●フェイクニュースを簡単に覆すことはできない
小宮山 だから、「知識の爆発」、という中で、「どうやってみんながだいたいの全体像を共有するか」、というのは非常に難しい。というのは、今のドナルド・トランプさんが一番有名ですけど、都合の悪いことは、「フェイクニュース」、だといいますよね。「フェイクだ」と。あれってなかなか覆すのは難しいのです。
もともと、「実存するというのはどういうことなのだろうか」、ということは哲学的には大変な議論なわけですよ。「見えたら、あるのか」、というような議論をしていたわけですけど、それよりもはるかに難しい話になってきていて、特に最近は、「記憶というものは曖昧だ」ということがハッキリしてきましたよね。いろいろ上手にあとからインプットすると、「まるで自分が経験したかのように感じてしまう」、というのが分かってきたことですよ。だから、「記憶というのは必ずしもあてにならない」、ということまで分かってきています。
「物が存在するのはどういうことか」、というレベルからですね、「では中国の人口はいったい今は何人なのか」。何人なのかは決まっているのだけど、「本当にそうか」と言われたら、困るという状況がある。だから、「あれはフェイクだ」と言うと、「いや絶対に違う」、というのは、言いにくい時代に入ってきているわけですよね。
●知的耳学問によって知識を検証可能にする
小宮山 じゃ、その時にどうするか。先ほど申し上げたように、「その分野のことは一番この人が知っているだろう」、といういわゆる「知的耳学問」、を積み重ねる、ということが少なくとも不可欠なんじゃないですかね。だから、グーグルだけではダメなんですよ。
―― 知的耳学問で、しかも頼りになる人を1人ないし2人知っている、と。検証できるくらいの部分がある、ということが必要ということですね。
小宮山 少なくともそういう人が100人必要です。
●テンミニッツTVは知的耳学問をデジタル化するイノベーションである
―― ジャンルがいっぱいありますから確かにそうですよね。そういう意味では、先生がお作りになったテンミニッツTVの仕組みって、知的耳学問をやるためのデジタルと構造化のシステムとしては、かなり上手くできている、と。
小宮山 そうですね。上手くできていると思いますよ。だけど、「あれっ」、と思うようなものはやはり、さっき申し上げたように、その分野の識者、医療関係であれば、「堀江重郎先生と永井良三先生にみてもらえ」というような意味で、編集の仕組みは、われわれの責任だから、その仕組みはもう少し上手に作っていく必要があるような気がしますね。
―― この知識の爆発の時代の、編集の仕組みって、今までと全く違ったやり方ですよね。ここの検証の仕方って、だれも今までやったことがないので、これってものすごく新しいイノベーションですよね。
●分野の違う専門家の知識が集まる運営委員会を作る
小宮山 そうですね。それこそ、情報技術と、人の技術を融合させた新しいやり方が不可欠なのではないか。だから今、私と曽根泰教先生(慶應大学名誉教授)と数人で、監修をやってるんだけど、とても全体のカバーは無理です。「小宮山に聞いたら、エネルギーのことは何でも分かる」、というふうに思われても迷惑です。エネルギーといっても、凄まじく幅が広いわけですから。
ただ、私はエネルギーに関してだったら、「エネルギーのプロセスだったら、山田興一先生(東京大学総長室顧問)に聞けば、だいたい正しそうだ」、とかですね。最先端の、再生可能エネルギーについての、世の中の動きみたいなことだったら、エイモリー・ロビンス氏(自然エネルギー財団理事)というような方がいるのですが、「彼に聞いたらいいだろう」、とか。「温暖化と関係する話だったら、住明正先生(東京大学名誉教授)のほうがいいんじゃないか」、とかですね。やはり何人か知っていますよ。
そういう人たちがディスカッションして、なおかつ私と曽根先生などが監修する。いわゆるステアリングコミッティ(運営委員会)みたいなものですから、そこは分野が違うところで、要するに「素人が専門家の領域を本気で議論する」、ここが重要です。
―― なるほど。素人が専門家の領域を本気で議論する、と。
●専門分野が持つ「前提」を疑うべき
小宮山 本気で議論する。それは、例えば、いい例は、「地震に対して、道路や高速道路はどうだろう」、という議論があります。1994年にロサンゼルス市ノースリッジで地震が起きました。これはロサンゼルス地震と呼ばれ、阪神淡路大震災の1年前に起きた大きな地震です。
あの時、日本の土木の関係者たちは、「あれは日本では絶対大丈夫だ」と私に言った。ものすごく鮮明に記憶している。その一...