●心理学は通常、専門分野のテーマのみを扱う
行動分析学の基本というのは、行動の説明に心の概念を使いません。そして、ABC分析の他にもAB分析というのもあるのですが、今日はABC分析のお話だけをしています。行動と環境の関係性から仮説をつくって、実験をし、検証していくというところは同じです。このシリーズでは「なぜ、部屋が片付けられないのか」についてのお話をしていますが、人間の行動のほとんど全てに同じアプロ―チが用いられています。ここがまた行動分析学という心理学の面白いところでもあります。
さて、心理学と聞くといろいろな心理学を思い浮かべる方が多いと思います。一般によく知られているのは、カウンセリングのようにしていろいろ心の問題を抱えたときに、それを相談したり治療の支援をしてもらったりといったカウンセラーの仕事が、世の中ではよく知られています。さらに、他にもいろいろな心理学があります。
現在の心理学は、その研究者が興味を持っているトピックによって分かれています。例えば、子育てについて関心のある人が発達心理学をやってみたり、犯罪に興味のある人が犯罪心理学をやってみたり、それから、青少年の発達に興味のある人が青年心理学をやってみたり、あるいは、もっと脳のメカニズムに興味のある人が、大脳生理について研究したりと、いろいろな分野に分かれているのです。
さまざまな分野に分かれていて、それぞれの先生がそれぞれの理論をもっていろいろな研究をされています。なので、心理学の学会というのはどちらかというと1つのテーマで1つの学会というように出来上がっています。ですから、例えば先ほど申し上げたような犯罪の心理学の学会に行くと、テーマは全部犯罪の話になります。発達心理学の学会に行くと、赤ちゃんの話だとか子どもの発達の話になり、あるいは、今は「ゆりかごから墓場まで」といわれますから、お年寄りの心理学についてもやることがあります。ですが、心理学ごとにそれぞれのテーマに分かれているために、お互いに同じような学会で話をするようなことがないのです。
●行動分析学はABC分析で多岐にわたるテーマにアプローチする
ところが、行動分析学の学会の面白いところは、前回お話ししたようなABC分析を、例えば動物の行動と関連付けたりする点にあります。愛犬がほえてほえてしょうがない。どうすれば静かに暮らせるだろうか、ということを取り上げたりします。または、自閉症という発達障害を持ったお子さんが、自分から親御さんに話をできるようにするにはどうしたらいいだろうかということで、そのための言葉を学習させる上でのプログラムを考えてみるということもします。
その他にも、自動車事故が多い街で事故を減らすためにはどうしたら良いだろうか。また、スポーツ選手が記録を更新するために新しいフォームで走ることを教えるためにはどういう指導法が役立つだろうか。あるいは、ものづくりをしている会社で、どうすれば生産性を高めることができるだろうか、とか。
このようにして、行動分析学は、いろいろな人たちのいろいろな行動について、全く同じような方法論で分析して仮説をつくり、実験をして検証していくということをしている学問なのです。ですから、同じ学会に行っても、いろいろなことに興味を持っている人たちが同じような方法論でアプローチをしているので、さまざまなことについて一緒にディスカッションできるという点が非常に面白い学会になっています。
●「解決したい問題の時空間分析」
そのことをご説明したいので、スライドをご覧ください。
このスライドは私がよく授業で使っているものなのですが、「解決したい問題の時空間分析」と呼んでいます。受講生には、「今、自分が解決したいと思っている問題をできるだけたくさん書き出してください」と言って、大体3分くらいかけて紙に書き出してもらいます。先ほどの片付けの問題とか、子育ての問題、貯金の問題、恋愛のこと、ダイエットのことなどいろいろなことを書き出してもらいます。
その後に、この時空間分析のスライドを見せて、自分が解決したい問題がどこに当てはまるのかということを考えて、丸を書いてもらっています。
横軸は時間です。今すぐに解決したい問題なのか、明日解決したい問題なのか、1週間くらい、あるいは1カ月後、1年後、5年後、10年後、もしかしたら千年かけても解決したい問題なのか、というような時間的な展望になります。
縦軸は空間と書いてありますが、一番近いところは「自分」ですね。自分が解決したいと思っている自分の問題で、例えばダイエットなどはここに入ってくると思います。友だちとの関係性、家族の問題なのか、あるいは学校や会社にあるような...