●オリンピックを持続可能社会のショーウィンドウに
次はオリンピックです。オリンピックの意味をよく考えてみる必要があります。もちろんスポーツの祭典であるわけですが、世界平和のためであるし、時代によっては人権の向上のためでありました。今はどうなってきているかというと、「持続可能社会」ということが明確にオリンピックの目的になってきています。そうしたなかで東京オリンピックをどういうものにするか。これは極めて重要な問いだと思います。
私は大会組織委員会の下にある委員会(「街づくり・持続可能性委員会」)の委員長をしているのですが、われわれの間で議論しているのは、「オリンピックを持続可能社会のショーウィンドウにしよう」ということを提案しています。
●持続可能社会を具体的な形で示すさまざまな試み
これはどういう意味かというと、持続可能社会というのもいろいろな観点から言う人がいて、何なのかということがなかなか分かりにくいところがあるのです。これを具体的なアイテムで見せよう。その全体を見てみると、「なるほど、持続というのはそういうことなんだ」ということが分かってくるんじゃないか。そういった意味でのショーウィンドウにしよう、ということを委員の先生方と話していて、ある程度そういう方向に来ています。
例えば、金・銀・銅のメダルは市民が供出したスマホやパソコンなど、そういった家電から回収した金、銀、銅でつくられます。それから、たくさん競技場が建設されますけれども、その建設に使われる鉄鋼の77パーセントは再生鉄です。これはスクラップを溶かしてつくる鉄のことですが、その再生鉄によってつくられるということです。
何が言いたいかというと、都市鉱山というものが21世紀の主力になるということです。21世紀は都市鉱山による循環社会、金属の循環社会というものになるということです。それはいいことで、それを象徴的に示すのがメダルであるし、競技場であるといえます。それから聖火もオリンピックならではの象徴の1つですが、そこで燃える火(炎)は再生可能エネルギー、具体的には福島の太陽光発電でつくった水素を使うということが、おそらく実現すると思います。
これは、要するに21世紀は再生可能エネルギーの時代になるということの象徴で、持続可能社会とはそういうものだということの象徴です。またプラスチックですが、これについては社会にとって非常に重要な問題になっています。100セットほどの表彰台をつくるのに、大量のプラスチックが必要になるのですが、ここには廃プラスチック、海洋のマイクロプラスチックを含めた廃プラスチックを使います。これもプラスチックというものをどのようにしていくか、ということの具体的な形の1つです。
●美しい環境を取り戻した東京の川をアピールする
それから、これはオリンピックの中でどう進めようかと話をしているのですが、実は日本がきれいな環境を取り戻した、ということです。空を見れば一目瞭然なのですが、川もきれいになっています。川は海に注ぎ込みますし、川から注ぎ込む水がきれいになったから海も非常にきれいになってきているのです。これを象徴することとして、ぜひ東京湾で取れた魚のお寿司を来た人たちに食べていただくということです。
それから、これは皆、半分冗談だと思っているのですが、私は冗談で言っているわけではありません。東京の川は一時、隅田川で花火が中止になったくらい汚れていて、匂いも非常にひどい状況だったのですが、現在、東京を流れる大きな川、江戸川から多摩川まで、たくさんアユが遡上するくらいきれいになっています。アユというのは基本的にきれいな水にしか住めませんから、そこまで回復してきているのです。だから、実現するかどうかは分かりませんが、多摩川でアユ釣り大会をやろうということを、私は提案しています。
●自然と科学技術の融合を具現化した新国立競技場
その他、オリンピックの競技場で、隈研吾さんが設計された新国立競技場ですが、そこはいわば自然をものすごくうまく利用しています。緑を多く植えてあり、木をたくさん使っているということもあるのですが、それだけではありません。風がどのように吹いてくるか、という気象のビッグデータを使って、どういった開口部と内部の構造にすれば、外からの風がうまく中を吹き抜けるかという、いわば日本の文化でいう「風道」というものに関する取り組みも、あのスケールで実は行っているのです。
これは自然と人間とを最先端の科学技術で結びつけるということで、私たちは「日本文化の集大成だ」という言い方をしているのですが、今の話も上手に説明すれば持続可能社会というものの1つの具体的な形なのです。
それからまだたくさんあります。いろいろなハンディ...