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中国型とアメリカ型グローバル化の衝突が米中貿易摩擦の真相

グローバル化のトリレンマ(2)米中問題とデカップリング

伊藤元重
東京大学名誉教授
情報・テキスト
グローバル社会において唯一、国家主権を打ち出しながら成長してきたのが中国だろう。20年間で貿易を10倍に拡大した中国は、それゆえアメリカに代表される西欧社会との軋轢を生じている。米中貿易摩擦は、単なる関税の問題よりはるかに根が深い。(全2話中第2話)
時間:10:27
収録日:2019/10/31
追加日:2019/12/18
カテゴリー:
≪全文≫

●国家主権主導型グローバル化を果たした中国


 もう一つ申し上げたいのは、中国についてです。中国で何が起きているかというと、中国はいわゆる国家主権を非常に重要視しています。そして、デモクラシーについては、アメリカのような意味でのデモクラシーではありません。

 あえて非常に乱暴な言い方をするならば、デモクラシーについては軽視していて、必要とあれば、時にはそれを抑え込むこともやる政府です。そのようななかで、中国はグローバル化を熱心に進めてきました。国家主権を前面に出しながらグローバル化を進めてきて、現在の中国の経済や国家戦略があるわけです。

 国家主権を前に押しながら国際化を進めてきた中国と、例えばデモクラシーやポピュリズムのようなものがどんどん大きくなっていくなかでグローバル化を進めてきたアメリカ。この二つの違ったグローバル化がぶつかることによって、グローバル化された世界はある種のつじつまが合うかたちでうまくいくのだろうか。多くの人は、この点について懐疑的な見方をしています。


●20年間で10倍になった中国の輸出をWTOは容認できるか


 一番分かりやすいのはWTOが提唱している国際貿易体制です。2001年に中国はWTOに加盟して、その結果としてどんどん成長していくわけです。2001年に中国が加盟した時には、中国のGDPは1.3兆ドルぐらいだったと記憶しています。その1.3兆ドルという金額に比例したかたちで、貿易がありました。

 約20年たった現在、中国のGDPは約13兆ドルということで、約10倍にふくれ上がっています。ふくれ上がっていくなかで、中国はどんどん輸出が増えている。結果的に中国の輸出が各国の経済にも非常に大きな影響を及ぼしています。したがって、約20年前に中国がWTOに入ってくる時と比べるとWTOの中身がかなり変わってきていて、簡単に言うと、このなかで中国がどんどん輸出をしていくような状況を、もはやアメリカが容認できないようになってきているのです。

 そういうなかで、中国型の資本主義によるグローバル化と、アメリカ型のグローバル化が、真っ向からぶつかり始めたわけです。それが、今の米中貿易摩擦の真相だろうと思います。


●各所で火を吹く中国批判は本質的な問題


 もちろんトランプ大統領の始めた米中貿易戦争というのは、あくまでも中国に輸入をもっと減らさせる、あるいは中国がアメリカからの輸入をもっと増やすということで、そのために関税から交渉を始めました。いったんそうなると、パンドラの箱を開いたときのように、今やアメリカは共和党から民主党まで、右から左までこぞって中国批判をしています。

 その中国批判というのは、中国の国家が介入したかたちでの為替操作や、知的財産に対する中国の(アメリカから見たときの)アンフェアなやり方です。あるいは中国の国内経済が非常に閉鎖的で、投資に関しても非常に厳しい制約があるなかで、中国は外ではやり放題だというのは、認められないということだろうと思います。

 これらはトランプ大統領が仕掛けた米中貿易戦争ではなく、もう少し長期化するだろうと思われている米中の対立の話で、アメリカのグローバルにおける覇権の問題でもあります。

 いろいろな会議に行った時に、みんながなんとなく気軽に話をしているお酒の席などでは、「これが中国の経済的拡大をつぶす最後のチャンスだ」というような言い方をするアメリカの人もいて、中国の急速な成長に対してアメリカはそれぐらい脅威を感じているというかたちです。

 これがどういうように収まるのか、あるいは収まらないのか。今後のグローバル社会を考える上では、おそらくそれが非常に重要なポイントになってくるのだろうと思います。


●将来に見えてきた「デカップリング」という方法


 多分これは、トランプ政権の今の貿易戦争の話とは違うと思います。マーケットは、米中の貿易摩擦がどこかで決着するのではないだろうかという見通しを見ながら、株価を上げたり下げたりしています。実際にあるところで決着がつく可能性は十分あるわけです。

 ただ、仮に決着がついたとしても、それはあくまでも関税とか輸出入の話であって、ここで私が取り上げているような、国家覇権の問題や知財の問題、経済体制の問題などは、今後ずっと尾を引いてくるだろうと思います。

 したがって、今年(2019年)や来年(2020年)の話というよりももうちょっと中期の話かもしれませんが、一つ気になることを申し上げたいと思います。これは、最近の国際会議などの席上でジャーナリストや研究者が言い始めていることです。彼らは「デカップリング」という言葉を用いて、二分していく動きがこれから広がっていくかもしれないと言い始めています。

 例えばファーウェイという、中国の大変競争力のある通信会社があ...
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