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自分は何をすべきか、この会社はどうあるべきかを考え抜く

海外M&A成功の条件(3)不可欠な「情」「理」「伝統」

情報・テキスト
「何のために、ものを作っているのか」「何のために、われわれはこの会社にいるのか」。それは、M&Aにおいても重要な要素であるという。むしろ、異文化のものを統合するプロセスだからこそ、それをきちんとつめていくことが重要になるのだ。そのためには、ウィットに飛んだ「情」、経理システムなどの制度を確立する「理」、そして「伝統」をうまく伝達する熱意と工夫が重要になるのである。(全5話中第3話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:15:52
収録日:2019/07/02
追加日:2019/09/10
キーワード:
≪全文≫

●買収に必要なシグネチャ・プロセス


神藏 欧米のM&Aは非常に難しくて、特にオペレーションレベルになると日本人が入っていっても、アメリカ人経営者を立てながらやらないと、うまく行きません。任天堂の米国法人も、任天堂(元社長の山内溥さん)の娘婿の荒川實さんがやった会社ではあるけれども、中的にはハワード・リンカーンの会社だという態度をとった。一時期まで任天堂は日本の会社ではなく、アメリカの会社だと全員が思っていました。似たやり方かもしれません。

谷口 確かにそうですね。買収した後で、「ビジネスモデルがまずい」という中で、ハイボールを広めたい、市場を広げたいというとき、ビジネスモデルを変えるために始めたのがサントリー大学だったと思うのです。ケンタッキー州の蒸留所などからビームの人たちを集め、お酒をつくっている人から、サントリーの創業精神みたいなものを学んでもらう。やはりそれをしないと、わからないと思います。ただ「やってみなはれ」と言われただけで、価値観としてきちんと理解していなければ、やれないはずです。そうした歴史やレガシーを理解するところから始めたのです。

 ネスレもM&Aをうまくやってきた企業で、やはり買収したら3カ月以内にスイスのヴヴェイにある本社に呼ぶそうです。そこでネスレの歴史やレガシーみたいなものを伝える。

 それは、ダイナミック・ケイパビリティという話でいえば、シグネチャ・プロセスと呼んでいます。シグネチャ、つまり署名や看板のいう意味です。看板メニューは、シグネチャ・ディッシュといった話になってくるわけで、その企業ならではのものです。

 サントリーなら鳥井さんがいて、佐治さんがいて、という中で生まれてきたカルチャーをわからせる。それを知ったうえで行動させる。だから新浪社長も、佐治会長とマンツーマンで話をする時間を取ることで、まずは業界や会社の歴史を理解したと、そんな話をされていました。それをトップで終わらせず、現場にもきちんと浸透させる。これが大事なのだと思います。

神藏 サントリーの山崎蒸留所の部隊を投入して、ジムビームをハイボールにする飲み方を提唱したり、業務用の営業部隊として、さして英語をしゃべれない人たちを投入したりして店舗営業をさせる。飲食店を回らせる。その様子を見せる。自分たちの持っている強みをどういうかたちでケンタッキーに持ち込めばいいのか、それを非常によくわかっています。

谷口 それこそ「やってみなはれ」なのでしょう。ホンダが(バイクの)カブを売るときもそうで、大学をカブで走って宣伝した。当時はリソースがなく、人員も足らない。広告費も掛けられない。そこで大学の構内をみんなでカブに乗って走った。それを見た学生が「あれは何だ」「面白い」と反応して広まっていった。リソースがあるからうまくいく、というものではありません。シグネチャ・プロセスを理解して、これを世界に広めたいという気持ちでモチベートされている人たちが、やることなのかな、と思います。

神藏 気持ちでモチベートされている人たちが行動する。そこにあるビジョンのようなものを共有するのが大事なのですね、経営には。

谷口 そうでなければ、「何のために、ものを作っているんだ」「何のために、われわれはこの会社にいるのだろう」ということが理解できなかったら、意味がないわけですよね。

 ビームの元々とのビジネスモデルは、そうでした。「ものを作って売っている」。だからサントリーに対して、「世界に出たいんだろう、お前ら。それなら、俺らのものを売ってやる。俺らの市場に任せとけ」というスタンスでした。歴史的にも、上から目線で彼らは勝負してきたわけです。そういう上から目線に対して、ガツンとやっていくところが面白かったです。

神藏 日本人でできる人は、なかなかいません。「ケンカをしてはいけない」という風土ですから。

谷口「みんな仲良く」という世界ですから。だからお人よしで空気を読んで、周りのことを気にしてしまう。「潰してはいけない」「思いきったリストラはできない」という思いで、中途半端に「リストラしたふり」をしてきた人が多いのではないでしょうか。

神藏 海外に出たら、勝ってきた連中はキツネやタヌキ、ヘビ、サソリといった悪いヤツだらけです。その中で勝ち抜くには、今までの日本人にないファクターを持った人を当てていかないと難しい。

谷口 そのあたりを、どう戦えばいいのかは僕もわかりませんが、ただ多分、一つ言えるのは、育てられるものではないということです。そういう猛獣になるには、自分で育つしかない。

神藏 自ら「猛獣になりたい」と思わないと。

谷口「ケンカの強いやつになりたい」と思わなければ駄目だと思います。


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