリカの外交方針が続く限り、アメリカは負けます。簡単に同盟国との間を分断されます。中国外交は合従連衡で、敵の同盟関係を分断していくことは2000年以上の歴史ある戦略文化ですから、同盟国との関係が必ずアメリカにとって非常に難しいものになります。そこが一つの要件です。


●中国の経済力はアメリカが簡単には制御できない


中西 二つ目は、中国の経済力、特に外貨保有量です。それから人民元をいかに国際通貨にするかに対する、ものすごく強い執念、コミットメントが、国家的に中国共産党の大目標としてあるわけです。したがって、「一帯一路」とか、あるいは「中華民族の復興」とか、「中国の夢」とか、新しいイデオロギーはもはや共産主義とは関係ないのです。

 私にいわせれば、中国共産党はなぜ必要か、なぜ支持されているかというと、これはアメリカの覇権に対抗するには一番効率がいいからです。中国は共産主義でなければ、共産党独裁でなければ、アメリカの覇権に対抗できないのです。民主化したら、一手にアメリカに踏みつぶされ、もみくちゃにされてしまうでしょう。そのような意識が中国の指導者、あるいは国民の中には深く根付いていますから、アメリカは中国の共産党体制をそんなに簡単には崩すことができないと思います。

 それは別にして、いずれにしても、市場経済のシステムでここまで経済力をつけて強大化した中国は、とりわけアメリカ一国がしゃかりきになってもつぶせるような相手ではありません。もっといえば、やはりお金の力が大きいのです。これでもって、アメリカの国内に大量のチャイナマネー利権等が植え付けられています。ソ連との冷戦を始めた時にアメリカ社会の内部でソ連が持っていた影響力とはまるで違います。アメリカの民主主義は対中戦略において脆弱で、非常に不安定な要因として働くと間違いなくいえると思います。

 非常に平たくいえば、21世紀はマネーパワーの時代です。ミリタリーパワーよりもマネーパワーです。ソ連は無い袖は振れなかったわけですが、中国には長い袖があります。これはアメリカが考えている...
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